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第31章 第1話

 第三十一章 告白



 次の朝、礼名がいなくなった。




  ひとりで出掛けます。

  ゆっくり休日を楽しんでください。

  ごめんなさい




 食卓にはそう書かれたメモ書きとサンドイッチが並んでいた。


「礼名っ!!」


 パジャマのまま家を飛び出した。

 商店街へ走る。

 慌てて大通り側へ戻る。

 だけど礼名はいない。


「はうっ!」


 落ち着け。

 落ち着かなきゃ。

 僕は家に戻り急いで着替えを済ませると、礼名の部屋へと入った。

 白い壁に掛けられた礼名のセーラー服、そしてタンスの上には白いくまのぬいぐるみ。

 綺麗に整理された女の子らしい部屋の中で僕の頭に蘇るのは昨晩の出来事。


 昨日の夜。


 漏れ聞こえる礼名の声に、ノックを忘れてドアを開ける。

 机に座る彼女は写真を見ていた。

 僕に気がつき慌てた彼女が落としたそれは僕と麻美華のツーショット写真。いつも学校帰りにふたりで寄った住宅街の公園での写真。


「これって……」


 慌てふためく礼名の手元には他にも写真が数枚。いずれも礼名に隠れて麻美華と会っていた時の写真のようだ。頭の中が真っ白になる。バレた! 全て礼名にバレた! どうしよう……


 しかし、混乱したのは僕だけじゃなかった。


「うわあっ~っ…… あっ、ああ~……」


 礼名は写真を体で覆い隠すように机に突っ伏す。しかし、その拍子にまた二枚の写真が床に舞い落ちる。麻美華が僕の腕を掴んでいるのは学校の屋上じゃないか!


「これって……」


 やがて。

 礼名は何かを観念したように。


「依頼者への報告ですとか言ってさ、探偵社を名乗るところからこんなのが来るようになったんだ…… わたし何も頼んでないのに! なのに勝手に……」

「僕と倉成さんの写真ばかり?」

「ううん、綾音先輩とのもあった。繁華街で一緒の写真とか」


 誕生プレゼントを買いに行った時のものか?

 尾行されていたのは気のせいじゃなかったんだ。それがこんな形で礼名の元に届いてたなんて。


 誰が?

 どうして?

 何のために?


 気まずい空気が部屋を支配する。


「礼名、これには色々事情が……」

「犯人は桂小路だよ。桂小路がわたしたちを引き裂こうと…………」


 それ以上の言葉は声にならなかった。

 礼名は力なく椅子に座ったままぽたぽたと頬から涙をこぼす。

 もう限界だ。

 打ち明けないと……


「礼名、実は僕たちは……」

「…………」


          * * *


 僕が全て語り終えると、礼名はぽつりぽつりと。


「じゃあ、お兄ちゃんは…… 麻美華先輩のお兄ちゃん…… ってこと?」

「……うん」

「どうして今まで黙ってたの?」

「……ごめん」

「お兄ちゃんと礼名、血の繋がりは無いかもって、覚悟は、して、いた、けど……」

「それは血の繋がりの話で、だけど礼名は僕の大切ないもうとで……」

「だったら! だったらどうして!!」


 礼名は赤く腫れたその大きな瞳を真っ直ぐに僕に向ける。


「どうしてこんな写真は作り物だよって、タチの悪いコラージュだよって言ってくれなかったの! こんなの単なるそっくりさんだよって否定してくれなかったの! わたし信じてなんかいなかったんだよ! 桂小路の手紙なんて何ひとつ信じてなかったんだよ! お兄ちゃんが麻美華先輩と仲良しでも、礼名のお兄ちゃんでいて欲しかったんだよっ!!」

「礼名…………」


「……お願い、ひとりにして」

「……」

「お願いっ!!」

「…………」


 目を背け震える声を絞り出す礼名に僕は何も言えなかった。


 昨日の夜がもう一度戻ってくれば。

 もう一度やり直せれば。

 だけど、そんなことを考えても、何も解決しない。

 礼名の部屋に差し込む朝日が僕を射貫く。

 捜さなきゃ。

 礼名を捜さなきゃ。


 礼名の机はきちんと整理されて昨日の写真は見当たらない。

 悪いと思いつつ引き出しを開ける。

 と、そこには彼女がラブレターだよと言い張っていた素っ気ない封筒と共に昨日の写真や探偵社の文書があった。

 文書は僕と麻美華を恋仲だと決めつけていた。しかも僕は綾音ちゃんと二股掛ける女たらしになっている。イヤと言うほどの証拠写真と共に。


 だけど文書はそれ以上のことは語ってはいなかった。


 時計の針は八時半を回っている。

 昨日の夜は眠れなくて、朝方まで起きていた。

 多分、礼名は全く寝てないんじゃないだろうか?

 色んな心配がよぎるけど、ともかく礼名を捜さなきゃ。


 階下に降りる。

 そこには綺麗な字のメモと、彼女が作ったサンドイッチ。

 こんな時にも礼名は僕のために食事を作ってくれて。


 礼名のいない朝。

 気が狂いそうだ。

 礼名はどこへ行った?

 礼名に会ったら何と言えばいい?


 財布と携帯を持つと礼名が作ってくれたサンドイッチに手を伸ばす。

 砂をむようだ。全く味を感じない。

 だけど礼名の優しさが染みてくる。


「くそっ!」


 わからない。

 ばしっ、と居間の柱を殴る。

 殴る。殴る。


 ドガッ!!


「あだっ!」


 頭に何かが落ちてきた。慌ててそれを抱きとめる。

 それは壁に掛けてあった額縁がくぶち

 昔、礼名がもらったピアノコンクールの賞状が入っていたそれには今、白紙の婚姻届が入っている。

 少し冷静になった僕の目に、父母の遺影が飛び込んでくる。


 ……

 行こう。

 礼名の行き先はあそこしかない。


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