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第29章 第3話

 月曜日。

 今日で三学期は終わり。


「神代も曲入れろよな! ゆりか姫のライブバージョンもあるぜ!」

「ねえねえ悠也さん、デュエットなんて、どう?」

「あ、えっと、今日の主役は三年生だから梅原先輩と歌ったら?」


 午前で終業式を終えると僕らコン研のメンバーはカラオケボックスに集結した。

 大学の合格発表も全て出そろって、ちょっと遅いがコン研の先輩達の卒業祝いだ。


「そうね。ねえ梅原先輩、一緒に歌ってください!」

「えっ、桜ノ宮さんと? そりゃもちろん!!」


 幸いにも先輩達はみんな進学先が決まっていた。勿論第一志望ばかりではないけど、梅原先輩は第一志望の国立大学に合格した。


「なあ神代、人のことはいいからお前も入れろって。これは部長命令だ!」

「分かったよ…………」


 コン研の部長は菊池に決まった。

 その菊池がカラオケのリモコンを僕の目の前に置く。僕は観念してジャンル別検索で好きなアニメのオープニング曲を探し予約する。

 やがて、広いパーティールームのお立ち台に梅原先輩と桜ノ宮さんが並んで立った。


「いよっ、待ってました大統領っ!」

「いつの時代の掛け声だ、菊池」


 ツッコミながらも僕と山田はタンバリンを振り鳴らす。

 さすがは中吉らららフレンズでセンターを張っていた綾音ちゃん。

 ステージに立つ彼女は堂々として上手に梅原先輩をリードする。

 一方の梅原先輩、デレデレと目尻は下がり顔は真っ赤。カタブツで鳴らす先輩も綾音ちゃんの前では骨抜きだ。


 その綾音ちゃん、今日のこのパーティーに礼名も誘ってくれた。だけど礼名は固辞した。


「先輩方との最後のパーティーなんでしょ? お兄ちゃんはゆっくり楽しんできてねっ!」


 ホントに優しい妹だ。

 そう言えば、先々週に僕ら二年生は修学旅行に行った。

 長崎だ。

 僕は修学旅行を辞退しようとしたのだけど、礼名が許さなかった。


「礼名はお兄ちゃんのお土産をクビをキリンさんにして待っているんだよ! ちゃんと行ってきてよね!」

 お土産には綺麗なガラス細工を買った。ポッペンと言うらしいそれは口にくわえて音を出せる代物。礼名はすごく喜んでくれた。


「うわっ、かわいいっ! お兄ちゃんありがとう!」


 何だか僕ばっかり楽しんでいる。

 でも礼名はそれを自分のことのように喜んでくれる。


 修学旅行で突発のラッキーイベントが発生しなかったかと詮索はされたけど、何もないと答えるとそれ以上の追求もなかった。実際何にもなかったし。


「神代! 次、お前の曲だろ!」

「あっ!」


 マイクを持って立ち上がる。そしてハイトーン一閃いっせん、女性ボーカルをオリジナルキーで熱唱する。聴いてるみんなごめん、ヘタでもいい、元気に歌う。欲求不満をぶちまけるように歌う。それが僕のカラオケポリシーだ。


「おおっ!」


 しかし、結構ウケている。

 菊池も笑いながら中指を突き上げている。どう言う意味だ?

 …………


「ありがとうございました~っ!」


 全力で歌うと喉が渇いた。

 僕はグラスを持ってドリンクバーへ向かった。

 空になったグラスに氷を入れるとアイスコーヒーのボタンを押す。


「シロップは入れるの?」


 振り向くと綾音ちゃんが笑っていた。

 僕は手を横に振っていらないという意思表示をする。


「悠也さんって歌上手いのね! 声もすっごく高くて!」

「いや、そんなことないよ。綾音ちゃんの足元にも及ばないよ」

「またまた~」


 彼女はウーロン茶を注ぎながら。


「だけど悠也さんって……」

「僕って?」

「……いや、まさかね」

「何だよ、気になるじゃないか」


 綾音ちゃんはさっきまでのほんわかとした笑顔を引っ込めて。


「ねえ悠也さん、次の曲入れてる?」

「ううん、入れてないけど」


 そう答えた僕を彼女は手招きした。

 階段を下りて一階にある待合エリアは平日の昼間だからだろう、閑散としていた。


「前から聞こうと思ってたんだけど……」

「何? 僕に分かることなら何でも聞いてよ?」

「あの…… 不躾ぶしつけなことを聞くけどごめんなさい。でも悠也さんって、その…… 実は礼名ちゃんと血縁はない、とか?」


「えっ!」


 なんで? どうして? 何故綾音ちゃんが知ってる? バレた? いつ?


「あ、いや…… そ…… そんなことあるわけないだろ! 僕と礼名はれっきとした兄妹だよ」

「わかってるわ。はいそうです、なんて言えるわけないわよね。だけど、そうでしょ?」

「あ…… いやホント兄妹だって! 確かに顔は似てないって言われるけど……」


 僕の言葉に彼女はいつもの優しい微笑みを浮かべる。


「いいのよ、だからどうしようなんて思ってないから。あたしは今まで通り悠也さんを応援するわよ」

「だからそれは勘違いだって…………」

「あたしこの一年ずっと悠也さんと礼名ちゃんをみてきたんだもの。それで桂小路さんの言葉を聞いてピンと来たの……」


 僕と礼名に血の繋がりがないことは決定事項とばかりに話を進める彼女。さっき怒ってでももっと強く否定すべきだったか……


「だけど、もしかしてだけど、さっきも思ったんだけど…… 実は悠也さんって麻美華と血縁関係があったり…… な~んてことないわよね?」


「うえ~っ!?」


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