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お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第二十一章 お兄ちゃんはサンタじゃない!(前編)
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第21章 第3話

 ステージ前には溢れんばかりの人、人、人。


 今日はクリスマスイブの前日。

 別の言い方をすると天皇誕生日、そして中吉らららフレンズミニコンサートの日。

 店は今、岩本と田代さんに任せている。


「お兄ちゃ~ん! 準備出来たよ~っ! 入ってきていいよ~!」


 控えのテントに入ると、真っ赤なセーラーワンピースを身にまとい、可愛い茶色のショートブーツで揃えたとびっきりの美少女達が僕に向かって笑顔を向けた。


「「「メリークリスマ~ス!」」」


 ズバキュ~ン!


 可愛いっ!

 可愛すぎる、綺麗すぎる、キラキラ輝きすぎている! 鼻血ブーしなかったのが奇跡だ!


「きょ、今日は頭に真っ赤なサンタ帽なんだ……」

「はいっ! クリスマスライブですからねっ! お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうんですよっ!」

「それはハロウィンだろ礼名」

「クリスマスって、サンタがよい子の元に赤ちゃんを運んでくるのよ!」

「サンタが子供に赤ちゃん授けてどうすんだよ、桜ノ宮さん」

「貴女たちはサンタクロースの事を何も知らないのかしら。情けないわ。サンタはね、年の瀬も迫ったイブの夜に人知れず煙突掃除をして回る、お掃除ボランティアの方なのよ! そして靴下の中に請求書を入れていくわ」

「いや、それボランティアと言うより押し売りだよね、倉成さん」


 見た目は凄く綺麗なのに、頭の中はとても残念なヤツらだった。


「で、どうかしら、この真っ赤な帽子」

「うん、クリスマスっぽくて良い感じだよ! 子供達もきっと喜ぶよ! 外はもうお客さんでいっぱいだよ!」


 僕の言葉に嬉しそうに顔を見合わせル三人。


「お客さん多すぎてプレゼント渡すのが大変かもだけど、張り切っていこう!」


「「「はいっ!」」」


 そして、彼女達はステージへと飛び出していった。


「「「メリークリスマス~っ! 中吉らららフレンズで~すっ!」」」


 うわああ~~っ!!


 大きな歓声に迎えられ、笑顔でオープニングナンバーを歌い始める。

 ステージの上の三人はスポットライトがなくてもキラキラと輝いて、どこか遠く手の届かない存在に感じてしまう。いや、よく考えると高校に入った当初は麻美華も桜ノ宮さんも僕とは無縁な遠い世界の人だった。学校の人気者で凄いお金持ちで僕なんかとは住む世界が違った。それが今ではウザイほどに絡まれる毎日だけど、あらためて彼女たちを見るとやっぱり凄い。


 麻美華さま~っ!!

 綾音ちゃ~ん!!

 礼ちゃ~~ん!!


 そしてそんな圧倒的ハイスペックなふたりに混じっても一歩も引かない、いや凌駕しそうな声援を受ける僕の妹・礼名。ブラコンを炸裂させて僕を困らせる彼女の本当の気持ちはどうなのだろう。僕を好きだと言ってくれるのは、身寄りのない僕に対する彼女の優しさではないのだろうか……


 気がつくとステージはクリスマスソングメドレーに突入していた。

 ジングルベルに続いては赤鼻のトナカイ、そしてサンタが街にやってくる……

 子供ウケを狙ったステージはこの後クリスマス寸劇へと続き、二曲ほど歌を披露したあと子供達へのプレゼントで締めくくる予定だ。


 舞台袖から会場を見回す。

 そう広くない公園は観客でぎっしりだった。買い物客や親子連れも多いが、目立つのは若い男性達と小さな子供達。このミニコンサートの宣伝ポスターに『よい子のみんなにプレゼントもあるよ!』と書いてあるので、子供が多いのは思惑通りだけど、独身チェリー野郎どものこの数に、やはり中吉らららフレンズの人気は凄いと再認識させられる。


