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お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第十八章 ラストダンスで抱きしめて
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第18章 第5話

 案内された先は豪華なシャンデリアが煌めく白い空間だった。


「お待ちしておりました、南峰生徒会の皆様」


 ホスト役の聖應院生徒会長・大友貴久おおともたかひさが僕らを迎え入れる。


「先日の交流会でのお礼も兼ねてこの席を設けました。是非楽しんでください」


 広々とした部屋の中央には大きなテーブルがあって、色とりどりの美味しそうな料理たちが銀の食器を彩っている。

 その周りには純白のクロスが掛かったテーブルが数卓。その内のひとつを取り囲んでいた聖應院生徒会の他のメンバーたちも歩み寄ってきた。


「まあ、堅い話は後回しにして、お腹も空いたでしょう!」


 晩餐会はあっけないほど簡単に始まった。

 部屋の端で待機していたホテルのボーイたちが僕らにシャンパングラスを配っていく。


「アップルタイザーとオレンジジュースがございます」


 麻美華は大友会長と何やら話をしている。

 晩餐会へ招待を受けた謝辞でも言っているのだろうか。

 僕は料理の数々を眺める。

 ローストビーフがあるぞ! 霜降りの美味しそうなヤツだ。やった! キープだ。


「お兄ちゃん、前菜からだよ!」


 横から礼名がささやく。僕の脳内が読めるのか、こいつ。


「やあ、神代さん!」


 振り向くと聖應院生徒会のマネージャー、高杉定家たかすぎていかが笑っていた。


「あっ、高杉さん。先日はどうも」


 彼は僕の横に立つと親しげに話し始める。


「呼び捨てでいいっすよ。高杉で」

「あ、じゃあ、僕のことも神代で」


 僕らは手に持ったアップルタイザーで乾杯する。


「喫茶店経営って大変っすよね? 困った客もいるだろうし」

「ああ、まあ大変かな。だけど、うちはいいお客さんばかりだよ」

「それは羨ましいな。うちは仏具店やってるけど、大変っすよ」


 チラリ周りを見るとみんな料理を取り始めていた。


「じゃあ、料理でも取るっすか」


 僕の視線を見ていたのか、高杉は歩き始める。気が利くヤツだ。


「しかし、君んとの学校、可愛い子ばっかりっすね。すごいっす!」

「たまたま生徒会に可愛い子が集まっただけだよ。聖應院だってレベル高いんだろ」


 お嬢さまお坊ちゃまが集う聖應院が美男美女揃いという噂は有名だった。実際に生徒会役員はクールビューティーとイケメンばかり(但し童顔の幼児系ひとり含む)だ。


「そうかなあ? 確かに裕福な家庭の子ばかりではあるけどね」


 僕らの前では礼名が皿にテリーヌを盛っている。


「ところでさ、神代は彼女いるの?」

「えっ、いないけど」


 しかし、彼は僕の答えに不思議そうに首を傾げた。

「ふうん、そうっすか。ま、僕もいないけど」


 オードブルには色とりどりのパテやテリーヌ、スモークサーモンやホワイトアスパラの料理などが並んでいる。どれを見ても旨そうだ。高杉はそれらを少しずつ皿に盛る。


「ところで、君の妹は?」

「妹が、何か?」


 高杉の後からオードブルを取っていると彼はあっけらかんと僕に尋ねる。


「妹さんは彼氏いるの?」

「ああ、いないと思うよ」

「そうっすか。あんなに可愛いのにね」


 まさか高杉は礼名に気がある、とか?


「ただ…… ブラコンの気があるけどね」

「ああ、そうっすね。あれは凄かったっす」


 王子とふたりで店に来たときのことを思い出したのだろう。わたしの青い鳥はここにいる、お兄ちゃんこそわたしの青い鳥だ、とまくし立てた礼名の激烈なブラコンぶりを。


「ミエミエだから気付いてると思うけどさ、王子のヤツ、あっ、王子って大友のことな。あいつ礼名ちゃんにゾッコンらしい」

「…………」


 それは前から感じていた。

 初めて会った交流会のときも、その翌日に高杉とふたり店に来たときも、分かりやすいくらい礼名に視線を向けていた。


「ってことは、王子のライバルは神代ってことっすね」

「いやいや、僕らは兄妹だから」


 ふたりは近くにある空いたテーブルに料理を運ぶと舌鼓を打つ。

 フォアグラと甘いフルーツを使ったテリーヌが抜群に旨い。

 横のテーブルでは麻美華と童顔の青柳が何やら談笑している。そしてその前に料理を手にした礼名が立った。


「礼名さん、料理はお口に合いますか?」


 グラスを持った王子がその横に寄ってくる。


「あっ、はい。素晴らしいお料理ですね。最高の食材を惜しげもなく使って、最高の技術で丁寧に作られてるのが分かります」


 そうだよな。僕らはいつも制約ある材料を、制約ある人数で、制約ある時間の中で何とか必死で料理にするわけで。礼名の言いたいことはよく分かる。


「いやあ、そう言って貰えると嬉しいよ。ホテルオートモは世界中の著名人も使っている伝統と格式あるホテルなんだ。今日は楽しんで貰えると嬉しいよ」


 目尻を下げて礼名に語りかける王子の後ろで、彼を睨んでるのは五条さんだ。


「だけど、あの五条さんって子は王子に気があるんじゃないの?」

「ああ、そうっすよ。茶綾は王子の第一のお妃候補っすからね」

「えっ?」


 第一のお妃候補って?


