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お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第二十四章 あれから一年経ちました
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第24章 第3話

「あれから一年経つんだね」


 週末土曜日。

 感慨深げに礼名が呟く。

 今日は一周忌いっしゅうき


「そうだね。色々あったよね」

「うん。だけど、今日も色々あるかもだね」

「そうだな……」


 勿論、桂小路のことだ。

 法要ほうようとその後の会食は何事もなく終わるのだろうか。


「ひどいことを言ったら、あのズラもぎ取ってやろうよ!」

「礼名も結構ひどいこと言うんだな」 


 僕は臨時休業の貼り紙をすると朝食のパンケーキを頬張る。

 今日は隣の市のお寺さんで法要の後、近くのレストランで会食をする。


「桂小路の考えてることは大体分かったからね。今日は上手くあしらっておこうよ」


 買い物に行った翌日、三宅社長から連絡があった。


「悠也くん家の隣の空き店舗の商談が急に進み出したんだ」


 商談主はウィッグコーポレーション、そう輸入食品の会社らしい。と言うことは、隣に出来るのは輸入食品店できっと無料喫茶コーナーを作る気なのだろう。だけど、そんな店を作ろうと思ったら空き店舗だけでは広さが足りない。裏のコインパーキングの買収も絶対に必要だ。だが、三宅社長の話ではそちらは暗礁に乗り上げているという。


「コインパーキングの方も買収したいと言ってきたんだよ。だけどあそこの地主は売る気がないからね。ま、不動産屋としては困ってるんだけど……」


 輸入食品店のオープンは困難に思えた。

 だけど、桂小路が僕たちの生活を破滅に追いやる方法は他にもある。

 そう、僕らの秘密を親戚、学校、ご近所さんに暴露して血の繋がらない男女の同居を糾弾すればいい。その手を使ってこないのが不思議なくらいだ。だけど、今日はそのチャンスなのだ。


 食卓の礼名はいつもの笑顔で紅茶を手にしている。


「紅茶のお代わりあるよ?」

「あ、頼むよ」


 僕は桂小路との対決のため、そうして礼名の笑顔を守るため頭の中を整理する。


 まず問題なのは彼がどこまで知っているかだ。

 僕が父と母の子ではないこと、これはバレている。

 桂小路の祖父だけでなく一石おじさんも知っていた。

 僕の実の父母についてはどうだろう。

 僕の父が誰であるかは絶対に知らないはずだ。この事は僕と麻美華、そして倉成壮一郎しか知らないことだ。松川のおばさんでさえ知らない。しかし僕の母の名は知っているかも知れない。いや、知っていると思うべきだろう。

 礼名については血の秘密はない。


「お兄ちゃん、紅茶入ったよ。どうしたの、礼名の顔をボーッと見て。わたしの顔に何か付いてる?」

「あっ、何でもない」

「どうして「何でもない」なんだよ! 「礼名に見とれていたんだぜ!」とか、「礼名は恋のチェリーだよ!」とか、「結婚しようよ、礼名!」とか、そんな気の利いたセリフはないの?」

「いや、単に視線の先に礼名がいただけだ」

「ひどいよお兄ちゃん! 乙女心を踏みにじったらメッだよっ! もしかしてお兄ちゃんは眼鏡っ子が好きとか? だったら礼名も眼鏡掛けてあげるよ! それともツインテールがお好み? ねえ、何とか言ってよ、お兄ちゃん……」


 もうひとつ重要なことがある。

 それはこのブラコン妹がどこまで知っているかだ。


 僕は両親に拾われ育てられた。だから礼名と血は繋がっていない。そうしてこのことを礼名は知らないはず、なのだ。

 だけど……


「ねえお兄ちゃんってば! そんなに冷たくしないでよ! 礼名はお兄ちゃんのお嫁さんになるんだよっ! 一生一緒にいるんだよっ!」

「何言ってるんだ。礼名と僕は兄妹で……」

「兄妹であり愛し合う男女であって、同棲中で明日にも結婚する間柄なんだよっ! お兄ちゃんと礼名は産まれたときから真っ赤な糸がこんがらがって絡まってほどくにほどけない運命の間柄なんだよっ………………」


 だけど、こいつは知っているのかも知れない。

 いや、僕の推論は「知っている」ではない、「気がついている」のだと思う。


 去年、役所関係の手続きは全て僕がやった。

 松川のおばさんが礼名に漏らすとも考えられない。

 もし、礼名が知っているとすれば、それは桂小路の祖父の仕業しわざか、あるいは彼女が自ら気がついたかだ。


 礼名はとても賢くて、そして周囲をきちんと観察している。

 自分で気がついたとしても不思議はない。

 そして彼女の様子をかんがみるに、気がついているのは間違いないと思う……


「ねえお兄ちゃん、聞いてるのっ! もう一度言うよっ! めるときもすこやかなるときも、悲しみのときも喜びのときも、貧しいときも売り上げアップのときも、これを愛し、これをなぐさめ、これを可愛がり、これの頭をで撫でして、死がふたりを分かつても、転生しても来世でも、魔王と勇者に生まれ変わろうと、愛し慈しみ清い心と体のまま二階のベッドで初夜を迎えることを誓いますか?」


「ちか………… って何言ってるんだ? って、なに録音までしてるんだ!」


 危うく結婚させられるところだった。


「ちぇっ。釣られて誓っちゃうかと思ったのにな。まあいいや。今日一周忌が終わって晴れて喪があけたらふたりで誓い合おうね!」


 ティーカップを手に持つと僕を見つめてくすりと笑う。

 そんな礼名に僕の胸が大きく飛び跳ねる。

 落ち着け!

 礼名は大切な大切な妹だ。

 変なことを想像しちゃダメだ。


          * * *


 もうすぐ法要が始まる。

 お寺の控え部屋には僕らより年配の人ばかり十五人。

 勿論桂小路も来ているし一石おじさんもいる。

 葬儀の時にはいなかった人もいる。


「悠也くん、お布施は先に渡しておいたからね」


 おとなの勝手はよく分からないのだけど、松川のおばさんが僕らを助けてくれる。本当にありがたい。


「今日は父と母のためにありがとうございます」


 喪服姿の礼名も親戚に頭を下げて回る。

 彼女はこういう立ち回りが本当に上手い。

 それに、黒尽くめの礼名はとっても楚々として不謹慎だけど恐ろしく色っぽい。

 って、僕はなに考えてるんだ!


「なあ悠也くん」


 一石おじさんに声を掛けられた。

 彼は僕を手招きすると廊下へと歩き出す。


「今日はこの後会食があるんだよな。その時になって慌てないように今言って置くけどさ……」


 今日は母の従姉妹いとこにあたる親戚が来ていた。

 葬儀には来ていないから初めて見る顔だったけど。


「桂物産はうちの親父が牛耳ってるだろ。その後継を狙ってるんだよ、従姉妹いとこ。だけど親父はそれを阻止したいわけだ……」


 要は「桂小路家」本家の後継争い、と言うことらしい。

 祖父、桂小路徳間は礼名にその役を負わせる気らしいが、母の従姉妹がその座を狙っているという。だから今日の会食は一波乱あるかも知れない、と言うのだ。


 それでなくても、桂小路と僕らだけでも揉めそうなんだけど。


「お兄ちゃん、そろそろお堂に行きましょうか」


 振り返ると礼名がかしこまって立っていた。

 そうして。

 お堂に入り一番前の席に座ると程なく導師様が現れ法要が始まった。


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