「神代先輩、そろそろ出番ですよ!」


 手伝いに来てくれた笹塚さんの声。

 今日の寸劇は僕も一役担っていた。


「それはある、クリスマスイブの夜でした~っ!」


 寸劇が始まった。

 シナリオは僕の書き下ろしだ。


「さあ、今年も日本のよい子達にプレゼントを配りまくるわよ~っ!」


 サンタクロースが大活躍するイブの夜。

 大きな袋を背中に背負い、子供達にプレゼントを配って回る桜ノ宮さん扮するサンタクロースは、目まぐるしい忙しさの中につかの間の休憩を取っていた。


「ああ重たかった。袋はここに置いて、ちょっとひと休みっと!」


と。

そこへ忍び寄る黒い影。


「へっへ~! ちょろいもんだぜ! このプレゼントの袋はいただきだ~! 子供達のプレゼントはひとつ残らず売りさばいて、お金に換えてやるぜ~!」


 泥棒役は僕だ。

 桜ノ宮さんの背後から大きな袋をこっそり奪うと、一旦ステージを降りる僕。


「あっ! プレゼントがないっ! ここに置いていた子供達への大切な大切なプレゼントが、盗まれた~っ!」


 必死でプレゼントを探す桜ノ宮サンタ。

 やがて彼女の前に現れたのは、正義のヒロイン、サンタレンジャーのふたりだ。


「どうしました?」


 心配顔で尋ねるサンタレッドの麻美華。

 置いていたプレゼントが忽然と消え、弱り果てていると語るサンタ。


「安心してください! 盗まれたプレゼントはわたしたちが絶対奪い返して見せます!」


 力強く宣言するサンタホワイトの礼名。

 ふたりのサンタレンジャーは泥棒を探しながら一旦ステージを下りる。

 そうして、僕はまた大きな袋を持ってステージに上がる。

 あとは泥棒がサンタレンジャーに見つかりギッタギタにボコられてハッピーエンドへ一直線、と言う寸法だ。


「ぶわっはっはっは! このプレゼントは全部、叩き売り払ってやるぜ~!」


 悪役らしくおどろおどろしい声を張り上げる僕。


「「お待ちなさいっ!」」


「げげっ! その声はサンタレンジャー! どうしてここが!」

「簡単よ! 会場のよい子達があなたの居場所を教えてくれたのよ!」

「くそっ! 会場の子供たちめ! 余計な真似を~!」


 会場に向かって大袈裟に大上段から殴りかかる僕にサンタレッドの回し蹴りが飛ぶ。


「うぎゃっ!」


 当たってはいないけど僕は派手に吹っ飛ぶ。

 と言うか、今、一瞬見えた!


「このヤロ~!」


 立ち上がって反撃する僕にサンタホワイトのハイキックが襲いかかる。


「よい子へのプレゼントを盗むとは許せません!」

「ぐはっ!」


 勿論当たってはいないが、僕はその場にうずくまる。

 ってか、また見えちゃった!


「会場のみんなも力を貸してね~っ! せ~のっ! よい子に代わってお仕置きよっ!」


 二人は手を繋ぐとサイドキックを僕に浴びせる。


「うぐぎゃばぼがあ~っ!」


 ド派手に後ろに飛び退くとそのままステージに横たわる。


「ま、まいった~……」


 と、これで勝負ありなのだが、今、ダブルで見えたよ、麻美華の赤と礼名の白が。

 ああ幸せだ~。


「はい、サンタクロースさん。これ、子供達への大切なプレゼントですっ!」


 麻美華は大きな袋を拾い上げると桜ノ宮サンタクロースに手渡す。


「よい子のみんなに届けてくださいねっ!」

「勿論ですっ! ありがとうサンタレンジャー! よい子のみんな~ この後のプレゼントタイムでみんなにも渡すから楽しみに待っててね~っ!」


 こうして事件は一件落着。

 めでたしめでたし、で幕が下りる話なのだが……


「ぐすん! 俺だって…… 俺だって家で待ってる子供たちに暖かいご飯を、年に一度くらいガッツリと厚切りのステーキを食べさせてあげたかっただけなんだよ~!」

「分かっているわ」


 チャリン!


 泣きじゃくる泥棒の前に一枚の金貨を投げ置くと、サンタレンジャーは颯爽と去っていく。


「ど、泥棒の俺にも、こんな大きな金貨を! あ、ありがとう、サンタレンジャー!」


 この最後の蛇足部分は、僕のシナリオに礼名が勝手に書き加えたものだった。


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