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お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第十六章 生徒会から逃げだそう
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第16章 第5話

「あ~あ、でもどうしよう。あんなこと言っちゃったけど……」


 夕食の鶏南蛮とりなんばんを摘みながら礼名は考え込んだ。

 麻美華と三人で生徒会室で話をしたあと、礼名は退学届けの撤回を申し出た。勿論その答えを待っていた校長は上機嫌で快諾した。そして昼休みになって生徒会室へ赴き副会長立候補の届けを出した。立候補は放課後で締め切られ、予想通り生徒会長には麻美華ひとり、副会長には礼名ひとりが立候補。選挙は信任投票になった。


「休みの日には生徒会の仕事はないそうじゃないか。平日の晩ご飯とかは僕も手伝うしさ」


 しかし、そんな言葉にも礼名は浮かぬ表情だ。


「うん、そこはいいんだけど。実は礼名、平日に小泉さんとこにバイトに行こうかって思ってたんだ。夕方だけでいいって小泉さんが言ってくれて……」


 『小泉さんとこ』とは中吉商店街にあるケーキ屋さん、プティフォンティーヌのことだ。七夕セールの時も礼名が一日店長でお世話になった小綺麗な人気店だ。


「どうしてバイト? オーキッドの売り上げでそれなりにやっていけるじゃないか?」

「うん。だけどね、将来のこと考えたらさ」


 やっぱり僕の大学の学費を貯めるため? 以前に麻美華がそんな話していたことを思い出す。僕の学費を捻出するために礼名は自分の進学を諦めていると言う話を。


「なあ、将来のことって何だよ? もしかして僕の……」

「決まってるじゃない、結婚資金だよ! お兄ちゃんとわたしの結婚資金。だってわたしたち後一年もしないうちに結婚するじゃない! 豪華な式はいらないけれど、礼名だって人並みに純白のドレスは着たいんだ。それから新婚旅行もね。海外じゃなくてもいいよ。ビックサイトとか、アキバ探索とか、青春十八切符で出たとこ勝負でも構わないよ。お兄ちゃんと一緒ならどんなとこでも尻尾ふりふりついてくよ!」

「安上がりだな。それならそんなにお金はかからないだろ?」

「結婚式をぺろぺろ舐めちゃダメだよ! チャペルの費用とか貸衣装とかすっごく高いんだからねっ!」


 礼名は電卓を持ち出すとポンポンとキーを叩く。そしてオーキッドの売り上げ三ヶ月分に当たる数字を出してみせる。


「これでもすっごく安い方だよ。式は後回しで入籍だけでもいいけどねっ!」

「いや、だから僕たちは兄妹だから……」

「お兄ちゃんはまだ分かってないんだね! 兄妹だって一緒に生活すれば夫婦だよ!」

「いや、それを夫婦とは言わないだろ!」

「事実婚だよ事実婚! 最初は名より実を取るんだよ! そしてじわりじわりと世間の認識を浸食していくんだよ!」


 こいつはブラコン炸裂すると頭と口の回転が異常に速くなる。まともに相手をしても絶対敵わない。


「兄妹の愛がどんなに熱く甘く楽しくラブラブかを世界中に発信しようよ! 兄妹のラブラブな写メでネットを埋め尽くそうよ! 合い言葉はシスターアズナンバーワンだよ! そしたら世界中の妹たちが目覚めるんだよ、ブラコンこそ王道、ブラコンこそ正義、ブラコンこそ究極奥義だって!」


 ノッてきたな。そろそろ彼女の暴走を止めないと。


「でさ、礼名は大学に行くんだよな」

「へっ?」


 話の腰を折られた礼名は豆鉄砲を喰らったハト状態になった。


「だから、礼名は大学に行くんだよな」

「お、お兄ちゃんも行くんでしょ、だったら、お兄ちゃんの感想とかアドバイスとか聞いてから考えるよ」

「貧乏人こそ勉強しなくちゃ、って言ってたよな、礼名」

「えっと、色々現実だってあるんだよ……」

「なあ、礼名。将来の蓄えはふたりで作ろう。僕だって平日にバイトも出来るんだし、礼名ひとりが悩まなくてもいいんだよ」


 急に真顔になった礼名は手に持っていた箸を茶碗に置く。


「ありがとうお兄ちゃん。何でもお見通しなんだね。でも男子高校生のバイトはなかなかないよ。小泉さんの話はとびっきりの好条件なんだよ」


 それは礼名を高く買っているからだろう。七夕セールの時はあっと言う間に店の商品を全て売り尽くしたんだから。だけど僕だって……


「礼名は商売上手だからね。だけどさ、僕だって奈月さんに頼んだらムーンバックスでバイトできると思うけど……」

「ダメだよお兄ちゃん! 和解したとは言えムーンバックスは商売敵しょうばいがたきだよ! そんなとこで働くなんて敵の軍門に下るようなもんだよ!」

「そうかな…… だったらほら、田代さんがバイトしてるメイドカフェ。男性スタッフ募集中だって」

「もっとダメだって! あのお店には下は高校生から上はアラフォーまで二十人ものメイドさんが在籍してるんだよっ! 対して男性スタッフはたったの三人。酒池肉林じゃない! すみれ姫が言ってたけど高校生男子は瞬きする間に取って喰われちゃうらしいよ! まあ、お兄ちゃんは信じてますけど…… 信じてますけど…… でもやっぱりダメですっ!」

「えっと…… そうそう、商店街の洋食屋ドンファンも夕方だけのバイト募集してたよね。時給900円だったと思うけど、結構いいよね」

「礼名、ドンファンの店長に時給1500円でオファー受けました。でも小泉さんとこの方がもっと条件よかったから断りました」

「凄いな礼名」

「だから、バイトのことは礼名に任せてください!」


 彼女は発達途上の胸をズンと張る。


「だけど、だからって礼名だけが背負い込む必要はないよ。隠し事はダメだよ!」

「はい……」


 神妙にコクリ肯く礼名を見ると、隠し事が多い僕は少し後ろめたい気持ちになった。



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