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お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第十七章 礼名の青いワンピース
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第17章 第3話

 交流会も終わり、みんな帰っていった。

 残ったのは田代さんと岩本、そして僕たち兄妹。


「すみれちゃんは誰が好みだった?」

「みんなイケメンでしたよね。五条って女もイヤミな感じだったけど美人は美人だったし。岩本さんタイプでしょ?」

「ご名答! クールビューティって感じだよね。だけど遠慮しとくよ。性格きつそう」

「いつも男に囲まれてチヤホヤされてるんでしょうね」

「イケメンに囲まれてやりたい放題のやられたい放題だな!」

「いいなあ、やられたい放題って。すみれもやられたい放題な目に遭ってみたい!」

「その点、南峰生徒会は神代のハーレム状態だよな。ずるいぞ神代!」


 勝手な想像をして盛り上がっていた田代さんと岩本も、片付けを済ませ帰って行った。

 時計の針は夕方四時を回っている。


「何だかどっと疲れたね」

「そうだね、お兄ちゃん。普通に働いている方がずっと楽だね」

「しかし、あの五条さんって子、酷いことを言うよな」

「あ、着替えのこと? まあそうだけど…… だけどさ、五条さんって王子のことが好きみたい。だからあんな事言ったんじゃないかな」


 それは僕にも分かった。彼女の視線とか表情とかすごく分かりやすかった。はっきり顔に書いてあった。『王子はわたくしのものよ。他の女は近づくな』と。けれども、だからといって礼名の大切な服を貶すような発言はひどいと思う。


「五条さんって可愛らしいと言うより、何というかな、シャープな感じだったじゃない。だからわたしの服は合わなかったんだよ。好きな人の前で似合わない服を着るのってイヤじゃない。それよりグラスを倒した青柳さん、天井が低いから手が引っかかったとか言い訳ばっかりして、男なのにダメダメだよ」


 意外にも礼名は五条さんをかばった。


「五条さんが王子を好きなのはミエミエだったけど、王子の方は礼名に気があるんじゃないか?」

「えっ?」


 僕は今日感じたことをストレートに口に出す。礼名は数瞬の後、すぐに手を横に振りながら全面否定した。


「ないない。相手は天下の大友財閥の御曹司だよ。こっちは学校でも左に出るものはないと言われる完全無欠の貧乏礼名だよ。麻美華先輩とか綾音先輩ならともかく、あるわけないよ」

「そうかな?」

「百万歩譲ってそうだとしても、礼名にはお兄ちゃんという世界一素敵なフィアンセがいるんだからねっ!」


 からんからんからん


 ちょうどその時、店の扉が開いた。


「いらっしゃいませ~ って、麻美華先輩?」


 南峰の制服姿のままで入ってきたのは麻美華だった。


「ちょっと休憩させて」


 そう言うとカウンターに腰掛ける。

 聖應院のみんなが帰るのを見送って、また歩いて戻ってきたのだという。それにしては少し時間が掛かりすぎだが。

 彼女はお冷やを口に含むと大きく息を吐く。


「ねえ礼っち、来週火曜日の放課後は空いているかしら?」

「えっ? はい、生徒会以外には用事ありませんけど」

「じゃあ空けておいてね。ふたりで楽しいことしましょ!」


 麻美華は礼名に向かって珍しく笑顔を向ける。


「楽しい事って?」

「楽しい事は楽しい事よ。女同士でする楽しい事って決まってるでしょ?」

「女同士でする、楽しいこと…… って、まさか」


 一瞬口に手を当て赤面する礼名に間髪入れず麻美華がつっこむ。


「あなた今、ヘンな想像したわよね。頭の中に百合の花が満開になったわよね! 違うわよ。人前でしても平気なことよ」

「麻美華先輩、人前であんなペロペロとか、こんなグチュグチュとかしても平気なんですかっ? それってヘンタイですよっ!」

「私、そんな趣味ないわよ! 想像するあなたがヘンタイよ!」

「じゃあ、何なんですか? 女同士でやる楽しい…… って折り鶴?」

「女ふたりで折り鶴折ると快感が走るのかしら。それこそヘンタイだわ」

「違うんですか? じゃあ甘味処の食べ歩き十軒制覇、とか?」

「お腹に脂肪が炸裂するわよ! まあ、一軒くらいなら行ってもいいけど」

「だったら…… ドッチボール?」

「女ふたりでドッチボールって、その発想は何?」

「じゃあ、カバディ?」

「もういいわよ。当日のお楽しみと言うことで」


 いまだぶつぶつ呟きながら考え込んでいる礼名をよそに、麻美華はカウンター

に置いてあるメニューを広げる。


「倉成さん、ひとつ聞いてもいいかな?」

「あら悠くん、他人行儀ね。麻美華と悠くんの仲なのだから、何でも聞いて頂戴」

「えっとさ、倉成さんはどうして聖應院に行かなかったの?」

「それは、麻美華は南峰にいちゃいけないってことかしら?」

「違うよ、怒るなよ。僕はただ……」

「ええ分かってるわよ。どこぞのお嬢さまなら聖應院に行くのが普通って言いたいんでしょ?」


 彼女が上から目線で語るには、理由はパパの母校だからだという。中学は有名な女学園に通っていた彼女が南峰に進むにあたっては両親の間で激しい火花が飛んだらしい。強硬に聖應院を勧めるお母さん。一方お父さんは麻美華の好きにすればいいと言ったそうで、彼女はお父さんを味方につけ、お母さんを押し切り南峰に進んだ、と言う。


「でも、今思えばきっと神様が悠くんと私を巡り合わせるためにそうしたんだと思うわ」

「ちょっと待ってください、麻美華先輩! 勝手にお兄ちゃんとの運命的な結びつきを作らないでくださいっ! お兄ちゃんは礼名が生まれたその瞬間から赤い糸でがんじがらめに亀甲縛りしてるんですからっ!」

「あら、結構ハードなのね。でもそれじゃ悠くんが可哀想だわ。もっとソフトに縛ってあげなさい! ちなみに私と悠くんは小指と小指が赤い糸で優しく繋がっているのよ!」

「ぐぬぬぬ…… 失敗しました。お兄ちゃんを独占したいと思うあまり、ロマンチックな言い伝えを下ネタチックにしてしまいました……」


 勝手に落ち込む礼名を尻目に彼女はもう一度メニューに目を落とす。


「注文いいかしら。大盛りプリンパフェ、いちご特盛りで」

「うちのプリンパフェにいちごは載ってないこと、知ってるよね?」

「訂正するわ。大盛りプリンパフェ、サクランボ特盛りで」

「はいはい……」


 そうして彼女はサクランボが十二個載った大盛りのプリンパフェをぺろり平らげると、火曜日の約束を念押しして帰って行った。



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