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第31章 第5話

「絶対勝つよ! 見てろよ桂小路! 見ててよお母さん! お兄ちゃんと礼名がひとつになったら、巨大化した怪人だって帝国軍の宇宙要塞が攻めてきたって愛のビームでぶっ飛ばしちゃうんだからねっ!」


 お墓からの帰り道、威勢のいい言葉を縦横無尽に飛ばしまくる礼名。

 バス停へ向かう道は桜が咲き乱れ、ああ、春が来たんだと実感する。


「礼名と一緒だと力強いな。ところでさ……」

「なあにお兄ちゃん? 今からお花見でもする? 桜がすっごい綺麗だよ! 来るときには気かつかなかったけど咲き狂ってるよ!」

「そうだな。僕も走って来たから全然見てない」


 そうして、ふたりは桜を見上げながらゆっくり歩いて行く。


「あ、そうだ! 今日からはダーリンって呼んでいい? それとも名前で「悠也さん(はあと)」がいい?」

「……今まで通りお兄ちゃん、で」

「もう桜の花弁はなびらみたいに照れちゃって! でもさ、これでお兄ちゃんは礼名のお兄ちゃんであって恋人であって婚約者であってプロデューサーさんになったんだねっ!」

「最後のは何の役だ?」

「愛し合うふたりの長い夜をプロデュースするんだよ!」


 礼名はとてもご機嫌だ。

 僕は少し気になったことを口にする。


「ところでさ、よくここで桂小路に出会うよな。頻繁に来てるのかな?」

「ああ、多分違うよ。情報が漏れてると思うんだ、桂小路に」

「ええっ?」


 彼女の推測だと、例の探偵社によって年末頃から僕らは見張られていて、その情報が桂小路に流れているのじゃないか、と言う。


「だってさ、先週お供えしたお花そのままだったでしょ? お墓だってお掃除された形跡なかったし、しかも桂小路は背広で手ぶらだよ! きっとお兄ちゃんがここに向かったのを知って車で乗り付けてきたんだよ。わたしたちは電車で遠回りしないといけないからね」


 なるほど、言われてみると筋は通る。

 しかし、探偵社まで使って僕らの生活を監視するとは。

 そこまでするか?

 そう言えば、正月に会った一石おじさんは一本柳や七瀬と言った名家からの縁談打診が桂小路に来ていると言った。だったら礼名の身辺調査がされても不思議はない。その辺も関係しているのか?


「何だか常に見張られてるなんて気分悪いな」

「そうだよ、これが桂小路のやり方だよ! 礼名も、そしてお母さんも大嫌いだった桂小路のやり方だよ! だけど礼名は負けないよ! 絶対桂小路に勝って勝って勝ちまくって、そして……」


