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お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第二十三章 新年早々……
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第23章 第5話

 結局、今日の売り上げはさっぱりだった。

 昼頃からはそれなりにお客さんが来てくれたけど、すごぶる低調な新年スタート。

 商店街は正月休みの店ばっかりだったから仕方ないかも知れないけど……

 僕は店の片付けをしながら今日のことを思い返す。



 あのあと。

 僕らは桂小路が言った捨てゼリフを麻美華と桜ノ宮さんに打ち明けた。

 オーキッドの隣の空き店舗と裏のコインパーキングが桂小路の手に渡ったことを、だ。

 桂小路は一体何を企んでいるのか?


「桂小路ってどんな人なの? 歳は? 財力は? 好きなアイドルは?」

「えっと、母の父で、もう六十も後半じゃないかな。大手商社、桂物産のオーナー会長なんだけど……」


 最後の質問は黙ってスルーした。


「桂物産って、そこそこ大きな商社ね。だったら……」


 ふたりは真剣に考えてくれた。


「隣にキャバクラを作って悠くんを堕落させるとか?」

「どうして大手商社って話からキャバクラに飛ぶんだよ!」

「隣に産婦人科を開業して悠也さんを妊娠させるとか?」

「どんな不妊治療したところで、僕は妊娠しないよ」

「隣にホストクラブを作って礼っちを堕落させるとか?」

「礼名はお兄ちゃんにしか堕落しません!」

「隣に託児所を開設して礼名ちゃんを赤ちゃんにしてしまうとか?」

「いい加減に赤ちゃんから離れてください、綾音先輩!」


 前言撤回。

 ふたりとも真剣に考える気はミジンコなかった。


「少しは真面目に考えてくれよ」

「真面目に考えていいのかしら……」

「あのね、悠也さん、礼名ちゃん、言いにくいことだけど……」


 ふたりは急に真顔になると僕らの淡い希望を無残に打ち砕いた。


 隣の空き店舗と裏のコインパーキングは我が家を囲むように繋がっている。

 そのどちらもを手に入れると、何だって出来る、と言う。

 一般人が寄りつかない建物建てたり、悪質な店舗で違法な客引きを置いたり……


「徹底抗戦してもお客さんが怖がって来なくなったらお終いよね」

「利益度外視のお店を作って潰しにくる、ってのもあり得る手段だわ」


 確かにそうなのだ。

 考えたくないことだけど、味とサービスで真っ向勝負! なんて、そんなフェアな手で来るとは限らないのだ。


 やっぱりここまでか……


「だけど悠くん、麻美華思うのだけど本当に土地は入手しているのかしら? 土地なんか入手してないのに、そう言ってプレッシャーを掛けているだけとか?」

「ねえ、悠也さん。桂小路さんと次に遭うのはいつになるの?」

「一周忌の時だと思う。だから来週、もうすぐだよ」

「それはどこで? それまでに敵の情報を集めることが重要よ。所有者の名義とか、そもそも本当に土地権利を持っているのか、とか、ね」

「ありがとう、実は法事の後に会食もあって、きっとその時に話が出ると思う」


 ちゃんと役に立つ意見も出せるじゃないか、ふたりとも。

 確か、不動産屋さんは月曜から。

 正月明けたら確認に行こう…………



「この調子だと、明日も暇かも知れないね」


 礼名の声に我に返る。

 もう店の片付けは終わっていた。


「そうかもな。イベントホールも何もやってないしな」


 僕は店の電気を消すと居間の食卓に腰掛ける。

 結局、麻美華は店の缶詰さくらんぼを喰い尽くし、パフェやプリンを作成不能に陥れた。さすがに反省したのだろう、夕方にリムジンで乗り付けてきてさくらんぼの缶詰365缶を置いていった。一年分と言うことらしい。


「麻美華先輩って時々メチャクチャなことをするよね」

「時々か? 年末に来たときには作り置きのプリンをひとりで食い尽くしたんだぞ、15個もあったのに! 無茶苦茶の見本サンプルのようなヤツだろ」

「確かにそうだけど。お兄ちゃんも言うときは言うね、麻美華先輩に対しては……」


 そう言って彼女が浮かべた笑顔は寂しげに見えた。


「礼名は邪魔、かな?」

「えっ??」

「ねえ、お兄ちゃんにとって、礼名はお邪魔、かな?」

「なっ、何を言うんだ! そんなわけないだろ! お店だって家だって全部礼名がいればこそだろ!」

「じゃあ、礼名のこと、好き?」

「お、おい、何を言い出すんだ……」

「礼名はお兄ちゃんが大好きだよ」

「僕だって……」


 じっと僕を見つめる彼女の瞳は綺麗に澄んで純真で。


「好きに決まってるだろ! 僕は礼名の幸せのためにいるんだから!」

「ホント? 礼名も信じているよ! お兄ちゃんとの明るい未来を信じているよ! 礼名もお兄ちゃんのためにいるんだよ!」


 にぱあっ!


