第21章 第5話
「メリークリスマ~ス!」
ぱんぱんぱん ぱぱぱんぱん!
クラッカーが弾ける音にみんなの笑顔も弾ける。
「今日はささやかですけど料理とかケーキも用意しています! 是非ご堪能下さいねっ!」
礼名の案内でオーキッドのクリスマスパーティーが始まる。
今日ばかりは高田さんも奥さんと仲良くターキーを頬張っている。
細谷さんもパチンコで大勝利だったらしい。
「太田さんは残念だったんですね」
「大丈夫よ悠くん、明日こそ負けを取り戻してみせるから!」
いやいや、取り戻すって今日はイブ、明日はクリスマスですよ! お金じゃなくて青春を取り戻しましょうよ、太田さん!
「れいねえちゃん、おにくもたべていいの?」
「勿論よ、ななちゃん。いっぱい食べてねっ!」
「うんっ!」
パパとママの分もどっさり肉を持っていくななちゃん。
どうやら後でローストビーフのおこぼれに預かる…… と言う淡い期待は捨てた方が良さそうだ。
狭い店内は満席状態。
麻美華と桜ノ宮さんにはパイプ椅子に座ってもらってる。
「その衣裳どうしたのかしら? 悠くんと礼っちだけ真っ赤なサンタ衣裳なんてずるいわ。麻美華の分はどこなの?」
「そうよ神代くん! ペアルック着てると妊娠するわよ!」
「しねえよ!」
サンタの衣裳をペアルックというのなら、学校の制服もペアルックになるのではないだろうか。但し、男と男、女と女、ではあるが……
「この衣裳は今日のホスト、即ちお兄ちゃんと礼名にだけ許された特権なんですっ! おふたりにはこちらのトナカイの衣裳が……」
「「いらないわっ!」」
どこから借りてきたのか、礼名はサンタの衣裳を二着準備した。
「お兄ちゃん、これ借りてきたんだよ、いいでしょ! その代わりお願いなんだけど、クリスマスの日は三時から予定空けておいてね! 絶対だよっ!」
どこから借りてきたのかは未だ僕も知らなかった。
「まあ仕方ないわね。それより悠くん、ちょっといいかしら」
麻美華は僕を手招きすると窓際に立ち、赤いバッグの中から可愛いラッピング袋を取り出す。
「はいこれ。メリークリスマス!」
「えっ、あ、ありがとう」
麻美華からのクリスマスプレゼント。
完全に頭から抜けていた。どうしよう、僕は何も用意していない。
「使ってくれると嬉しいわ」
「開けてもいいかな?」
「もちろんよっ!」
袋の中から出て来たのは青いマフラー。所々目が詰まっていたり緩かったり。
だけど、それだけに僕は強く心打たれる。
「これって……」
「言わないでっ! 世界でたったひとつだけなんだから。小さな失敗は大きな心で目を瞑るものよ……」
目を瞑るも何も、あの上から目線の倉成家のお嬢さまが手編みとか……
と。
「神代くんっ、あたしからもっ!」
今度は桜ノ宮さんが小さな包みを目の前に差し出す。
「えっ、桜ノ宮さんまで!」
「へへっ、気に入って貰えると嬉しいんだけど、あっ、礼名ちゃんにもあるわよ、はいっ!」
背後で僕らの様子を伺っていた礼名にも彼女はプレゼントを差し出す。
「今年はホントにお世話になったからね。ねえねえ開けてみてっ!」
驚いた風の礼名。彼女も予想外だったのだろう、一瞬口をぱくぱくさせる。
「あ…… あの、いいんですか……」
「あ・け・て・み・てっ!」
ちらりと礼名は僕を見る。そうして丁寧にラッピングを開けていく。中から出て来たのは洒落た赤い革手袋。
「うわあっ! 可愛いっ! 綾音先輩、ありがとうございますっ!」
礼名の笑顔に思わず僕まで嬉しくなる。
「神代くんもほら、開けてみてよ!」
僕の箱から出て来たのは黒い革手袋。色違いのお揃いだった。
「これ、凄く高いんじゃない? いいの?」
「何言ってるの! 今年は桜ノ宮家を救ってもらったのよ。それがたったこれっぽっちなんて、こっちの気が引けるわよ。それに、ほら!」
彼女の手にはピンクの革手袋が握られて。
「みんなお揃いよっ!」
「ちょっと綾音、私の分はないのかしら?」
「えっ、麻美華の分? あるわけないでしょ!」
「じゃあ、あなたのピンクの革手袋を、このわらしべと交換しましょう」
「しませんっ!」
「くっ。仕方ないわね。じゃあこのわらしべは礼っちにあげるわ」
麻美華はぶっきらぼうに可愛い紙袋を礼名に差し出した。
「えっ?」
「ほら早く受け取りなさいよ。礼っちのよ」
「ま…… 麻美華先輩……」
「凄いね悠くん、サンタクロースがプレゼント貰いまくりの図だね!」
肩を叩かれて振り向くと、にやり三矢さんが笑いながらトイレへと歩いて行く。
確かにそうだ。
去年まで僕らはプレゼントを貰う方だった。僕も礼名も両親のプレゼントを楽しみにしていた。本だったりゲームだったり決して高くはないプレゼントでも嬉しかった。だけど今年からは違う。僕は礼名に渡す方…… なのに。
礼名へのプレゼントは格安のアルバム一冊。それも実際は彼女のものではなく、毎年クリスマスの写真を積み重ねていこうという礼名のアイディアに乗っかったふたりのもの。一体何をしているんだ僕は。麻美華からのプレゼントだって予想出来たはずなのに。
「開けていいですか、麻美華先輩っ!」
礼名が紙袋を開けると中からは赤いリボンが巻かれた本が一冊。
『僕は妹に魅せられる』!!
