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第31章 第2話

 電車に揺られながら窓の外を眺める。


 礼名に会ったら何と言おう。

 言いたい言葉はある。

 だけどそれを言っていいのだろうか。

 礼名は心根の優しい子だ、きっと受け入れてくれるだろう。

 だけど、それで礼名は幸せになれる?

 この広い世界には僕なんかより礼名にふさわしい人がたくさんいるはずだ。

 そんな出会いを見守ること、彼女に正しい選択をさせること、それこそが兄である僕の役割ではなかったか……


 僕はそう思っていた、ついさっきまでは。

 だけど。


「礼名……」


 礼名がいないと胸が苦しい。

 礼名がいないと気が狂いそうだ。

 礼名がいないと……


 電車を降りるとバスに乗り換える。

 ふたり一緒だと短い時間が永遠のように長く感じられる。

 礼名には全てを話した。

 探偵社とやらの報告書には麻美華との密会も桜ノ宮さんと腕を組んで歩いていたことも全て語られていた。そこまで知って尚、礼名は僕を信じてくれていた。

 なのに、僕は……

 僕は……


 バスを降りる。

 急ぎ足で墓地への道を行く。

 平日の午前、僕以外に同じ道を歩む人はいない。

 丘へと向かう道沿いには桜が咲いている。

 早く墓地へ行かなくちゃ。

 気がつくと僕は駆けだしていた。


「はあはあはあ……」


 春の明るい日差しに両親の墓標が照らされていた。

 しかしそこに探し人の姿はなかった。

 墓地の水汲み場へ走る。

 墓地の周りを駆けて回る。

 しかし、礼名の姿はどこにもない……


「れいなあ~っ!」


 どこに行った?

 まさか!

 僕の脳裏に最悪のシナリオがよぎる。

 ぶるんぶるんと頭を振る。


 ここじゃない、だったら。


 桂小路の元へ行った?

 ふたりの生活が終焉を迎えた時、それはあり得る選択肢。

 だけど、きっと違う。

 礼名は桂小路をあんなに嫌っていたんだ。

 絶対に違う。


 だったら、松川のおばさんの家?

 松川のおばさんはふたりの秘密を知っている。

 だけど、やっぱり違う気がする。


 メイド喫茶・シルキードレス?

 有り得ない、あそこは午後三時開店だ。


 麻美華の家に殴り込み?

 ……あり得るかも。

 あり得るよ、礼名なら真相を確かめに行っても不思議じゃない。

 僕は慌てて携帯を取り出すと発信した。


「はい、倉成ですが」

「あっ、麻美華? 僕だよ、悠也だよ」

「お兄さま。どうしました?」

「いやその……」


 ちょっと待て。

 もし違ったら。

 礼名がいなくなったと麻美華が知ったら、大騒動になりそうだ。


「あのさ、今何してた?」

「ナニしてたって? お兄さまを想ってハアハアとか、ですか?」

「ちが~う! 友達と遊んでたとか勉強してたとか」

「ああ、そう言うことですね。お兄さまを想ってハアハアしてましたよ」

「ウソ付くな!」

「ウソじゃないですよ。ところで麻美華がお店を応援する件、まだ礼名ちゃんは認めてくれないんですか?」

「あ、うん。あいつ、こうと決めたら曲げないからね」

「でも、情に弱いところがあるでしょ? その辺をツンツンと突いたらあっは~んと承知してくれるかも?」

「なあ麻美華、周りには誰もいないのか? さっきからお下劣な発言を繰り返してるけど」

「たくさんいますよ。今、お花の発表会に来ているんです。麻美華の生けたお花が最優秀賞に選ばれまして、先生方に頭をなでなでされていたところなんです」

「ウソつくなよ」

「本当です。その表彰は終わって今は一段落したところですけどね」


 この様子だと麻美華のところにはいないようだ。


「それはおめでとう。じゃあ、また」

「あっ、ちょっと待ってください。いったい何の用だったんですか?」

「いやさ、元気かなって思って掛けてみたただけ」

「嬉しいですっ! お兄さまが麻美華を気に掛けて下さるなんてっ!」


 思わず愛想笑いを浮かべながら通話を終了。

 …………


 時計を見ると十時半を回っている。

 礼名はどこへ行ったんだ?

 アテはないけどともかく戻ろうか?

 そう思いながらもう一度父と母の墓を見る。


 先週来た時にささげた花はまだ色を保っていた。

 しかし、仏花も線香も持ってこないなんて僕も慌てたものだ。

 ともかく手を合わせよう。


 お父さんお母さん、ごめんなさい。

 礼名を悲しませてしまいました。

 僕はどうしたらいいんでしょう…… 


 ふと脳裏に蘇るのは、あの時、食用フォークを振りかざし僕に訴えかけた礼名の真剣な表情。


「お兄ちゃんと離れるくらいなら、わたしは今ここで自害する!」


 まさかそんなことは……

 手を合わせたまま色んな事を考える。


 そうして、何分が経っただろう。

 手を下ろして振り返った僕の目の前にそいつ・・・は立っていた。


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