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第31章 第4話

 泣き笑うように微笑んだ礼名は、しかしすぐに僕の背後に視線を向けて歩き始めた。


「ウィッグ開店おめでとうございます。ウィッグのお陰で商店街も潤っています」


 皮肉めいた笑顔を浮かべる。

 一方の桂小路は突然の事に驚いているようだ。


「礼名はこいつに愛想あいそ尽かしたんじゃないのか?」

「愛想尽かす? どうしてです? お兄ちゃんに愛想尽かすって意味分かりません。兄妹の絆は切っても切れませんよ? それにお兄ちゃんはとっても素敵で優しくって、礼名の一番大切な人ですよ」


 その笑みに余裕さえ見せる礼名に桂小路は虚を突かれた風だ。


「こやつの不埒ふらちな交友調査報告を見てまだそんなことを言うのか?」

「はいっ? 交友調査報告? 何のことですか?」

「毎週送られて来てるであろう! こやつは私生児で礼名とは血の繋がりが無く、倉成のお嬢さまと恋仲で……」

「何を仰ってるのですか? お兄ちゃんはわたしのお兄ちゃんで、倉成さんとはクラスメイトですけど、それがどうかしましたか? そう言えば、最近差出人不明の郵便物がたくさん家に届くので開封せずにグチャグチャに揉んで破って燃やして捨てているんですよ。実はタチの悪いラブレターとかが多くて困ってるんです。だからそう言うものは未開封のまま破り捨てることにしてまして」


 微笑みながらも冷淡にそう語った礼名は墓の前に歩み寄る。


「お花を替えますね。桂小路さんもどうぞお参りくださいね」


 何事もなかったかのように仏花を取り替え桂小路に焼香を促す礼名。

 ギリリと歯ぎしりを立てていた桂小路だが、やがてあからさまに舌打ちすると礼名が用意した線香をあげた。


 合掌を終えた彼は振り向くと僕をめつける。


「あんなちっぽけな店すぐに潰れてしまうじゃろうが、また倉成に泣きつくのか?」

「泣きついたりしません! 誰があなたの店なんかに負けるもんですか!」

「じゃあ勝負じゃ。君たちの店の経営が成り立たなくなったらわしの勝ちじゃ。もちろん他からの金銭支援など受けるのは反則じゃ。その時点で君らの負けじゃぞ。どうじゃ。儂が勝ったらおとなしく儂の家に来るんじゃぞ!」


 ちらり礼名を見る。

 その力強い瞳に僕は迷いなく桂小路に対峙する。


「その代わり生活を続けられれば僕らの勝ちですね! 望むところです! 僕たちが勝ったら二度と礼名にちょっかいは出さないでくださいね!」

「よかろう。ふん、結果は分かっておるがな。せいぜい頑張るんじゃのう!」


 捨てゼリフを吐くと逃げるように去っていく桂小路。

 僕らは並んでその背中が見えなくなるまでじっと見ていた。


          * * *


 やがて。


「「ごめん(なさい)!!」」


 目が合った瞬間、ふたり同時に頭を下げた。


「どこから聞いてたんだ?」

「えっと、お墓に行こうとしたら桂小路が車から降りるのが見えたの。だから後ろを付けて……」


 聞いてたんだ!

 急に顔が熱くなる。

 目の前にたたずむ礼名の頬も赤く染まって。

 上目遣いに僕を見上げたその瞳は、恥ずかしそうに微笑んでいた。

 やおら、ふたりは焼香すると墓に手を合わせる。


「…………」

「…………」


 何十秒経っただろうか。

 僕が顔を上げると礼名は僕を見つめていた。


「礼名、これからもずっと一緒にいて欲しい」

「はい! 嬉しいです! ふつつか者ですがどうぞよろしくお願いします」


 僕はもう一度両親の墓に向き直る。


「お父さんお母さん、礼名を僕にください。絶対幸せにします」

 声に出して頭を下げると、礼名も並んで頭を下げた。


「…………」

「…………」


 やがて。

 彼女の瞳はシャンデリアに輝く宝石のように光に満ちて。

 その美しさは生涯忘れ得ないだろう。


「ねえ、お父さんとお母さんは何か言った?」


 少しはにかんで尋ねる礼名に、僕は恐らく期待はずれの言葉を返した。


「そのセリフは桂小路に勝ってから言え、だって!」


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