クイーンズ文庫なる何だかヤバそうな文庫本だった。
それ、高校生が読んでいいのか?
「うわあっ! この本読みたかったんですっ! でもお金ないし、図書館にも入ってこないしで諦めかけていたんですよ! 麻美華先輩、よくわたしが欲しい本が分かりましたねっ! 嬉しいですっ! ありがとうございますっ!」
礼名はサンタの衣裳を着たまま大はしゃぎ。
「でしょ! この本いいわよ! 私も感動しちゃったわ!」
何故か麻美華と抱き合う礼名サンタ。
一体何なのだ。その本のどこがふたりをそんなに惹きつける?
「えっ? 麻美華先輩も読んだんですかっ! そんなに感動したんですかっ!」
「勿論! 素晴らしいわっ! この本は世界中の妹たちのバイブルよっ!」
凄くヤバイ予感がした。
僕はふたりに割って入る。
「礼名にまでプレゼントくれて本当にありがとう」
「本当です! 今日はみんなにプレゼントを貰って礼名はとっても幸せ者ですっ! 綾音先輩、麻美華先輩、そしてお兄ちゃんもありがとうございますっ!」
「「お兄ちゃん、も?」」
その一言に麻美華と桜ノ宮さんが激しく反応する。
「礼っち、悠くんから何を貰ったの! 白状しなさいっ!」
「そうよ礼名ちゃん! ちゃんとお披露目しなくちゃずるいわ!」
「えっ? お兄ちゃんからは貰ったと言うより、未来への第一歩と言うか、ちょっと待ってくださいねっ!」
そう言うが早いか、礼名は居間へ駆けていく。
「何なの悠くん、その未来への第一歩って?」
「まさか、礼名ちゃんの赤ちゃんを身ごもったとか!」
「だから、どうしてそうなる!」
僕がふたりに責められていると、礼名が嬉しそうに今日買ったアルバムを持って来る。
そして、それをふたりに見せながら自慢を始めた。
「神代くん、何この写真! ツリーの前でツーショットって、ずるいにもほどがあるわ!」
「そうよ! 毎年クリスマスに一枚ずつ増やしていくですって! 礼っちとだけなんて許せないわ!」
「何を言っているんですっ お兄ちゃんとわたしは恋人同士で兄妹で、そして明日のパートナーなんですよっ! おふたりとは違いますっ!」
「悠くんっ!」
キッと僕を睨みつけたのは麻美華だった。
「明日クリスマス、麻美華とデートしなさいっ!」
「えっ?」
「ちょっと待ってよ! クリスマスは綾音とデートしてくださいっ!」
「ええ~っ!」
* * *
結局、クリスマスには三人と順番にデートすることになった。
午前中は桜ノ宮さんと、昼からは麻美華と、そして三時からは礼名と。
「ねえ、どうしてあんな事言ったのよっ!」
パーティーの後片付けが終わると礼名が不服を口にする。
「だって仕方がないだろ。みんなは贈り物を持って来てくれたのに僕たちは何も用意してなかったんだし」
「だからってお兄ちゃんがデートしなくても……」
明日二十五日のクリスマス、僕は礼名と三時から約束をしていた。だからふたりにデートを迫られたときは大変困った。
僕はその時のことを思い出す。
「悠くん、まさか断るとか言わないわよね。何なら礼っちに買って来た、その本の感想を今ここで述べてもいいのよ!」
礼名が手に持つ『僕は妹に魅せられる』を見ながら麻美華が曰う。
「いや、それはその……」
どう考えても脅迫だった。
「あっ、わたし聞きたい麻美華先輩の感想! 弟さんしかいない麻美華先輩がこの本にどんな感想を持ったのか凄く興味ある!」
「ああわかった、わかったよ倉成さん! 明日デートしよう! だけど三時からは外せない用事があるから…… そ、そうだ順番ってのはどうかな。九時から昼までは桜ノ宮さんと、昼から三時までは倉成さんと、なんて」
一日中でないとイヤだとか、じゃあ他の日にとか駄々をこねるかと思ったが、ふたりはあっさり僕の案に肯いた。
「三時からはちゃんと礼名と一緒じゃないか。なあ許してくれよ」
パーティーの残り物をひとつの皿に移し替えながら礼名は渋々と言った声を出す。
「まあ今日はプレゼントを貰いましたし、わたしも何も用意していなかったのも事実ですし、仕方がないと言えば仕方がないのかもですけど……」
イブの夕食はパーティーの残り物。
礼名が精魂込めて作ったローストビーフはひとかけらも残っていなかった。
「玉子サラダも売り切れか。ほとんど付け合わせの野菜ばかりだな」
