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お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第十七章 礼名の青いワンピース
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第17章 第1話

 第十七章 礼名の青いワンピース



 昼の十二時を過ぎた。

 店に五つしかないテーブル席の内、三つに予約済みの札を立てる。


「交流会は一時からだよね、礼名姫」


 窓の外を眺めながら田代さんが呟く。

 今日は私立聖應院せいおういん高校と我が県立南峰高校の生徒会交流会の日。

 これが新生徒会の初仕事と言ってもいい。

 例年恒例というこの交流会は両校の部活動交流を促進するために開催されている。林田前会長の話では、お坊ちゃま、お嬢さまが集う聖應院が庶民の生活を知るために南峰に声を掛けたのが始まりらしい。

 交流会は休みの日に開催されるが、そうなるとオーキッドを臨時休業にしなくてはいけない。麻美華も平日開催を掛け合ってくれたのだが門限厳しいお嬢さまも通う聖應院、放課後の開催は無理と言うことになった。そこで僕らはカフェ・オーキッドで交流会を開催するというアイディアを提案した。そうすれば休業せずに僕らも交流会に参加できる、と言う算段だ。


「一時になったらお店の方宜しくね。すみれ姫」

「勿論よ、礼名姫。今回は麻美華さま直々の依頼だもの。失敗したら殺されるわ!」

「そうね、あの、上から冷凍視線ビームは殺人的だよね。だけど、麻美華先輩はわたしたちのために凄く頑張ってくれたんだよ」


 オーキッドで交流会を開催しようと言う南峰の提案に聖應院は強い難色を示した。

 彼ら曰く、


「商店街の喫茶店? けっ! 美味しくないんだろ?」

「トイレがたったひとつ? ふたり同時にトイレに行きたくなったらどうするんだ? 外でするのかよ!」

「駐車場がないですって! 運転手はどこで待たせればいいのかしら?」

「漆黒のGが出たりするんだよな、そう言う店には」

「もっとお洒落で美味しいお店を紹介してあげるよ」


 と、電話を介した彼らの評価は最悪だった。

 対案として県央にある超高級ホテルのカフェ貸し切りを提案してきた彼らに対し、しかし麻美華はいつもの上から目線で堂々と言い放った。


「その程度の店をありがたがっているなんて所詮は三流ね。私の父、倉成壮一郎も美味いと唸ったオーキッドを特別に予約してあげようというのよ。ありがたくわたしの言う通りにしなさい!」


 さすがは日本屈指の財閥のお嬢さまだ。麻美華のこの発言に反論できる者はなかった。


「礼名姫、余計プレッシャーが掛かるよ。だけどどうして礼名姫じゃなくって麻美華さまがあたしに声を掛けてくれたのかしらん?」


 オーキッドでの開催が決まると、麻美華はすぐに田代さんに当日の応援を依頼した。僕と礼名も交流会のメンバーだ。その間は誰か他の店員がふたりをカバーしなくてはいけない。そこで以前、中吉らららフレンズ結成時に店を手伝ったことがある礼名のクラスメイト、田代さんに白羽の矢が立った。どうやら麻美華は彼女を高く買っているらしかった。


「俺に依頼くれたのは倉成さんじゃなくって神代だからな」


 もうひとりの応援要員、岩本はぶっきらぼうにうそぶく。


「どうせ俺はそんな扱いなんだよな。分かってるからまあいいけどさ」

「そんなこと言わないでください。岩本さんが助けてくれると凄く心強いです。今日はよろしくお願いしますっ!」

「礼名ちゃんにそう言われると、俄然張り切っちゃうな!」


 現金なヤツだ。


「そうそう、先日お兄ちゃんがお借りした『アイドルライブ』のOVAアニメ、凄く面白かったですっ! お兄ちゃんなんか画面にスリスリ頬ずりしながら喜んじゃって」


 余計な事言うなよ礼名。


「毎日弟や妹たちの世話をしながらアイドルを続けるってストーリーなんか、わたし感動で涙が流れちゃって。お兄ちゃんはだら~っとヨダレが流れてましたけど」


 だから余計な事を言うなよ、礼名。


「岩本さんのお陰でとっても楽しめたました。ありがとうございますっ!」

「いやあ、僕は単なるアニオタなだけで……」

「わたしもアニメ大好きですよ! また面白いのがあったらお兄ちゃんに教えてやってくださいねっ!」

「うん、も、勿論だよ! 最優先で教えるからっ!」

「あっ、お客さん! 岩本さん、テイクアウトカウンターお願いしますっ!」

「あ、はい、いらっしゃいませ! ご注文を賜ります!」


 さっきまでの仏頂面はどこへやら。岩本はテイクアウトのお客さんに僕が見たこともないような笑顔を向ける。浮かれ気分でやる気満々だ。

 礼名、煽てるの上手いな。


「お兄ちゃん、そろそろ時間かな」


 時計を見る。

 もうすぐ麻美華と桜ノ宮さん、そして笹塚さんが聖應院のみんなをエスコートして来るはずだ。あとを田代さんと岩本に託し、僕と礼名は南峰の制服に着替えた。


          * * *


 四人掛けのテーブルをみっつ繋いだ予約席に聖應院の生徒会役員共が着席する。制服姿の男四人に女生徒がひとり。美男美女がそろい踏みだ。南峰も奥の方から会長の麻美華、僕、副会長の礼名、そして桜ノ宮さん、笹塚さんの順に着席する。本当なら麻美華のとなりは副会長の礼名が座るべきなのだが、


「あら、私のとなりはいつも悠くんと決まっているのよ」


 と言う麻美華の一言でこうなった。僕は強く固辞したのだが、礼名も席順に拘る性格ではない。いや、それどころか、


「礼名はお兄ちゃんのお嫁さんになるんだから、お兄ちゃんの下座だよ!」

などと言い出す始末。もう、勝手にしやがれ。


 一方聖應院は奥から男、女、男、男、男の順だ。場末の喫茶店が物珍しいのか、みんな一様に店内をきょろきょろと見回している。


「あれ造花ね。本物の花じゃじゃないわね」

「店狭いし、テーブルも安っぽいな」


 声が漏れ聞こえる。

 悪かったね、店は狭いし調度品は安いし内装にも金は掛かってないよ。


「この壁紙、破れてるじゃん」

「ホントだ、何だか汚れてるし」


 それは今朝、高田さんが奥さんに投げ飛ばされて破れたんだよ。修繕する暇がなかったんだ。勘弁してくれよ。

 などと心の中で呟きながらチラリ礼名を見る。彼女も僕を見て苦笑していた。


 そうして、交流会は定刻通り十三時ちょうどに始まった。


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