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お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第三章 ふたりのお店は絶対負けません(そのいち)
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第3章 第7話

 肩で揃えた黒髪を揺らし、愛くるしく微笑む礼名。

 しかしその可憐な笑顔は、時に僕を困らせる。


「今夜のデザートはとっても豪華だよ。礼名特製だよ、期待してねっ!」

「デザートなんて贅沢品……」

「大丈夫だよ。今日はプリンが余っちゃったんだ。だから一緒に食べよっ!」


 溢れんばかりの笑顔を見せて、礼名は台所に立った。


「バチが当たりそうなくらい贅沢だな」

「そんなことないよ。よく考えてよ、今日は卵料理ばっかりなんだよ」

「言われてみれば……」

「ちなみに明日は茶碗蒸しだよっ」

「おっ、茶碗蒸しか!」

「へへっ、お兄ちゃん大好きだよね」


 茶碗蒸しも卵料理だけど。

 色々考えてくれてるんだな、礼名。


「はいっ、お待たせいたしましたっ! 礼名特製メイドさんプリンですっ!」


 礼名が運んできたのは大きめのお皿に載ったプリンふたつ。


「メイドさんプリンは、可愛いメイド絵師さんがプリンにお好きな絵をお描きしますっ」


 白いワンピに赤いリボン。

 可愛らしいカフェ・オーキッドの制服に身を包んだ、お店のナンバーワン・礼名が僕に向かって微笑みながら近づいてくる。


 どきっ!


 言葉が出ない。


 すっきりくびれたウエストから女性らしい曲線を描いて膨らんでいく形の良さそうな彼女の胸が、近い近い!


「何をお描きしましょうか? お勧めは国民的うさぎキャラとかアーモンド村のマスコット犬とかですっ」


 くりっと大きく優しげな瞳に吸い込まれそうになる。肩で揃えた綺麗な黒髪からはシャンプーの甘くていい匂いが漂って…… 礼名、近いよ、近い!


「れ、礼名……」

「えっ、わたし、ですか?」

「えっと、そう、だからさ礼名……」

「はいっ! お兄ちゃんがプリンにわたしの似顔絵をご所望だなんて、礼名張り切って描きますねっ」

「えっ?」


 ぱああっ! と明るい笑顔をこぼすと、お絵かき用トマトケチャップを持ってスタンバる礼名。

 僕の思考が瞬時に再起動リブートする。


「待て、プリンにケチャップは、どこかおかしい!」

「さすがはお兄ちゃん、ちゃんと見抜きましたね。残念です」


 そう言うと礼名は後ろ手に隠していたチューブ入りのホイップクリームに持ち替える。


「では描きますよっ。礼名のお目々はちょっと大きめ、礼名の髪はまっすぐで……」


 ひとり鼻歌を口ずさみながら、お皿の上に自分の似顔絵を描いていく礼名。


「あっと言う間に可愛い礼名ちゃん、っと!」


 思いっきりデフォルメされた女の子の顔が出来上がった。


「さあ、お兄ちゃん、ご注文の『礼名プリン』だよっ! 恥ずかしいけど、礼名を美味しく食べちゃってねっ!」

「微妙な言い回しするんじゃないよ」


 礼名の似顔絵の下には横に並んだふたつのプリン。そしてプリンの上にはヘタを取った綺麗なピンク色のサクランボが乗せてある。絵柄的には十八歳未満は見ちゃいけない雰囲気をかもしていた。

