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お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第二十六章 ふたりの誕生日(後編)
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第26章 第4話

 生徒会室は見事に様変わりしていた。

 部屋中が色とりどりの紙テープで飾り付けられ、テーブルの上には大きなデコレーションケーキが鎮座している。そして奥の壁には大きな貼り紙にこう書かれてある。


 麻美華ちゃん 礼名ちゃん お誕生日おめでとう!!


 驚いたように部屋を見回した礼名は、すぐに事態を理解したのだろう。みんなに向かって嬉しそうな笑顔を見せた。


「皆さん、ありがとうございますっ!」


 一方麻美華は上から目線を継続しつつ目を細める。


「みんなありがとう! ところで今日は礼っちも誕生日なの?」

「あ、わたしは明日ですけど、麻美華先輩は今日がお誕生日ですか?」

「ええそうよ。しかし一日違いとはね。惜しかったわね礼っち」

「惜しいって、何がですか?」

「あと一日でピッタリ賞だったのにね。ちなみにピッタリ賞の景品はハワイ旅行一年分よ」

「何なんですか、その『ハワイ旅行一年分』って。行ったまま戻ってくるなってことですか!」

「違うわ。ハワイ旅行に三百六十五回いけるのよ」

「既に嫌がらせの範疇に入ってますね」


 ハッピーバースデー トゥーユー!


 僕らは主賓ふたりを席に案内すると、ケーキのロウソクに火を灯し、みんなで歌う。

 そうしてふたりが揃って火を吹き消すと、桜ノ宮さんがプレゼントを取り出した。


「これはみんなからのプレゼント!」


 真っ赤なリボンで飾られた小さな包み。

 包装はすごぶる立派だが中身は安物のブックカバー、時代に逆行する環境に優しくない過剰包装だ。

 しかし、そんなハリボテのプレゼントを礼名は満面の笑みで、麻美華も珍しく微笑んで受け取った。

 そうしてふたりは早速包みを開ける。


「わあっ! 可愛いブックカバー!」


 これは礼名の反応。


「ありがとう、使わせて貰うわね」


 これが麻美華の反応。

 そこからはケーキを食べながらの雑談タイムになった。


「鋭いプレゼントだわ。麻美華が読む本はこれで表紙を隠して読めと言う事ね」

「あ、いや、そんなつもりじゃないんだけど。ってか、そんな恥ずかしい本を読んでるの?」

「いいえ、そんなはずがないわ。クイーンズ文庫は淑女のたしなみなのだから」

「そうですよ。お兄ちゃんも読んでみますか?」

「いや、やめとくよ。僕には刺激が強すぎるみたいだから」

「そんなことだから悠くんはいつまで経ってもチェリーボーイなのよ」

「久しぶりに出たね、その罵倒のセリフ」

「罵倒している訳じゃないわ。私だってチェリーガールなのだから」


「……」

「……」

「……」

「聞いてねえから!」


 しかし麻美華は僕のツッコミを軽く受け流す。


「ふふふ。悠くんが食べてもいいのよ。ぽっ(はあと)!」

「何だよその「カッコ はあと カッコ閉じる」は! しかも表情変えずに!」

「ちょっと待ったあ~っ!」


 と、元気に右手を上げて立ち上がったのはマイリトルシスター。


「ちょっと待ってください! お兄ちゃんが食べるのは礼名が作ったお料理か、お料理上手な美味しい礼名のどちらかだけですっ!」

「貴女もチェリー仲間でしょう? 見栄を張るのはお止しなさい!」

「チェリーって……」


 突然、礼名が赤面してフリーズした。


「そ、そうですよ。礼名は処女おとめですよっ!」


 しかし礼名の立ち直りは雷が光って落ちるよりも早かった。


「礼名は明日で十六歳です。法律的にも結婚出来る年齢です。だから、これからはお兄ちゃんと正々堂々一日三回、三日で十回ヤッても全然問題ないんですっ!」


 その言葉に、今度は桜ノ宮さんが立ち上がった。


「ダメよ礼名ちゃん。あなたたちは兄妹でしょ? そんな不道徳許されないわよ」


 笹塚さんも正論をぶちまける。


「ねえ礼名、それはやっぱりまずいと思うよ。礼名すっごいモテるんだし何も禁断の恋に走らなくてもいいじゃないの?」


 麻美華も上から目線全開で。


「そうよ、礼っち。無駄な抵抗はやめてさっさと悠くんを麻美華に明け渡すのね!」


 三人に反論を喰らった礼名は麻美華を見ながら押し黙っていた。

 が、


「…………明け渡す? ふふっ! 今の麻美華先輩の発言は現在お兄ちゃんと礼名が相思相愛であることを認めた発言ですよね! さすがは麻美華先輩、よく分かってくれてます。でも、礼名は絶対今のポジションを譲りませんよっ! お兄ちゃんの可愛い妹であり、心から愛する恋人であり、未来永劫みらいえいごういつまでも替わらぬ寵愛を受けるお兄ちゃんのお嫁さんはこの礼名なんですっ! そして礼名が十六歳になった今、あとはお兄ちゃんの十八歳の誕生日を待つのみなのです! その時、ふたりは晴れて政府も公認する……」


「美味しいわね、このいちご」

「完熟のあまおうを使ったんです!」

「凄い高級品じゃん!」

「クリームもしつこくなくってホント美味しいですね!」


「ちょっと! わたしの話を無視しないでくださいっ!」


 みんなは桜ノ宮さんの手作りケーキが美味いと言う話で盛り上がっていた。


「だって礼っちの一方的KYおのろけマシンガンはつまらないもの」

「わたしKYじゃありませんっ! TKですっ! ところ構わずの略で、空気は読んでるけどお兄ちゃんのためならば精一杯頑張る健気な妹という役柄と言うか……」


「確かにこのクリームは美味しいわね」

「でしょでしょ! そのクリームはフランス産生クリームから作ったのよっ!」

「すごいっ! おフランスですか! 道理で美味しいんですねっ!」


「お兄ちゃ~ん、みんなが礼名を無視します~っ!」


 僕に縋るような目を向ける礼名だけど、ここは敢えてスルーだ。


「おっ、ケーキに載ってるチョコもカカオの風味がよく出ていて美味しいね」

「分かりますか、悠也さん!」

「ちょっと、お兄ちゃんまで礼名を無視しないでくださいよ~っ!」

「礼名もこっちの世界に来ればいいじゃないか」

「ダメなんですっ! 礼名の体の95%はお兄ちゃんへの愛で出来ているんです!」

「じゃあ残り5%は?」

「水とタンパク質に脂肪、ミネラル、糖質に少しの…… って、食べてないで聞いてくださいよ~ お兄ちゃ~ん!!」


          * * *


 時間はあっと言う間に過ぎた。

 会をお開きにし、後片付けを終えると礼名はみんなに頭を下げた。


「今日はとても楽しかったです。ありがとうございました!」


 麻美華も並んで頭を下げる。


「本当に嬉しかったわ。ありがとう」


 頭を上げた麻美華は僕の元に来て小さな声でもう一度。


「悠くんが企画してくれたのね。ありがとう。だけど、あっと言う間にもう終わり、なのね……」


 僕の返事を待つこともなく、彼女は帰り支度を始める。

 そうして、みんなが部屋を出ると僕は部屋の鍵を掛ける。


「今日は本当にありがとうございましたっ!」


 笑顔の礼名に麻美華は小さく手を上げる。


「これから悠くんと一緒に帰るのね。ずるいわ、礼っちだけ……」


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