第17章 第6話
月曜日、授業が終わると隣の席から声が掛かった。
「さあ、行くわよ悠くん」
例によって上から目線を炸裂させる麻美華。
今日は放課後、生徒会役員への招集が掛かっていたのだった。
「あ、生徒会室ね。僕はちょっと用があるから先に行っててよ」
「なぜ今すぐ行かないのかしら。この私が一緒に行こうと誘ってあげているのよ」
「えっと、ちょっと岩本と話が……」
「あら、岩本さんは用事があって今すぐダッシュで家に帰らないといけないはずよ。ねえ、そうよね、岩本さん!」
「えっ、別にそんな用事は……」
「そうよね!」
「……そうです」
最近、麻美華に抵抗するだけバカらしいと悟っている岩本は、あっさり引き下がる。
「じゃあ神代、あの件は明日な」
「仕方ないな」
「と言うわけで悠くん、腕を組んで行きましょう」
「何でだよ! おい、ちょっと……」
と言う間もなく僕は左腕を取られる。
彼女の長い金髪から甘い香りが漂って、腕に伝わる柔らかな感触に一瞬で顔が熱を帯びる。
「こ、ここは教室だよ! 放せよ、どうしてそんな……」
「決まってるじゃない、ほら!」
「お~い、お兄ちゃ~んっ!」
その瞬間、麻美華の視線の先に礼名が現れた。
「ね、やっぱり来たでしょ。礼っちに見せつけてあげましょう」
「お兄ちゃ…… って、何してるんですかっ! どうして麻美華先輩と腕を組んで真っ赤な顔をしてるんですかっ! 破廉恥極まりないですっ!」
「あら、私と悠くんは席が隣同士だから当然の行動よ。むしろ熱く抱擁して唇を重ね合っていないことが不思議だわ」
「ぐぬぬぬぬ…… 先輩が可哀想だから同情して生徒会に入ってあげたのに…… 恩を仇で返すと言うんですね! しかし礼名は引き下がりませんよっ!」
麻美華に引っ張られて廊下に出た僕の右腕に礼名が腕を絡ませてくる。
「ちょっ、落ち着け礼名」
「わたしは十分落ち着いてますよっ! もし本能のままに行動したなら、今頃わたしの必殺右アッパーで麻美華先輩は月の裏側まで飛んでいってますっ!」
「あら、もしあなたのその右腕が私を地球の引力圏から離脱させるほどのパワーを振るったのだとしたら、超高速運動するその右腕は肩からもぎ取れ月の裏側まで飛んでいくことでしょうね。勿論その反動であなたの胴体は地球内部に深くめり込んでしまっているはずよ。作用反作用の法則ね」
「理系バカっぽい反論をする人ですね!」
僕の両腕を取って左右から口論するふたり。まいったな。もう煮るなり焼くなりレンジでチンするなり、どうにでもしてくれ。
廊下を歩く人達の好奇の目に晒されながら生徒会室へ辿り着くと、桜ノ宮さんが驚いたように駆け寄ってくる。
「どうしたの、その強制連行状態は? 神代くん悪事働いて現行犯逮捕?」
「違うよ! このふたりが勝手に僕の腕を……」
「右から左から子作り三昧?」
「腕組んでも子供は出来ねえよっ!」
「じゃああたしもっ!」
桜ノ宮さんは僕を背後から抱擁してきた。
「三つ子が出来たらどうしましょう!」
「だからデキねえよっ!」
「すごいハーレム状態ですね! 事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものです!」
新会計、笹塚千帆の赤い眼鏡の奥がキラリと光る。
「ちょっ、もうやめようよ。ほら、笹塚さんが呆れ返ってヨダレ垂らしながらメモ取ってるよ。真面目にやろうよ。ってか、笹塚さんもなにメモってるんだよ!」
「ネット小説を書こうかと」
「はあっ? ネット小説?」
「そうですよ。タイトルは『神代悠也は選ばない』。ねっ、なかなかいいタイトルでしょ! 異世界ハーレム系のラブコメですよ。主人公の神代悠也は来る者拒まず美女たちを次々とお供につけて鬼ヶ島へと魔王退治に出かけるんです。あっ、勿論100%フィクションで登場人物は全て架空の設定ですのでご心配なく」
「ってか、僕の名前そのまま100%ノンフィクションじゃん!」
僕はふたりの腕をふりほどくと、そのメモを木っ端ミジンコに破り捨てた。
「あああっ、わたしのリビドーが!」
笹塚さんも結構危ないヤツだった。
「千帆りん、小説アップしたら教えなさい。宣伝してあげるわ」
「倉成さんも調子に乗らないでよ!」
僕が睨みつけると麻美華は少しつまらなそうな顔をして。
「ところで今日集まって貰った用件だけど……」
彼女は会長席に置いてあった一枚の紙を手に取った。
「実は、聖應院高校から親睦晩餐会のお誘いが来ているのよ」
「何ですか、その親睦晩餐会って?」
「要は食事会ね。それも来週金曜日の放課後。ただ場所が……」
彼女はその紙を会議テーブルの真ん中に置いた。それはメールが印字されたもののようだった。
「みんなも知ってるわよね。県央にある超高級ホテル、ホテル・オートモのメインダイニングよ」
「「「「ええっ!」」」」
ホテル・オートモ。
大友グループが経営する我が国を代表する超高級ホテルだ。政府要人とかハリウッドスターも当たり前のように使っていると言う。僕もホテルの場所は知っているけれど、畏れ多くて入ったことはない。見た目にも格式と風格が溢れまくる建物だ。
「と言う訳よ。平日の放課後だから制服で行きたいけど、ドレスコードは確認しておくわ」
みんなは会議テーブルに置かれたその紙を一斉に覗き込む。
その様子を見ながら麻美華は礼名の肩を叩いた。
「礼っちは明日の放課後の約束も、忘れないでね」




