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お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第十六章 生徒会から逃げだそう
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第16章 第1話

 第十六章 生徒会から逃げだそう



 月曜の朝。

 文化祭も終えて今日からまた普段の授業。

 秋の朝日を浴びながら礼名と並んで校門をくぐると、聞き慣れた声に呼び止められた。


「よっ、生徒会長補佐!」

「おはようございます、副会長さまっ!」


 見ると岩本と田代さんが悪戯っぽく笑っている。ふたりとも土曜日の文化祭ステージで次期生徒会メンバーを指名するかのような麻美華の放言を聞いたのだろう。


「会長補佐じゃないし!」

「副会長になんかならないわっ!」


 しかし。

 気のせいか、周囲のみんなも僕たちをチラチラ見ている気がする。


「神代、倉成さんにあんな宣言されたらもう決まりだろ!」

「何でだよ。一方的なんだよ、あれって」

「でも相手は倉成さんだよ? うちのクラスだけじゃなく全校生徒がみんな彼女の言いなりだよ。うちの学校、生徒の自治は生徒任せだから先生に言っても無駄だし」


 礼名も田代さんに同じようなことを言われている。


「やっぱり麻美華さまの上から目線に耐えられるのって、礼名姫しかいないよね!」

「そんなことないよ。誰だって出来るって!」

「知ってる? どうして今の生徒会には書記も会計もいないのか? みんな麻美華先輩にいびり倒されてやめたんだよ!」

「えっ? そうなの?」


 知らなかった。あの尊大な態度は演技だと思っていたのだが……

 と、不意に肩を叩かれた。


「よっ、神代! お前凄かったんだな、あの桂小路一石と親戚なんだって?」


 コン研の菊池だった。


「いや、親戚って言っても遠い親類だし」

「だけど、中吉商店街の催し物のためにわざわざパリから飛んできたんだろ! すげえじゃん!」

「あっ、あれは……」

「生徒会入ったらコン研の予算増額頼んだぞ!」

「いや、生徒会なんて入る気はサラサラ……」

「じゃ、俺ちょっと急ぐし」


 僕の言い分など聞く耳持たず、手を上げ菊池は去っていく。


「……どうした? 礼名」


 横に立っていた礼名が菊池の背中を見ながらポツリ呟く。


「もしかしたら、昨日麻美華先輩が言っていた事って、このこと……」


          * * *


 昨日、即ち日曜日の夕方、カフェ・オーキッドに麻美華がやってきた。

 店の手伝いではなくて客として、だ。


 文化祭での一件もあって礼名は腹に一物、背中に荷物、頭の中はサンモリッツ。ともかく麻美華に対し怒り心頭のようだったが相手はお客さま、だ。取りあえず丁重にもてなす。


「いらっしゃいませ、麻美華先輩」

「ええ、来てあげたわよ。最初に謝っておくわ。昨日は許可なく勝手なことを言ってごめんなさい」

「えっ、あの……」


 まさかいきなり謝られるとは思っていなかったのか、礼名が返事を言い淀む。


「い、いえ、わたしも書類破いちゃったりして申し訳ありません……」

「いいわよ、書類なんて何通でもあるんだから。それより聞いて欲しいのだけど……」


 麻美華は生徒会の活動がどれだけ有意義でやり甲斐があるかを語り始める。プールの更衣室にティッシュを常備したり、購買部のパンの種類を地味に増やしたり。日陰役だけど生徒の役に立てること。そして、他校との交流会など自分の勉強にもなる事。


「分かっています。わたしだって少しは心惹かれるものはあります。だけど知っていますよね、お兄ちゃんもわたしも貧乏だし仕事もあるし、そんな時間はこれぽっちもないんです。生きていくだけで精一杯なんです」

「だからこの特別奨学生制度をお勧めしてるのよ」

「それだと、お兄ちゃんの将来を縛ってしまうじゃないですか! 倉成財閥に就職しないといけないじゃないですか!」

「いえ、それは心配いらないわ。私のパパが保証人になるし……」

「それ、おかしいですよね! どうしてそんなに便宜を図ってくれるんですか?

 絶対ヘンですよ、裏があるに違いありませんっ!」


 話は平行線だった。

 礼名は誰が何と言おうと絶対立候補なんてしないと宣言する。一方麻美華は礼名が立候補しないのなら、推薦により候補に挙げると言い放つ。南峰の生徒会は三名連記の推薦による候補擁立が可能なのだ。


「麻美華先輩がわたしを推薦したら、わたしは他の人を推薦します。みんなわたしの家が貧乏だって知ってますから、絶対同情してわたしが推す候補を支持するに決まってます!」

「そうかしら? ほとんどの人はあなたが貧乏人だと言う主張に同意しないと思うのだけど」

「そんなことありません! 南峰の生徒は麻美華先輩の言いなりじゃないんです! きっとわたしたちの真実の姿を見てくれるに違いありません!」

「本当にそうかしら? みんながあなたを見る目は変わってきているはずよ。推薦合戦になったら絶対に私が勝つわよ!」


          * * *


 そんな昨日の事を思い出していると礼名とばっちり目があった。


「ともかく、副会長になってくれる人を探さなきゃ!」


 自分自身に言い聞かせるように呟いた礼名は、慌てて教室へと向かった。



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