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お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第十六章 生徒会から逃げだそう
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第16章 第6話

 金曜日の放課後、麻美華は花束を持って立っていた。


「林田会長、お疲れさまでした」

 

 ぱちぱちぱちぱち……


 南峰高校の生徒会室。

 花束を受け取ると、新しいメンバーの拍手に笑顔で応える林田会長。


「みんなありがとう。僕の仕事は終わったけど、この生徒会を皆さんが引き継いでくれると思うと本当に心強いよ。倉成新会長を中心に頑張ってくれ」


 生徒会役員の信任投票は今日行われ即日開票の結果、会長は麻美華、副会長は礼名と決まった。また麻美華の指名で書記に桜ノ宮さん、会計に笹塚さん、そして僕は会長補佐というどうでもいいポストに就いた。100%麻美華の思惑通りの結果だけど、プロセスは彼女の想定外だったはずだ。


 林田『元』会長からバトンを受けた麻美華は堂々と胸を張る。


「林田会長ありがとうございます。よりよい南峰高のためにやるべき事はたくさんありますが、この素晴らしいスタッフと一緒なら絶対やり遂げられます……」


 一通りのセレモニーを終えて。

 礼名は笹塚さんと連れ添ってハンバーガーショップへ行った。一年生同士で友好を深めるのだそうだ。

 そう言う僕は林田元会長とふたりでファミレスへ来ている。


「神代くん、好きなものを頼んでよ。奢るからさ」


 新旧生徒会の男同士、少し話をしようと誘われたのだ。


「じゃあ、ドリンクバーで」

「えっ? それだけでいいの? 今日は家に誰もいないから、僕ガッツリ食べるけど」

「僕は帰ったら夕食が待ってるんで」

「じゃあデザートくらいつければ。プリンとかあんみつとか」


 メニューを見るとデザート最安値はプリンだ。だけどプリンはオーキッドの残り物を食べることもあるし、たまにはあんみつも食べたいけど、そっちは百円高い。


「じゃあ、プリンをいただきます」

「食べたいものを食べればいいんだよ。値段とか、条件で考えなくてもさ」


 黒縁眼鏡でいかにも真面目そうな林田先輩が朗らかに笑みを浮かべる。物腰は柔らかいが、時折見せる鋭い眼光にドキリとすることがある。


「はあ……」


 結局、林田先輩はジャンボハンバーグとドリンクバー、そして僕はあんみつにドリンクバーを注文した。


「白状しておくよ。実は、生徒会に君を入れるよう倉成さんに勧めたのは、僕なんだ」

「えっ?」


 いきなりそんなセリフを平然と吐く林田先輩。

 麻美華と礼名が万一対立しても、神代くんがいれば全て上手く収まる。彼はそう言って。


「倉成さんって神代くんを見る目だけは少し違うんだよね。何て言うのかな、信頼してるって言うか、甘えてるって言うか。あんな顔は僕にも見せてくれたことがないよ」


 そして彼はドリンクバーのコーラを半分くらい一気にあおると満足そうに僕を見る。


「よかったよ。これで僕の仕事は完全に終わりだ。神代くんも知っているだろ、以前の書記と会計の話」

「はい、聞いてます」

「そうだろうね、有名な話だからね。だけどあれ、みんなは倉成さんがわがままで書記と会計をやめさせた、って思ってるらしいけど、ホントは違うんだ……」


 残ったコーラを少し飲むと、彼は続きを話し始めた。


「あまり知られてないけど、春に『文芸部予算激減事件』ってのがあってね……」


 彼の話では半年前、野球部が予算の増額を要求したのだそうだ。

 予算分配を決めるのは生徒会の仕事。

 野球部は県大会でもかなりいい成績を収め、顧問の岡田先生は態度も声も大きい人だったから林田会長もその要求を受けざるを得なかった。そしてそのしわ寄せを弱小クラブに被せようとした。中でも、たいした実績もなく、普段部室でポテチを食べているだけだ、と当時の会計に目をつけられた文芸部は一気に予算を半分以下にされた。当然、文芸部は猛烈に抗議してきたが、対応した会計と書記はそれを一蹴したという。


