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お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第二十一章 お兄ちゃんはサンタじゃない!(前編)
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第21章 第1話

 第二十一章 お兄ちゃんはサンタじゃない!(前編)



 きたる新年、神代家に正月はない。

 正月はない、と言うのはいささか変か、正しくは正月を祝わない。

 そう、喪中だからだ。


「お兄ちゃん、喪中用のはがき買ってきたよ。早めに書いてしまおうよ」


 押し入れから去年の年賀状を持ち出す礼名。こうしてみると父や母への賀状の数が如何に多かったかよく分かる。


「親戚とお客さんの分はわたしが書くからね、これ、お兄ちゃんのお友達の分」


 いや、友達の分なんてたいしてなくて、その親戚とお客さんの分が大変なのだが。


「親戚の宛名も僕が書くよ、礼名は字が綺麗だからお客さんの分は頼む」

「いいの? ありがとうお兄ちゃん!」


 そうしてふたりでペンを走らせる。


「いよいよ喪があけると結婚一直線だねっ!」

「まだ年齢的にも無理だろ!」

「じゃあ、婚約一直線だねっ!」

「兄妹は結婚出来ないって!」

「やっちゃったもん勝ちだよっ! あのお母さんだってお父さんとやっちゃって家を飛び出したんだよっ!」

「母さんは…… それはそうだけど、そこだけはマネしちゃダメだって母さん言ってただろ!」

「あっ…… そうだね。ごめんなさい、お兄ちゃん」


 僕は両親に拾われた。だから両親は「できちゃった婚」じゃないんだけど、本当のことを隠すため、母はいつもそう言っていた。


「だけどさ,お母さんはいつも『あなたたち兄妹が仲良くしていると一番嬉しいわ』って言ってたよね。だからやっぱり結婚しなくちゃだよ!」

「どうしてそうなる!」

「礼名の勘だよっ! お母さんの「仲良く」って言葉には結婚って意味が含まれてたんだよっ!」

「んな訳ねえだろっ!」


 てへへへっ、と舌を出して宛名書きを続ける礼名。

 やがて一段落したのか、はがきの束をトントンと整えた礼名は壁を見つめた。礼名の視線の先、カレンダーは十一月も終わりを告げている。


「そう言えば、そろそろクリスマスだね」


 礼名の目がキラキラ輝き出す。


「って、まだ一ヶ月はあるよ」

「色々準備しなくちゃだよ。オーキッドの飾り付けしなくちゃでしょ! サンタさんの格好とか演出も考えなくっちゃでしょ! クリスマスメニューも考えたいよねっ。それに……」


 なるほど、オーキッドもクリスマスに備えて模様替えという訳か。例年街を見ても十二月に入るとクリスマス一色だから、礼名の言う通りそろそろ準備を始めなきゃいけないのかも。


「あっ、あとね。プレゼントなんていらないからね。クリスマスは美味しいディナーを用意するから、礼名も食べちゃっていいんだよっ!」

「落としどころは、いつもそこだな」

「そのまま食べても美味しいけど、ベッドで温めると更に美味しくなるよっ!」

「そんなこと出来るかっ!」


 想定通りに話がんでいた。


「ヤれば出来るよっ! 男ならここでバシッと決めちゃおうよ! お正月も祝わないから、クリスマスの後は一周忌いっしゅうきが待っているだけだよ。ちょっと気が重いでしょ。だからその分楽しくやろうよ!」


 正月過ぎると父母の命日が来る。そして一周忌にはまた親戚が集まる。多分あの桂小路も来るだろう。礼名はそのことを憂慮している。


「確かにね。あっ、そうだ。母さんがやってたみたいにイブの夜は常連さん招いてパーティーしようか?」

「それいいねっ! 今年のクリスマスは金曜だけど、公開授業の振り替えでおやすみになるしねっ!」

「そうか、今年のクリスマスは学校休みか」


 喪中はがきの宛名書きを終えるとクリスマスの飾り付けについて打ち合わせを始める。楽しい計画は準備も楽しい。


「お兄ちゃんはサンタ帽を被ってねっ。礼名もサンタさんの格好するからっ!」

「それはいいけど、そんな衣裳どこにあるんだ?」

「へっへ~! 心当たりがあるんだっ!」


 クリスマスメニューを書き出しながら礼名が微笑む。

 母は例年、クリスマスイブの夜に常連さんを招いて小さなパーティーをやっていた。

 パーティーと言ってもフライドチキンなんかの軽い食事とケーキを振る舞って楽しい時間を過ごして貰おうと言うささやかなものだ。やってくるのはイブの夜に予定が埋まらない常連さんと言うわけだけど、カップルで参加してくれる人もいたし年配のご夫婦もいた。母は日頃の感謝も込めてとコーヒー代以外は全てサービスしていたっけ。勿論僕たちも手伝いながら唐揚げやケーキのおこぼれを頂戴した。


「ところでさお兄ちゃん。お兄ちゃんはサンタクロースって信じてる?」

「えっ、サンタクロース? 本物の?」


 突然、クリスマス定番の『サンタさんは実在するか』論争を始める礼名。もしかしてプレゼントを期待しての発言?


「そうだよ、サンタクロース。『お父さんがサンタさん』とか『恋人がサンタクロース』とか、そんなんじゃないよ。本物のサンタクロースだよ」

「そうだな…… いると思いたい、けどね」

「わたしは信じてるよ、サンタクロース」


 彼女は真顔で僕を見つめる。


「それ、新種のおねだりか? サンタさんへの」

「そんなんじゃないよ! わたしはお兄ちゃんをサンタさんだなんて思ってないよ! だってお兄ちゃんは…… っと、お茶入れようか」


 急に口ごもった礼名は台所へ向かうとお湯を沸かし始める。


「欲しいものがあったら言ってみろよ。礼名はとっても頑張ったんだしさ」

「お兄ちゃんこそ欲しいものはないの? 例えば、礼名とか、れいなとか、レイナ、とか?」

「他に選択肢はないのかっ!」

「ないよっ! 一択問題だよっ! 正解率100%だよっ! 今年のクリスマスは礼名が大売り出しで大解放で金利ゼロパーセントなんだよっ! 朝になったら靴下の中に礼名が入っているよ! お兄ちゃん限定プレゼントだよっ! 取り扱いは丁寧にしてくれなくちゃいやだよっ!」

「そんな、サンタが新種の人身売買みたいなことしていいのか?」

「ちがうもん! 礼名は清く正しいプレゼントだもん!」


 そう言って僕を睨みつけた礼名はすぐに笑顔になる。


「へへっ。クリスマスはふたりでゆっくりしようね、お兄ちゃん」


 やがてお茶を持って来た礼名は何かを思案している風だった。これは、今年のクリスマスには礼名にプレゼントを用意しなきゃいけないな。きっと礼名も同じ事を考えているんだろうし……


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