          * * *


 家に帰るや食卓を見て礼名が大きな声を上げる。


「うわっ、どうしたの? 婚姻届が載ってるじゃない! 今からサイン会が開催されるのっ?」


 礼名が見入っているのは額縁に入った白紙の婚姻届。


「いや、朝、柱を殴ったら頭の上に落ちてきてさ……」

「えっ、お兄ちゃんの頭に? 大丈夫?」

「あ、うん。全然大丈夫」

「もう、柱は殴っちゃダメだよ。だけどさ、それってお母さんが早くサインしなさいって怒って落としたんだと思うよ」


 冗談半分で笑う礼名に僕は真顔で答える。


「そうかもな」


 そうして婚姻届を額縁から取り出すと署名欄にサインを入れた。


「やったねっ! はい、ハンコもあるよ」


 嬉しそうにハンコに朱肉を付ける礼名。

 僕が捺印を終えると次は礼名の番だった。

 彼女はそのしなやかな手でサラサラとペンを走らせる。


「お兄ちゃんありがとう! これは桂小路を叩きのめすまで、また飾っておこうね!」


 署名欄だけが埋められた婚姻届がまた額に納められる。

 それはもう迷わないという僕の意志、そして礼名の気持ち。

 額縁を元の壁にかけ直すと時計の針は夕方六時を回っていた。


「じゃあ今晩はスパゲティだよ。準備するから待っててねっ!」


 帰りが遅くなったのは、墓参りの後に礼名のたっての希望で遠回りをして帰ってきたからだ。僕は自分の部屋に戻ると服を着替える。


 あの後。

 桂小路に啖呵を切った両親の墓参りの後、礼名は思いも寄らぬことを言い出した。


「お兄ちゃんは、お義母かあさんのお墓へは行ったことがあるの?」

「お母さんって、今行ったばかりじゃ」

「違うよ、お兄ちゃんを産んでくれたお母さんだよ」


 探偵社の報告書には僕の実の母の名も出ていた。

 仁科紫織にしなしおり、それは会ったことのない実の母の名。


「ああ、一度だけ行ったことがある」

「ねえ、わたしをそこに連れてって!」

「凄く遠いぞ」

「でも、行きたい」

「分かった。だけど……」


 だけど。


 僕の心の迷いが目を覚ます。


「礼名は本当に僕でいいのか? 礼名には大友の御曹司や一本柳いっぽんやなぎ七瀬ななせと言った名家が声を掛けてくれてるんだよ。元々僕は身寄りのない孤児で……」

「家柄とかお金は関係ないよ。礼名はお兄ちゃんが好きなんだよ!」


「礼名はまだ16歳、これからたくさんの出会いが待っていると思うんだ。その中には僕なんかよりもっと……」

「いないよ!!」


「そんなの分からないじゃないか?」

「分かるよ!!」


「だけど……」


「ねえ、好きな気持ちって相性とか条件とかルックスとか、そんなので決まるのかな? 礼名は違うと思うんだ。好きな気持ちは大切に育てていくんじゃないかな。そしてそれは礼名の意思なんだ。礼名は小さい時からずっとお兄ちゃんを見てきたよ。お兄ちゃんが好きだってたくさんたくさん積み重ねてきたんだよ。これからもし何百何千の出会いがあっても絶対それは変わらない。だって礼名が決めたことだから」


 迷いない彼女の言葉に暫く僕は返す言葉を探したけど、こんなセリフしか出てこなかった。


「…………礼名は強いな」

「か弱い乙女だよ!」


 バスを乗り継ぎ三時間かけて辿り着いた実の母の墓。

 人気のない山の麓、お墓にはまだ色のある花が供えられていた。

 親類とかが参ってくれているのだろうか。


 礼名は母の、仁科紫織の墓にじっと手を合わせた。

 その後ろ姿に何故か僕の頬に一滴が流れた。



 第三十一章 完


 第三十一章 あとがき


 ご愛読ありがとうございます。神代悠也です。

 第三十一章・告白、いかがでしたか?


 って、恥ずかしいですよ、この章。

 ねえ作者さん、あとがき、もう終わりにしましょうよ!

 えっ、何ですか?

 最近始めた「作者に聞く」のコーナー?

 はいはい、作者に質問すりゃいいんですね。ではいきますよ。



 では、最初の質問です。

 僕たち、この先どうなるんですか? 桂小路には勝てますか?


「えっと、そう言う先読みの答えは出来ませんね。もっと、回答可能な、当たり障りのない質問にしてね」



 ……なんか、つまんないな。

 じゃあ、この話の読みどころはどこなんでしょう?

 あ、一応僕は主人公なんですけど、何だかよく分からないので。


「この話はラブコメです。コメディーです。コメディーなんです。だから笑って貰えれば、それが全てです」



 ……てえと、僕たちはお笑いのための道具、だと?


「そうですよ、今頃気がつきましたか? ヒロイン三人がお笑いトリオ。悠也くん、君は主人公と言うよりツッコミ役ですね。最近特にお笑い要素が少ないですけど、基本うけりゃいいんですよ、うけりゃ」



 ……何だか急激にやる気が失せてきました。次章ボイコットしてもいいっすか?


「ボイコットしたらオーキッドの売り上げ激減しますよ? 礼名ちゃんとも会えませんよ? 桂小路のズラが風で飛んでいきますよ!」



 じゃあ、勝手にズラ飛ばして下さい。

 最後に作者さん、ご愛読のお客さまに一言どうぞ。


「かあちゃん、ちょっとでいいから小遣い増やしてくれよお~っ!!」



 申し訳ありません。

 音声が乱れましたこと深くお詫び致します。

 それでは次章予告です。


 想いを確かめ合ったふたり。

 だけどウィッグの攻勢にオーキッドの経営は火の車に陥っていた。

 そんな苦境を脱するため、礼名はある作戦を実行する。

 そのあまりにXXな作戦に麻美華も綾音ちゃんも巻き込まれ……


 次章「悠也の焼き肉喰い放題な一日」も是非お楽しみに。

 ビーフに飢える神代悠也でした!


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