「ごめんなさい、お兄ちゃん。今日は青虫になった気分で味わおうよ。その代わり明日はご馳走用意するから」
礼名は手を合わせると、残ったターキーを全部僕の目の前に並べ、自分は野菜を頬張る。
「だけど今日はサンタの服着てたのに、貰ってばっかりだったね、プレゼント」
「そうだね。僕らが用意したお土産のクッキーなんて安くてホントに気持ちだけだったからなあ。あのふたりだけじゃなくって高田さんからも三矢さんからも、七菜ちゃんのご両親からも貰っちゃって」
僕は目の前のターキーを半分礼名の方へ戻すと野菜を頬張る。
「安目さんもね、有馬記念を取ったらいいもの買ってきてくれるですって!」
「また万馬券狙いか?」
「でしょうね、うふふっ!」
「ははははっ!」
イブの夜。
少しばかりのターキーとたくさんの野菜を食べながら、楽しかった今日をふたりで語り合った。
第二十一章 完
第二十一章 あとがき
ご機嫌麗しゅう、倉成麻美華ですわ。
いつもご愛読感謝していますわ。
この話も早いものでもう二十一章。
いったいどこまで引っ張るつもりか作者に聞いたのですが、「僕にも分からないんだ、なはははっ!」ですって。どうやら何にも考えていないみたい。この章と次章だって「なろう」の「冬の童話祭」に触発されて思いついたクリスマスストーリーらしいです。そのくせ童話の方はいいネタ浮かばなかったとかで参加してなくて。アホな作者でホント申し訳ないです。まあ、皆さんに喜んで貰えてるならそれでいいんですけど。
二十一章、そして次の二十二章もテーマはクリスマス、そしてサンタクロース。
皆さんはクリスマスにプレゼントを貰いましたか? それとも誰かに贈りましたか?
麻美華は贈ったし貰いもしました。これって凄く幸せなことだと思うんです。だってそれだけ大切な人がいて、大切に思われてるって事ですよね。えっ、なに? サンタはホントにいるのかって? そんなの聞くだけヤボです。だってサンタは伝説上の人。だからサンタはいるかという質問は、神様を信じるかと同レベルの質問ですからね。
と言うわけで、今回もお便りコーナーです。
こんにちは麻美華ちゃん。
……はい、こんにちは。
わたしは今、青春バリバリ謳歌中の大学二年生です。ちなみに彼氏は絶賛募集中です!
……頑張ってくださいね。
さて、この話を読んでいて思ったんですが、勝負下着ってやっぱ黒か赤なんでしょうか? クマさんは許されないんでしょうか? 実はわたし昔っから可愛いパンティが好きで明日の合コンにもクマさん穿いていこうと思ってたんですが、この話を読んでそれじゃダメなのかなって思って。やっぱり男の人と飲みに行ったら万が一って事もありますよね! ってか、ぶっちゃけそれが目的ですからね。わたしのリラ●くまパンツじゃダメなんでしょうか。教えて、麻美華ちゃん!
って。
それ、大学生のお姉さんが高校生に聞く内容ですか?
ハッキリ言っときますけど、わたし歴とした処女なんですけど。
多分、綾音も礼名ちゃんも、ついでに七菜ちゃんもみ~んな処女ですよ。
と言うわけで、ここに作者の模範解答例があるので引用しますね。
えっと、クマとかブタさんとかウサギとか、そんなの見た瞬間に現実に引き戻されるからやめてくれ、ですって。
ちなみに勝負下着の三原色は「黒、ピンク、白」(作者選定)だそうですが、どうせ暗いところで見るから色は何でもいいんですって!
でも作者さん、麻美華思うんですけど、クマとかブタさんだと一気に興ざめってのは分からないでもないんですけど、じゃあセー●ームーンとかな●はとかま●かだったら? その趣味の人にはいいんじゃないですか? えっ、経験ないから分からない? お願い麻美華さま、一度穿いて僕に見せてって?
ばち~ん!!
えっと、失礼しました。
では、次章の予告です。
やってきましたクリスマス。
ひょんな事から順番に三人の美少女たちとデートすることになった神代悠也の忙しくも羨ましい一日が幕を開けた。ふたりだけのクリスマス三連チャン。果たして悠也の運命や如何に!
次章「お兄ちゃんはサンタじゃない!(後編)」も是非お楽しみに。
あなたのアイドル、倉成麻美華でした。
って、作者さん大丈夫ですか! 平手打ち一発で気絶しないで下さいよ~っ!




