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お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第二十章 とある聖應院の一日
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第20章 第5話

 藤院理事長と大友王子、それに高杉に連れられて、僕らはリムジンに押し込まれた。


「どこへ連れて行くんですか! 宮川校長は了解してるんですか!」

「宮川校長は知らないわ。ただ、ふたりにはこのまま帰って貰う訳にはいかないのよ」


 藤院理事長は意味ありげに笑いながら、車を出すように命じる。


「脅迫なんかに絶対負けませんよ! 僕たちは南峰をやめませんから!」


 僕は藤院理事長を睨みつける。しかし返ってきたのは意外な答えだった。


「ええ、分かってるわよ。あれだけハッキリ断られたら仕方がないわ。これから向かうところはふたりのおもてなし会場よ」

「おもてなしって、僕たちは聖應院に行かないんですよ!」

「ええ、分かっているわよ。もう勧誘の話はしないから安心して」

「じゃあ何のために!」

「なあ神代、絶体悪い話じゃないっすから、付き合ってくれっす」

「高杉は行き先を知ってるんだな!」

「まあ、新種のドッキリと思って欲しいっす」


 どこに連れて行かれるのだろう。

 まさか、実は桂小路が裏で糸を引いているとか……

 礼名も不安そうに車窓を見ながら僕の耳元で囁く。


「大友の屋敷とかじゃないよね……」

「……」


 先日オーキッドへ現れた大友財閥の首領ドン、大友倫太郎。そして大友財閥の支援を受ける聖應院。今回の件に大友の力が働いていることは間違いない。それは理事長も認めている。しかし、だ。理由が分からない。目的が分からない。単に王子が礼名を気に入っている、それだけのことで大の大人がこんな行動を取るだろうか。

 やがて車は見覚えがある建物の横を通り過ぎる。ホテルオートモだ。そしてそれから数分後、ビルの谷間の静かな通りに車は止まった。


「さあ、着きましたよ」


 藤院理事長に促され僕らは車を降りる。そこは都会の真ん中にぽつんと建つ、広い庭園を備えた料亭だった。


「いらっしゃいませ」


 出迎える仲居さんたち。

 いかにも敷居が高そうな玄関を堂々とくぐり抜ける理事長、そして大友。


「あ、どうもどうも……」


 高級料亭なんかに縁がない僕はぺこぺこ頭を下げながら玄関を通る。そんな僕の後ろをついてくる礼名。


「何が始まるのかな。逃げ帰った方がいいのかな」


 しかし、僕らの後ろには高杉がいる。


「きっと旨いものが喰えるっすよ!」

「……」

「デザートはプリンがいいっすね」

「…………」

「おやっ? 神代はプリン嫌いっすか? シャーベット派っすか? それともおしるこ派っすか?」

「………………」

「違う? じゃあいちご大福っすか? チーズケーキ? かき氷メロン味?」

「……………………」

「分かったっす! 栗羊羹、一本丸ごとっすね!」

「いや、プリンがいいけど……」


 結局、僕らは案内されるがまま、奥の座敷へと通された。

 そこにいたのは眼光鋭いひとりの紳士。


「お待ちしてましたよ」


 大友倫太郎おおともりんたろう

 大友財閥のトップにして王子の父親。


「「えっ?」」


 僕と礼名の疑問を先読みするように彼は答える。


「今日はおふたりの新しい門出をお祝いしようと思ってこの席を用意したのだが、残念ながら断ったそうだね。だから今日はただの食事会だ。わしからのささやかな贈り物と思って欲しい」

「いやしかし、僕らは大友さんにそうして貰う理由がありません」


 僕の言葉に礼名も肯く。

 しかし大友氏は大きく首を横に振った。


「理由は、ある。そこは後でゆっくり話そうじゃないか。まあ座り給え」


 彼が合図をすると仲居さんたちが次々と料理を運んできた。新鮮な刺身の盛り合わせに豪勢な海の幸や山の幸の焼き物、寿司、天ぷら、茶碗蒸し……


 最初は警戒心MAXだった僕らだが大友倫太郎が語ったその「理由」はあまりにも意外で、いつしか彼への警戒心は消えていた。


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