「五条家は大友家と代々繋がりがあるらしくってね。茶綾は幼少の頃から王子と親交があったらしいっす。将来の縁談を念頭にね」


 彼は僕の疑問に答えると、更に続ける。


「だけど王子は家同士の関係とか全く気にしないみたいでね。茶綾のことも気にしてないみたいっす」

「……」


 王子は更に礼名に語りかけている。


「礼名さんのドレス、すごく似合ってますね」

「ありがとうございます」

「貧乏だなんて言ってたけど、この衣裳は凄くいいものだよね。素材も仕立ても最高級だ。実はスポンサーが付いているとか?」

「あ、ええ、会長の倉成先輩がわたしのためにって誂えてくださったんです」

「倉成さんが?」


 その言葉に青柳と話をしていた麻美華が視線を向ける。


「ええ、先輩がわたしのために、って誂えて下さったんです。こんなに素敵なお洋服はわたしも初めてなのでとっても感謝しています」


 礼名の嬉しそうな笑顔は麻美華がいることも意識してだろう。麻美華も澄ました表情は変えないけれど、どこか満足げだ。


 しかし。


「普段から苦労してるんだから、それくらい報われても当然だよね。だって礼名さんって成績はいつもトップなんだよね。聖應院に来たら特待生として学費も寮費も教科書代も全額免除するよ。どうかな、ちゃんと話はつけてあるんだ」


「「「えっ?」」」


 礼名だけじゃない。僕も麻美華も思わず声が漏れた。


「聖應院だけじゃないよ、大友財閥も全面的にバックアップするよ。だから寮の食費も制服代も、ヨーロッパへの修学旅行費用も全部無償だ。礼名さんも、勿論お兄さんもね」

「ちょっ…… ちょっと待ってください! 修学旅行のおやつ代は?」

「僕のを分けてあげるから大丈夫だよ」


 礼名のボケをマジメに返す王子。


「だけど…… どうしてわたしたちにそんなお話が?」

「今言った通りだよ。礼名さんの成績も、大臣賞も貰っているお兄さんの実績も聖應院の特待生として申し分ないものだ。理事長先生も太鼓判を押しているよ。聖應院の特待制度は大友財閥も全面的にバックアップしていてね、待遇には絶対の自信があるんだ。あ、勿論、倉成財閥の奨学金みたいに卒業後は自社に勤めろなんてイヤらしい制約も一切ないから安心だ。大友財閥のサポートは万全だよ」


 ニヤリと笑う王子。

 一方、倉成財閥を揶揄された麻美華は苦虫を噛みつぶしたように彼を睨みつけている。


「待ってください大友さん! わたしにはそんなことして貰う理由がありません」

「理由? 困ってる友達がいたら手を差し伸べる。そんなことは当たり前じゃないかな。まあ、どこぞの財閥のお嬢さまには当たり前じゃないのかも知れないけど」

「いいえ、わたしは困ってることなんてこれっぽちも……」

「よく考えてよ、これはお兄さんにとっても素晴らしい話だと思うんですよ」


 麻美華は悔しそうに唇を噛みしめている。

 礼名は僕と麻美華を交互に見て、そして。


「倉成先輩も桜ノ宮先輩もわたしたちを心から心配してくれて、いつも力になってくれます。わたしは南峰が大好きです。だから折角のお話ですけど……」

「まあ、結論を急がなくてもいいから。よく考えてみてよ」


 僕にも軽く会釈をして王子は料理の方へと向かった。


「な、君の妹にゾッコンだろ、王子のヤツ」

「そうかもだけど、今の話って……」

「いい話だろ! あれでも王子は君たち兄妹のことを色々考えてるっすよ」

「単に下心満載ってだけじゃないか?」

「そう言うなよ。あいつが積極的に動くって意外と珍しいっすから」


 仮にどんなにいい話であっても麻美華の事を考えると大友の話しに乗るわけにはいかない。だって僕は麻美華の兄なのだから。


「だけど、あの話は断る事になるよ」

「どうしてっすか? やっぱりあれ、相手が大友だと気が引けるとか? だけど神代だって、あの桂小路の血を引いてるんだろ! 茶綾の家より凄いじゃん」

「ど、どうしてそのことを?」

「君の学校のヤツに聞いた」


 彼らも通り一遍のことは調べているらしかった。


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