「僕も悪かったんだけどね」


 林田先輩は自嘲する。

 実績を上げていない文芸部が悪いんだと冷酷に突き放すふたりに、麻美華は上から目線で言い放ったらしい。


「予算を守れなかったのは生徒会の責任よね。ごめんなさい。ほら、貴女たちも頭を下げて!」


 面目を潰された格好の書記と会計。文芸部長が去った後、予算が減ったのは自分たちの責任ではないと言い訳をした。しかし、麻美華は自分たち責任だと言う。


「生徒会は全生徒の公僕よ!」

「先生が要求するんだから仕方がないじゃない!」

「じゃあ、文芸部がその被害を被る理由は?」

「文芸部って活動いい加減だし、文芸誌も面白くないし、誰も読んでないのよ!」

「誰も読まないからって、ダメな作品とは限らないわ!」


 言い争いの後、麻美華は野球部の去年の予算使用内訳を見直して職員室に乗り込み、顧問の岡田先生を説き伏せて、野球部の増額を半分以下に抑えたそうだ。勿論、文芸部の減額幅も大きく抑えられた。しかし会計と書記のふたりは面白くない。


「そりゃあ、倉成財閥の娘だったら先生相手であっても何でも思い通りに出来ますよね」

「やってもみないでそんなことを言うなんて最低な人達ね」

「そもそも小学校レベルの漢字の間違いがある、てにをはも間違ってるような最低俗悪な文芸誌を発行する予算なんて、確保しなくてもよかったんです!」

「あら、あなたの生徒会報原文には幼稚園レベルの誤字があったわよ。文芸部のことが言えるのかしら? ほら、漢字ドリルをプレゼントするから帰ってお勉強したら?」

「そんなに言うのなら全部倉成さんがやればっ!」

「ええ、そうするわ」


 …………と、これが春に会計と書記がやめた文芸部予算激減事件の真相らしい。


「やめた会計は倉成さんが横暴だと吹聴して回ったようだけど、倉成さんは生徒会の恥になると黙っていたようだね。まあ、倉成さんの言い方やり方にも問題は多かったんだけど……」