 突然、眩いばかりの笑顔を炸裂させた礼名。


「じゃあ早速婚約しよう! 嫁入り道具は何にもないから結納金もいらないよっ! 礼名の体ひとつしかないけれど、寄せて上げれば見た目はCカップだよ!」

「何を言ってる! 礼名と僕は兄妹だから婚約なんて……」

「下着は情熱の赤がいい? セクシー気分で黒がいい? ちなみに今日の礼名は真っ白だよ! お兄ちゃん色に染めていいんだよっ!」

「そんなこと聞いてない!」

「もしかして、クマさんがいいのかな? だけどそれだとロリっぽいよ!」


 ダメだこいつ。僕の言うこと聞いてねえ。

 礼名はそのまま席を立つと夕食の準備を始める


「今夜も雑煮だよ。佳織おばさんにお餅いっぱい貰っちゃったからね。ハムと黒豆も付いてるよ!」


 だけど。

 礼名は何を言いたかったんだ。

 まだ麻美華とのことを疑っているのだろうか……

 礼名は何かを感づいてしまったのだろうか……


「はい、どうぞ」


 やがて。

 目の前に雑煮の器が差し出される。

 そうして、ふたり揃って手を合わせて、ふたり揃って餅を喰う。

 ふと見ると、テーブルの上には年賀状が二枚。

 訃報を知らない父と母のお友達からのものだ。

 どちらも家族の楽しい近況を写真入りで教えてくれる。


「寒中見舞いを返しておかないとね」


 僕の視線に気がついたのか、礼名がそう呟く。


「あっ、でも、その前に……」


 賀状を持つと席を立ち、仏壇の前に置く礼名。

 そうして手を合わせると、戻ってきてまた餅を喰う。


「お父さんとお母さんにも、ちゃんと見せておかなきゃね」

「そうだね……」


 僕はもう一度仏壇を振り返る。


 父さん母さん。

 礼名が進む道は幸せに向かっていますか?

 礼名にはもっともっと輝かしい舞台が似合いませんか?

 礼名は僕の犠牲になっているんじゃないですか?

 不安で不安で自信がなくて。


 お願いです。

 礼名の心を教えてください。



 第二十三章 正月早々……  完


 第二十三章 あとがき


 いつもご愛読本当にありがとうございます。

 日々これ修羅場な神代悠也です。


 神代家の正月はホントにとんでもない正月になりました。

 まだ、三が日も終わってませんけどね。


 ところで皆さんは正月って言うと何を思い浮かべますか?

 おせち? 門松? お年玉?

 僕は正月って言うと真っ先に『お餅』を想像するんです。

 雑煮、海苔巻き、きなこ餅……

 やっぱ餅でしょ!


 中吉商店街には饅頭屋さんがあって、暮れになるとお餅作りに大忙しなんですけど、そこで食べるつきたての餅、これが最高なんですよね。

 特にあんこ餅。

 スーパーで売ってるあんこ餅はいつまでも硬くならないですけど、この店のはすぐ硬くなるんです。普通のお餅ですからね。でも、この出来たてが抜群に旨い。勿論、饅頭屋さんだから餡子あんこの味も一級品ですしね。


 と言うわけで、お待ちかねのお便りコーナーです。

 今日のお便りは、ペンネーム『奥様は麻呂まろ』さんからです。




 悠也先輩こんにちは!

 ……はい、こんにちは。

 僕は夢見る花の高校一年生男子です!

 ……はい、そうですか。

 ところで、悠也先輩はすっごくモテますよね。麻美華さんにも綾音さんにも、勿論礼名ちゃんにも。だけど僕はモテないんです。人生十五年生きてきましたけど、告白を受けたことなど一度もありませんし、運命の出会い、ってのもありません。妹はひとりいますが、所詮は妹です。兄のことなんか眼中にありませんし、僕も何とも思いません。

 どうしたら神代先輩のようにモテまくりになれますか?

 ヤッパ顔ですか?

 それとも金持ちじゃないとダメとか?

 お願いです、モテる秘訣を伝授してください!




 ……ってなお便りですけど。

 前にも似たようなお便りがあった気もしますが、その時は役に立たない回答をしましたっけ。


 じゃあ、今回はホンネでお答えしますね。

 あのですね、高一で告白受けたこともなければ、未だ運命の出会いもないって、それ普通ですよ。すごく普通。だいたい、女の子から告白受けるってあまりないですから。

 いや、あったとしても男は鈍感だから気がつかないんですよ、特に中坊は。


 でもね、僕思うんです。

 そんなにモテて嬉しいのかって。

 いいですか、奥様は麻呂さん。

 日本は一夫一婦制です。

 仮に一夫多妻制だったとしても大金持ちじゃないと多妻なんて無理です。

 確かに僕は桜ノ宮さんにも麻美華にも、そして礼名とも仲良くしています。

 でも、みんなと恋人になってみんなと結婚して、って訳にはいきませんよね。

 いずれ誰かとの辛い別れがやってきます。


 僕、思うんですよ。

 青春の切なさって別れの数と同じじゃないかって。

 それも、フラれるよりも振る方がよほど辛く切ないんじゃないかって。

 だから、モテることは決していいことじゃない。

 ひとりの人を好きになって、必死の想いで告白して受け入れて貰って、そうしてふたりの歴史を刻んでいく。これがきっと最高に幸せな姿なんですよ。


 だから奥様は麻呂さん、まずは恋い焦がれるほど好きな人が出来てからの話です。それまで告白されたりモテる必要なんてこれっぽっちもありません。

 安心してチェリーボーイ生活を満喫して下さい。



 と言うわけで、次章予告です。

 いよいよ両親の一周忌です。

 一年越しで親戚一同が会する場、当然桂小路も姿を見せて。

 知らない親戚も姿を見せて。

 波乱の予感におののくチェリーボーイ!


 次章、「喪服のままで抱きしめて」も是非お楽しみに。

 チェリーボーイな神代悠也でした。


 って作者さん、次章タイトル、本気マジっすか?


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