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お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第二十五章 ふたりの誕生日(前編)
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第25章 第4話

 二週間が過ぎた。


「悠くん、来週の木曜日は何の日だか知っているかしら?」


 朝、席に座ろうとする僕に隣の麻美華が声を掛けてくる。


「来週の木曜って…… 二月四日?」

「そうよ、セント二月四日よ」


 はて?

 節分でもないし、バレンタインデーでもない。

 その翌日は礼名の誕生日なのだが……


「えっと、分からない」

「ちゃんと考えなさいよ。一年に一度のビッグイベントなのだから」


 上から目線が炸裂した。

 でも分からないものは分からない。


「いや、そんなこと言われても分からないよ」

「分かるまで悠くんとは口を利いてあげないわ!」


 すっごい不機嫌になった。

 不機嫌なくせにチラチラこっちを見ている。


 セント二月四日?

 一年に一度のビッグイベント?


 ……はは~ん。

 そう言うことか。


「分かったよ、降誕祭こうたんさいだね」

「そ、そうだけど。誰の降誕祭なのかしら?」

「麻美華さまの、だろ」

「大正解だわ。百点満点の答えよ。そう降誕祭よ、来週木曜は麻美華さま降誕祭なのよ」


 いつもクールな上から目線が少し笑っている。

さすがに痛いことを言っている自覚があるのだろう、真性のバカじゃなくてよかった。


「この麻美華さまの降誕祭だというのに、何の手違いか国民の祝日ではないのよ」

「ああ、日本政府の怠慢だね」

「そうよ。さすがは席が隣の悠くんだわ。今度総理に文句を言わなきゃいけないわ」


 前言撤回。

 真性のバカだった。


「と言うわけで、今のは単なる独り言よ。別に何かを期待している訳ではないんだからねっ!」


 来週は木曜が麻美華の誕生日、翌る金曜は礼名の誕生日、か。

 イベント目白押しだな。

 いや、待てよ。

 まさか? もしかして?


 とある不安を感じた僕は、その日生徒会の役目を終えるとみんなと別れてひとりコン研に向かった。


          * * *


「なあ菊池、教えて欲しいんだけどさ」


 コン研の部室。

 ぽっちゃり体型の菊池は美少女ゲームのBGMに体を揺すり、小さな椅子をミシミシ言わせていた。


「おお神代、何だあらたまって」

「あのさ、桜ノ宮さんの誕生日って知ってるか?」

「桜ノ宮さんの? う~ん、知らないけど…… どうしたんだ? 綾音ちゃんにコクるのか? 倉成さんに殺されないか?」

「そうじゃなくって。あっ、梅原部長。ちょっと教えて欲しいんですけど……」


 僕は梅原部長にも同じ質問をする。

 彼は一瞬首を傾げたあと。


「残念ながら日付までは覚えてないけど、確か十月だったと思うよ。去年の十月に綾音ちゃんの誕生日だって野郎どもが騒いでいたからね」

「そうですか! ありがとうござ……」


 と、絡みつくような視線を感じた。


「あたしの誕生日がどうしたの?」


 本人が梅原部長の背後に立っていた。


「あ、いや、あの、その……」

「悠也さんがあたしの誕生日を調べてくれるって嬉しいわ」

「あっ、いや実はその……」

「遂にあたしの赤ちゃんを産む気になってくれたのねっ!」

「いや、産めないって!」

「あたし最初は女の子がいいわっ! あっ、でも男の子なら悠也さんに似るのよね!」

「普通逆だって言わないか?」

「悠也さんに似た男の子なら絶対女装が似合うわよね!」


 何を言っても聞いてなかった。

 その代わり鈴木と田中と山田と吉田が黙って聞き耳を立てている。

 このままでは無いことだらけで脚色だらけの噂を流されそうだ。


「なあ、桜ノ宮さん……」

「赤ちゃん1000人産みたいの?」

「あ、ごめん。あのさ、綾音ちゃん」

「うん、なあに?」

「ちょっと話がしたいんだけど……」


 僕は彼女を誘ってその場を離れ、一緒に帰路についた。

 そうしてふたりで大通りに面したハンバーガー屋に入る。


 僕が桜ノ宮さんの誕生日を確認した理由は、彼女ももうすぐ誕生日じゃないかと心配になったからだ。もしそうなら彼女の誕生日のことも考えておかないと怨まれそうな気がした。だけどそれは杞憂だった。


「悠也さんが誘ってくれるなんて嬉しいわ」


 赤いツインテールが揺れて優しい瞳が僕を見つめる。


「あ、いや、さっきも話した通りちょっと相談があるんだ……」


 僕はバニラシェイク、彼女はストロベリーシェイクを手に持つとがらんと空いた二階席に陣取った。


「実は今日知ったんだけど……」


 冷たいシェイクを一口啜ると、僕は彼女に相談を持ちかける。

 来週の木曜日が麻美華の誕生日であること。そしてその翌日は礼名の誕生日であること。だから、一言で言うと、ふたり合わせて誕生会をしてはどうかと相談した。


「いいアイディアだわ! みんなでお祝いした方が楽しいものねっ!」

「ごめんな。綾音ちゃんの誕生日には何もしなかったのにさ」

「いいわよ。あの時は文化祭で忙しかったでしょ! じゃあ、麻美華と礼名ちゃんの誕生会を生徒会でやりましょう!」


 彼女は大乗り気だった。


「誕生会は来週の木曜日ね。生徒会室でやりましょ! ケーキはあたしが用意するわね。プレゼントは…… そうだ、明日の放課後、一緒に買いに行きましょう!」

「えっと、明日は水曜…… ごめん、明日はダメなんだ」


 水曜はいつもの公園で麻美華と待ち合わせだ。綾音ちゃんには言えないけど。


「じゃあ、明後日…… はあたしがダメだから、金曜の放課後はどうかしら?」

「オッケー、わかった」


 彼女は僕の返事に嬉しそうに肯いてくれた。


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