 コーラを飲み干した林田先輩は、だから新しい生徒会には期待していると嬉しそうに言う。


「今年のメンバーにはそんな失敗の心配をしなくても良さそうだし、本当に安心だよ」

「はい、任せて下さい……」

「そうそう、もうすぐ聖應院せいおういん高校との交流会もあるし、あとは頼んだよ。おっ、来たぞ、ジャンボハンバーグ!」

「ちょっと、何ですかその聖應院高校との交流会って?」

「知らない? 聖應院高校」

「それは知ってますよ、お金持ち御用達のお坊ちゃまお嬢さま学校ですよね」

「そうだよ、そことの交流会。恒例なんだよ」


 そう言うと彼は美味そうにハンバーグを口に放り込んだ。


          * * *


 夕食を終え、お茶を煎れた礼名は頬杖をついて呟く。


「あ~あ、結局生徒会に引き込まれちゃったね」


 家に帰るなりケーキ屋の小泉さんにバイトの話を断りに行ったという礼名。破格の待遇だったのにと何度も溜息を漏らす。


「で、会計の笹塚さんってどんな人だった? バーガー屋に行ったんだろ?」

「意外と面白い人だよ。マンガの影響で生徒会に憧れたらしい」

「大学の推薦入学対策で生徒会に入ったとか、そんな訳じゃないんだね」

「うん。そんな人だったら麻美華先輩は指名しないと思うよ」


 お茶を啜ると立ち上がり、仏壇に手を合わせる礼名。やおらゆっくりと顔を上げ、いつもの眩しい笑顔で僕を振り向いた。


「でも、やると決めたらちゃんとやるよ。生徒会もオーキッドも。一緒に頑張ろうね、お兄ちゃん!」



 第十六章 完




 第十六章 あとがき


 お久しぶりね、倉成麻美華よ。

 いつもご愛読本当に感謝しているわ。


 第十六章「生徒会から逃げだそう」は面白かったかしら。

 でも失礼よね、どうして逃げ出さないといけないのよ。麻美華はお母さまの命令で弟たちのお手本になるように生徒会のトップに立たなきゃいけないのよ。そんな悲しい宿命さだめを背負った私のことも少しは考えて欲しいわよね。


 さて、前にも作者が頭を下げていたけれど、読者様が「なろう」の評価点を一話ごとに増減させて叱咤激励して戴いてる件。この章ではかなり変化が大きかったようね。作者は喜んだり落ち込んだり、寒暖の差がサハラ砂漠のごとく激しくて、私見ていて面白かったわ。


 ところで、この「評価点」ですけど、例えば 8点だった評価点を、最新の話が面白くなかったから2点減らして6点にしたとしますよね。この時、なろうランキングの点数はどうなると思います?


 2点減る? 普通はそう思うでしょう。でも最近発見した事実はそうじゃありません。

 答えは「6点増える」なんです。

 どうやら日間や月間などのランキングの評価点はマイナスに変化しないようなんです。


 さっきの例で言うと。

  8点→0点

  0点→6点

 結果、マイナスは見ないから6点増える。


 となっているみたい。

 この事実を知った作者は最近、例えマイナスを喰らっても喜んでるわ。

 ホントに困ったものね。最初はこいつマゾかと思ったわ。まったく。


 では、恒例お便りのコーナーです。

 お便りネーム「誉めれば伸びるし硬くなる」さんからです。




 こんにちは、愛しの麻美華さま。

 ……はい、こんにちは。


 僕はマンガを読むのが大好きで、読まないと禁断症状が出ます。一日読まなかったら手が震えだし、二日読まなかったらガンガンと壁に頭を打ち付けてしまうのです。

 ……こんなお便り書く前に、すぐにお医者さんのところに行くべきね。


 麻美華さまはお母さまに大変厳しく育てられたとのことですが、お屋敷ではマンガやアニメは見れないのですよね? 是非僕にもマンガなしで生きていくコツを教えてください。いや、マジで困ってるんです。お願いします。




 って、よく分からないお便りですけど。

 残念ですけど、麻美華もマンガは読んでますよ。えっ、お母さまは凄く厳しいって言ってたじゃないかって? ええ、お母さまは娘のわたしには厳しいわよ。だけど弟たちと自分にはハチミツに浸かった角砂糖よりも甘いの。と言うことで、弟たちの部屋には週刊少年誌が転がってるし、お母さまの部屋に至ってはレディコミが転がっているわ。ええ、勿論読んでるわ。夜な夜なひと目盗んで。だいたいこの物語を読んで貰えれば、麻美華が下ネタに通じていることはすぐに分かるわよね。それは全てお母さまのお陰よ。毎週レディコミを読んでいる内に知識だけは無駄に豊富になったから。困ったものよね。


 と言うわけで「誉めれば伸びるし硬くなる」さん、残念でした。

 早くお近くの二次元内科で診察を受けることをお勧めします。


 と言うわけで、次章予告よ。

 ついに新しい生徒会が発足した。彼女達の最初の仕事は他校との交流会。南峰が毎年交流会を開く聖應院高校、その生徒会は金持ちにしてイケメン揃いだった。彼らとの交流会は休日開催、しかしオーキッドを休業にしたくない南峰生徒会は一計を案じる。


 次章「礼名の青いワンピース(仮)」もお楽しみに。

 朝夕寒くなってきたけど、ノーパンで寝て風邪など引かないようにね。

 この物語のメインヒロイン、あなたの倉成麻美華でした。



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