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お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第二十八章 とある中古の鍵盤楽器
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第28章 第3話

 キンコ~ン カンコ~ン


 昼休み、机から取り出した弁当が金髪の何者かにひったくられた。


「さあ悠くん、屋上へ行くわよ!」


 犯人の上から目線が炸裂する。


「はい、分かりました」


 僕はしずしずと麻美華の後ろを歩いて屋上へと出た。

 三月も後半になって今日はポカポカいい天気。

 誰もいない屋上にレジャーシートを敷くとふたりは向かい合って座る。


「今日は暖かいね。うん、屋上も気持ちいいな」

「生徒会室には礼っちが乱入して来ますからね」


 冬の間、ふたりはしばしば生徒会室で昼食を共にした。だけどこの一ヶ月、そこへ礼名が乱入してくるようになった。それは、隠しカメラを仕込んでるのかと疑いたくなるくらい確実に。


「礼名には高感度お兄ちゃんセンサーが搭載されているんですっ! 浮気がばれないなんて思わないことですねっ!」


 そんな決めぜりふを吐くと一緒に弁当を広げるのだった。


「ところでお兄さま、輸入食品館ウィッグ対策は進んでいるのですか?」


 ランチボックスを広げながら麻美華が尋ねる。


「えっと、それがなかなか進まなくて……」

「じゃあ麻美華を召還してくださいよ。麻美華はプリンパフェひとつで一日中働きますよ! お客さんもたくさん呼んできますよ」

「うん、気持ちは嬉しいけどさ。それは最後の手段にしておくよ」


 不満そうに僕を睨みつける麻美華を横目に見ながら弁当箱を開ける。今日は唐揚げと卵焼きと大根の葉っぱ炒めの詰め合わせセットだった。礼名がいつも早起きして作ってくれるお弁当。おかずはパターン化しているけど本当にありがたい。


「これ、麻美華が自分で作ったんですよ、カツサンド。よければお兄さまもどうぞ」

「あ、うん。ありがとう」


 自分で作ったと言われては断れない。僕がそのカツサンドを受け取ったその時だった。


「お兄ちゃん発見! 今すぐその手のサンドイッチを返却しなさいっ!」


 屋上に突如現れたのは、マイリトルシスター礼名だった。


「ちょっ! れ、礼名!」

「あら、やはり現れたわね、お邪魔妹」

「お邪魔妹じゃありません! お兄ちゃんと礼名は切っても切れない安物ステーキ肉のスジ部分みたいなものなんですっ!」

「いや、その例えはどうかと思うぞ」

「そんなことより、何をしているんですか、お兄ちゃん!」


 肩で揃えた黒髪を揺らし弁当片手に自称Bカップの胸を張る礼名。


「あら、何をしているって見て分からないの? 一緒にお食事をしているのよ!」

「そんなことは分かっています! どうしてわたしの目を盗んで屋上に連れ添いふたりイチャイチャしてるのか、と言うことです!」


 麻美華の言葉に語気を強めた礼名。


「悠くんとは席が隣同士なのよ。当然でしょ?」

「いつもいつも席が隣同士ってそんな意味のない言葉で誤魔化ごまかして! 分かりました、今日こそ決着を付けましょう!」


 いつになく強硬だな礼名。

 どうも最近、僕が麻美華や綾音ちゃんと一緒にいることにやたら神経質になった気がする。いや、昔から嫌ってはいたが最近は特に、だ。


「あら、何で決着を付けるのかしら? バストのサイズなら私の圧勝よ。髪の毛の長さも処女歴の長さも私の圧勝でしょ?」

「それは無駄に歳を取っていると言うことですっ!」


 礼名はズンズンと僕たちの前に近づいてくる。


「重要なのはわたしと麻美華先輩、どちらがよりお兄ちゃんに相応ふさわしいかと言うことです! どちらがよりお兄ちゃんを愛しているかと言うことですっ!」

「ふうん。それは席が隣の麻美華に決まっているわ」

「そうですか。ではお兄ちゃん争奪戦で勝負しましょう。麻美華先輩が本当にお兄ちゃんを愛しているというのならお兄ちゃんの右手を引っ張って引き寄せてください。礼名は左手を引っ張ります。勝負はお兄ちゃんを引っ張り取った方が勝ちですっ! さあおふたりとも立ってくださいっ!」


 なんだそれ。

 大岡裁きか?


