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お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第二十章 とある聖應院の一日
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第20章 第1話

 第二十章 とある聖應院せいおういんの一日



 重厚なドアが開くと黒くゆったりとしたソファが待っていた。


「ようこそ聖應院高等学校へお越し下さいました。さあ、こちらへ」


 紺のスーツを着た長身の綺麗な女性が僕らを迎え入れる。


「私、当学園理事長の藤院小百合とういんさゆりです。そんなに緊張しないで、さあお座りください」

「無理矢理僕らを連れ去っておいて緊張しないではないでしょう! すぐにここから出してください!」


 僕の抗議を、しかし彼女は笑顔で一蹴する。


「安心なさい。南峰の校長先生も了承済みですから」


 さらりと長い銀髪を揺らすと手に持った電話の子機を操作する。そして二言三言言葉を交わし僕にそれを手渡した。耳に当てると聞こえてきたのは南峰の宮川校長の声だった。


「ああ神代くんだね。藤院とういんさんから聞いて貰った思うけど、今日は一日聖應院を見学してくると良い。君たちにとって凄く良いオファーもあるそうじゃないか。担当の先生たちには連絡済みだから今日は一日藤院理事の言うことを聞くように。じゃあ」

「あっ、校長先生! 僕らはその、校長~っ!」


 電話は一方的に切られた。

 どうせまた上の方から圧力でも掛かったのだろう、頼りないのは髪の毛だけにして欲しい。


「ねっ、言ったでしょ。私達は貴方たちご兄妹のために力になりたいって思っているのよ。そんなに睨みつけないで、さ、お掛けなさいな」


 僕は横に立つ礼名を見る。じっと藤院理事長を凝視している礼名を見ると僕は少し冷静になった。


「大友会長の策略ですね」

「違うわよ。確かに依頼は大友くんからだけど、貴方たちおふたりをお招きしようと決めたのはこの私よ。勿論、聖應院をご支援戴いている大友財閥の御了承も戴いてるわ」

「わたしたちは普通の高校生です! こんなところにお招き戴く理由はありません!」


 睨みつけたまま声を張り上げる礼名にも、彼女は笑顔で応える。


「そうね。だけどこの学校の生徒たちもみんな普通の高校生よ。あなたと何も変わらない」

「じゃあどうしてこんな事するんですか!」

「みんなのためよ。あなたがこの学校に来てくれたら、きっと良い影響があるはずだわ。色んな意味でね」


 カツカツカツ……


 歩み寄ってきた彼女は、立ち尽くす僕らを交互に見る。


「ソファーも嫌われたものね。じゃあ先に学校を案内しようかしら」

「案内なんていりませんっ!」

「朝の一件を怒っているのなら謝るわ。だけど電話の通り今日は南峰にも戻れないんだし、案内させてくれないかしら」


 微笑んではいても、その切れ長の瞳には有無を言わせぬ凄みがある。

 宮川校長も今日一日この人の言うことを聞けと言っていた。強引に脱走しても話がこじれるだけだろう。

 僕は礼名を見て小さく肯く。そして藤院理事長にも小さく肯いた。

 

          * * *


 廊下に出ると学校の立派さが伝わってくる。

 通路は重厚で品があり、窓の作りも立派だ。校庭も広く美しい。理事長室の前からエレベータに乗り上階へ上がる。四階で降りるとそこは二年の教室だった。藤院理事長は数学の授業らしい教室で歩を止めると担任と話をする。程なく大友会長と高杉が廊下へ出て来た。


「これはようこそ神代さん。歓迎するよ。来てくれてありがとう」


 爽やかな笑顔でイケメンの王子。


「いや、今日はあくまで見学だけどね」


 がしっ!


 不意に高杉に握手された。


「いや神代が来てくれると嬉しいっすよ! あとで部活とかも案内するっす!」

「だから見学だけだって」

「パソコン研究部もあるっすよ! 美少女ゲーライブラリーも充実してるっす! 一緒に攻略するっす! あっ、これ先生には絶対内緒の話しっすけど」


 理事長の目の前で堂々とエロゲーの話をする高杉。

 あとで大切なゲーム達が没収の憂き目に遭わないか心配だ。

 教室を覗き込むと、みんな行儀よく前を見ている。壁にはエアコンも付いていた。清潔で広く、ひとクラスの人数も南峰より少ないみたいだ。


 ふたりと別れるとまた階下へと降りる。そして藤院理事長の説明を聞きながら学校を見て回った。


 二千人収容という、劇場のように重厚な講堂はコンサートホールにもなるらしい。

 トレーニングジムまで付いた南峰の二倍はある大きな体育館。

 リゾートに来たのかと勘違いしそうな屋内温水プール。

 建物が独立した二階建ての広い図書室はビデオライブラリーまで揃っている。

 商店街にあるコンビニよりも品揃え豊富な売店に、食堂は明るく広大なカフェテリアみたいだった。

 敷地は広く緑が豊か。ピクニックに来ても良さそうだ。


 どれくらいの時間が経っただろうか、僕らは校内の小さな教会へと案内される。


「いかがですか、当校の施設は」


 校内を案内する彼女の説明に自慢や誇張は感じられず、あくまで淡々と事実を並べたものだった。だけど、それらはどれもが南峰のそれを圧倒的に凌駕りょうがしていた。


「凄いと言うか、立派というか……」

「ありがとう。勿論、学校の善し悪しは施設で決まるものではありません。どれだけおふたりに合ったサービスが出来るのか、どれだけおふたりの能力を伸ばすことが出来るのか、それが学校の善し悪しを決める全てです」


 言ってることは正論だ。

 礼名も特に反論するつもりはないようだ。


「生徒会のみんなが是非おふたりと昼食をと言うことですので、これから食堂へ案内しますね。ではまたその後で」


 藤院理事長は僕らを食堂へと案内すると軽く手を振り去っていった。


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