 僕は礼名の似顔絵はそのままに、プリンにスプーンを近づける。


「あんっ! 礼名のぷりんぷりんから食べちゃうだなんて。お兄ちゃんはやっぱり、おっぱい大好き少年だったんだねっ」

「ついに壊れたか、礼名!」

「お兄ちゃんの前でなら、礼名はいつでも壊れてあげますっ」


 僕の横に立ち、悪戯っぽい笑顔を見せる礼名だけど、そんな礼名が眩しくって直視できない。


「さあ、どこからでもいいんだよっ。美味しい礼名を食べてくださいねっ」

「じゃあ、こうやって」


 僕は礼名の似顔絵を形作るホイップクリームを乱暴にすくい、そのままプリンをスプーンに載せて一気に頬張った。


「あっ、お兄ちゃんは今、わたしをメチャクチャにしましたねっ! でも、礼名は本望です、もっと礼名をメチャクチャにしていいんだよ!」


 ダメだ。礼名が完全に壊れてる。


「そんな、はしたない事ばかり言ってると、親父とお袋が泣くぞ!」

「はっはっはっ。お父さんとお母さんはそんな小さなこと、絶対気にしませんよ」


 開き直ったように小さな胸を張る礼名。


「僕が合わせる顔もなくなるじゃないか」

「でもさ、お兄ちゃんだって笑ってるじゃない。あ、美味しくなあれ、萌え萌きゅん! ってするの、忘れてたっ、てへっ!」

「どこのメイドカフェだよ!」

「こう見えてもわたし、メイドカフェ・オーキッドのナンバーワンのメイドさんだよ。指名料すっごく高いよ」

「ちなみに、いくらだ?」

「婚約指輪一式!」

「今すぐ他のメイドに替えてくれ!」

「お兄ちゃん、ひどいっ!」


 ねたようにそう言いながら、礼名は自分のプリンを持ってくる。


「さあ、わたしも食べよっと」

「礼名はいつも明るくて元気だな。羨ましいよ」

「うん、そうだよ。礼名はとっても能転気のうてんきでおバカさんだよ。いつだって元気だよ」


 気が付くと、さっきまでの暗くモヤモヤした気持ちは、どこかに吹き飛んでいた。


「いつもありがとう、礼名」


 きっと礼名だって不安なんだ。

 不安で怖くて仕方がないんだ。

 だから精一杯明るく振る舞って……


「お礼を言うのはわたしの方だよ。それよりプリンのお味はいかがですかっ?」

「あっ、勿論美味しいよ。サクランボも美味しそうだし…… そうだ、サクランボをペロペロしよう!」

「ああん、お兄ちゃん、それ、リアクションに困るよ。礼名ホントは経験ないから、ああっ~っ、いきなり噛みついたでしょ、痛いよっ!」

「じゃあ、こっちのサクランボも食べちゃおう」

「お兄ちゃん、痛いってばっ!」

「は、はは、ははははっ」

「ふへへへっ!」


 ふたり見つめて笑い出す。

 礼名と僕の嬌声は、その後暫く続いたのだった。


          * * *


 おやすみの言葉を交わした後、ひとりベットの上で考える。

 僕はとんでもないシスコンだ。


 昔から僕は不思議に思っていた。


「妹なんか邪魔だよな。何でも文句ばっかり言ってさ。すぐ母ちゃんに告げ口するし」


 そんな小学校の時の友達の言葉が僕には理解出来なかった。


「へえ~っ、お前の家はそうなんだ……」


 礼名は優しくて滅多に文句は言わないし、告げ口なんてされたこともない。


 中一の時なんか。


「妹? 別に毒にも薬にもならないじゃん。それよりさ、隣のクラスの吉川よしかわって可愛いよな。でも絶対モテるんだろうな」


 学年一の人気を誇った吉川さんも確かに綺麗だったけど。


「まあ、そうだろうな……」


 生返事をしながら、僕は礼名の方が百倍可愛いと思っていた。


 だから。


 礼名のブラコンが暴走を始めたその日から、僕の理性はレッドゾーンを振り切り続けている。

 すらりと伸びる色白の手脚に、日に日に女性らしく変化するしなやかな体。清楚な気品を漂わせる整った小顔には大きく澄んだ魅惑的な瞳。いつも明るい彼女の笑顔は大輪の向日葵ひまわりよりも輝いて。


「礼名……」


 思わず胸に手を当てる。

 彼女を想うと胸が苦しい。

 毎晩ぎゅっと締め付けられて堪らなくなる。


 でも、三ヶ月前に僕は全てを知ってしまった。


「れいちゃんを大事にしてあげてね」


 ふと想い出す懐かしい母の声に僕は答える。


「大丈夫だよ。僕は礼名の立派な兄になってみせるよ。礼名を絶対大切にするよ」


 きっとそれが優しかった母への恩返し。

 身寄りがなかったこの僕を、自分の子のように大切に育ててくれた父と母への恩返し。


「父さん母さん、安心してね」


 何も知らない礼名の笑顔を大切にしなくちゃ。

 僕を本当の兄だと信じてくれている礼名の期待に応えなくっちゃ。

 だって礼名はこんなにも素晴らしい妹なんだから。



 第三章 ふたりのお店は絶対負けません(そのいち)  完


 第三章 あとがき


 皆さんこんにちは。神代悠也です。

 一応は僕が主人公の『お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法』、楽しんで戴けてるでしょうか。ご贔屓戴いている皆様に心から感謝いたします。


 さて、本当に平凡な毎日を送っていた僕の日常は約三ヶ月前から急激に変わっていきました。妹と二人、喫茶店で生計を立てる毎日。それは大変だけど、でも案外楽しいんです。たくさんの贔屓のお客さんにも助けられ、学校との両立も出来ているし、僕は幸せなんだって思います。妹の礼名に頼り切っているところもあって、それは少し気がかりですけど。


 二年生になって突然モテ期が到来したっぽいのもびっくりです。

 妹の礼名は別にしても、倉成さんと桜ノ宮さん。特に倉成さんは言葉も交わしたことがなかったのに、何故突然絡まれてきたのか、未だに僕自身も理由が分かりません。

 お店の状況を考えると、浮かれてる場合じゃないんですけどね。


 そうそう、この章の一番最後で僕、独白しちゃいましたけど、一応作者さんにも相談したんですよ。こんなに早く独白しちゃっていいのかって。作者さん、少し悩んでましたけど、ま、いいか。いっちゃえ~っ、だって!

 僕が知ってる重大な秘密をこんなに早く暴露して、この先物語はどう展開するのか、楽しみでもありますが怖くもあります。えっ、最初からこの展開は読めてたって? すいません。作者がアホなもので。


 さあて、新しいメニューの開発もしなくちゃいけないので、この辺で。

 これからも妹の礼名とふたりで精一杯頑張りますので応援よろしくです。


 次章「ふたりのお店は絶対負けません(そのに)」も是非お楽しみに。


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