「分かったわ。やりましょう」


 麻美華も乗るなよ。

 僕は手に持ったサンドイッチを口に放り込むと渋々立ち上がる。

 礼名は麻美華を睨みつけたまま僕の横に来ると小声で。


「痛かったらすぐに礼名に痛いって言うんですよ!」

「……」


 何だその茶番。

 だけど、その茶番が今まさに実行されようとしていた。

 僕は右手を麻美華に、左手を礼名に掴まれて、今まさに号令が掛けられん。


「いいですか麻美華先輩! それでは、用意…… どんっ!」


 思いっきり僕の左手を引っ張る礼名。

 一方、麻美華は手を引っ張るどころか、僕の右腕をすがるように抱きしめる。


「えっ、あっ……」


 当然僕は礼名の方へ引っ張られ、麻美華も一緒に引っ張られ……


「危ないっ!」


 麻美華は僕に追いすがりその場に手をつき跪く。


「あっ、倉成さん大丈夫っ? 怪我ケガしてないっ?」


 突然ことに立ち尽くす礼名。

 僕は麻美華の前にしゃがみ込んだ。

 と。


「はい、麻美華の勝ち~!」


 突然僕の両手を取って顔を上げると、にやり笑顔を浮かべた麻美華。


「はい、悠くんは麻美華が戴きましたっ!」

「ちょっ…… ちょっとそれはずるいですっ! 卑怯ですっ! 騙し討ちですっ!」

「あら、礼っちだって何かをたくらんでいたわよね。悠くんに痛いと言わせて手を離すとか」

「ぐぬぬぬ……」

「その発想そのものがイタいわよ」

「うるさいです、うるさいです、うるさいです~っ!」


 礼名はレジャーシートに座り手提げから自分の弁当箱を取り出すと、ひとり黙々と食べ始めた。


「悠くん、さっきのカツサンドはどうだった?」

「あ、うん、美味しかったよ。すごく」


 僕も座ると自分の弁当に箸を伸ばす。


「礼名の作ったのも凄く美味いよな」

「気休めはいいです……」


 さすがに落ち込んでいた。


「最近、礼名は時々お兄ちゃんがいない世界を想像…… じゃなくって夢に見ることがあります。その世界ではお兄ちゃんは他の女の人とイチャイチャしていて、それは麻美華先輩だったり綾音先輩だったり…… そして礼名はひとりなんです。何故か夢の中の礼名はもはや妹ですらなくてたったひとりで……」

「そんなこと、あるはずないじゃないか! 礼名はずっと僕の妹じゃないか!」

「そうですね。でも麻美華先輩に負けました。ショックです……」


 しかし麻美華はそんな礼名にトドメを刺す。


「じゃあお昼休みの乱入は今日限りでやめることね」

「ぐぬぬぬ…… 急に闘志が湧いてきました……」

「そんなことより礼っち、ウィッグ対策は万全なの?」

「勿論万全ですっ! お兄ちゃんさえいればあんな店のひとつやふたつバッサバッサと切って捨てて見せますっ!」

「あら、さっき悠くんは頭を抱え込んでいたのだけれど?」

「大丈夫ですっ!」


 麻美華は僕を見て苦笑すると、また礼名に語りかける。


「無理しないで。この倉成麻美華が協力するから何でも相談しなさいよ」

「大丈夫ですっ! 麻美華先輩のお力添えには及びませんっ!」


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