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お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第二十二章 お兄ちゃんはサンタじゃない!(後編)
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第22章 第2話

 サンドイッチを食べ終えると園内を散策した。

 彼女はポインセチアの特設コーナーの前で歩みを止める。


「綺麗ね! 色んな色があるけれど、あたしはやっぱり赤が好きかな。ねえ神代くんは?」


 見渡すと赤い色が多いけど、ピンクや白やまだら模様なんかもある。


「僕も赤かな」

「嬉しいっ! ねえ知ってる? ポインセチアってこの季節に咲くから別名クリスマスフラワーって言われるのよ。あたしの家にもたくさん咲いているのよ!」


 言いながらポインセチアのような真っ赤な髪が僕の肩に寄り添ってくる。


「ねえ、神代くん……」


 ちらりちらりと上目遣いに僕を見上げてくる桜ノ宮さんが、近い近い!


「な…… なにかな……」

「神代くんって…… 真面目よね」

「えっ?」

「ううん、何でもない。ねえ、少し寒くない?」

「そうだね」


 ふわり微笑みながら俯くと僕の腕を取る桜ノ宮さん。

 ふたりはまた園内を歩き出す。

 十一時も過ぎて園内の人も増えてきた。

 そして、すれ違う男どもはみんな彼女を振り返る。


「今年は本当に楽しかったわ。辛いこともあったけど今思えばいい想い出ばかり」


 彼女の大きな胸の膨らみが僕の腕に伝わって。


「ごめんね、色々振り回しちゃって。桜ノ宮さんにはずっとお世話になりっぱなしで」

「何言ってるの! お世話になったのはあたしの方!」


 彼女は六月の選挙の話を持ち出す。一家は礼名と僕に救われたとか大袈裟なことを言う。だけど、オーキッドをオープンさせるにあたっての手続きとか許認可とかで困ったときに親身に相談に乗ってくれたのは彼女だった。勿論商店街の人達も手を貸して助けてくれたけど、何せ突然のことだったから彼女の応援は本当に心強かった。


「ねえ困ったことがあったら真っ先にあたしに相談してよ!」

「あ、ああ……」

「絶対よ! 指切りよ!」


 勢いで指切りさせられた。

 ウソついたら赤ちゃん1000人産ませるそうだ。多分死ぬ。

 僕は時間を確かめるとお土産物の建屋に入る。昨日はプレゼント貰いっぱなしだったから、何かプレゼントを返さなきゃだよね。

 だけど僕のその提案を彼女はあっさり拒絶する。


「そんなこと気にしなくていいのに!」

「だけど、何かさ。あ、これなんかどうかな」


 僕が指差したのはチューリップの花が顔になって両手が球根と言うゆるキャラらしいぬいぐるみ。


「ちょっと不気味よ。どうしてゆるキャラってこんなに不気味率が高いのかしら?」

「それ言うと身もふたもないよね。激しく同意するけど」


 全国のゆるキャラファンをふたりで敵に回してしまった。


「それに買うんなら自分で買うわよ!」

「いやだけどさ、昨日プレゼント貰ったじゃないか。しかも礼名の分までも!」

「神代くんの生活が大変な事は知ってるのよ! 気にしないでよ!」

「いや、しかし……」

「しかしもお菓子も案山子かかしもないわ! でも、どうしてもって言うんなら……」


 彼女は急に僕を真っ直ぐに見つめる。


「神代くん、ううん、悠也くん。今日からあたしのこと、綾音って呼んで」

「えっ?」

「あたしも悠也くんって呼ぶから、綾音って呼んで。それが最高のプレゼント」

「ちょっと待ってよ。無理だよ。少なくとも僕が『悠也くん』なら、桜ノ宮さんも『綾音ちゃん』だよね」

「じゃあ、それで」

「えっ?」

「一歩前進! 綾音ちゃん、で決定ね!」

「ええ~っ!」

「今言ったじゃない! じゃ、約束ね、悠也さん・・!」

「だけど!」

「男に二言はないはずよ! ウソついたら赤ちゃん1000人産ませるわよ!」

「ううう……」


 途中、僕の敬称が『くん』から『さん』に入れ替わった気がするが、それより何より彼女を名前で呼ぶことになってしまった。


 上手くめられたな、こりゃ。


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