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お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第十五章 文化祭だよ、三人集合!
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第15章 第7話

 望峰祭は二日目に入り、いよいよ一般公開日。

 父兄や地元の人達も押しかけてきて昨日より遙かに大盛況だ。


「梅原部長、すいませんけど、ちょっと抜けます」

「ああいいよ。生徒会の出し物、妹さんも出るんだろ。綾音ちゃんにも頼まれてるし、早く行ってやれよ」


 コン研の『二次元喫茶』も大忙しだけど、少し休憩を貰った僕は中吉らららフレンズのステージを見に行った。

 体育館は開演一五分前だというのに満席だ。

 椅子席は「外部のお客さま優先」というルールがあって、南峰の生徒は椅子席を取り囲むように立っている。『麻美華さま』とか『あやねちゃん』とかの横断幕がやたら目につく。あいつら。恥ずかしくないのだろうか? 椅子席を見ると近所の小中学生や他高生、大学生でいっぱいだ。『中吉らららフレンズ☆二日限りの舞踏会』は望峰祭のポスターにも書かれ校外に貼られたので、それに惹かれたのか、去年より断然他校の生徒が多い。

 舞台を見ると、袖から手を振っている黒髪の少女がひとり。


「お・に・い・ちゃん!」


 口パクでそう言っているみたいだ。

 僕が軽く手を上げると彼女はにこやかに微笑んで姿を消した。

 やがて。


「望峰祭メインステージ 土曜日の部を開演します。先ず初めは生徒会による演目『中吉らららフレンズ☆二日限りの舞踏会』です」


 放送部員のアナウンスが流れると、続きざまに誰でも知ってるヒット曲の前奏が流れる。


「は~い、皆さ~ん、ようこそ望峰祭へ! 楽しんでいってくださいね~っ!」


 赤のセーラーワンピースに胸元の白いリボン。茶色のショートブーツで揃えたとびっきりの美少女達が手を振りながら現れる。センターに桜ノ宮さん、右サイドに麻美華、左サイドが礼名の布陣だ。


「麻美華さま~!」

「あやねちゃ~ん」


 いきなり歓声がクライマックスだ。


「れいちゃ~ん」


 二年生の二人にも劣らないほどに、礼名への声援も聞こえてくる。

 よかったな、礼名。


「さあ、皆さんもご一緒に~!」


 一番を歌い終えると観客に手拍子を要求する三人。

 七夕セール以来のステージだけど、三人の動きは息もピッタリでこっちの気持ちもうきうきしてくる。おっと、椅子席の男子が立ち上がってサイリウムを振り始めた。他校の文化祭なのに準備がいいヤツらだ。

 オープニングから二曲連続で歌い終えると、桜ノ宮さんのトークが入る。そう、そもそも中吉らららフレンズは桜ノ宮代議士の選挙応援のために結成されたのだ。だから基本的にセンターは桜ノ宮さんだ。

 彼女はローカルテレビ局や雑誌インタビューの時の裏話なんかを面白おかしく聞かせてくれる。さすが政治家の娘だけあってその語り口にグイグイ引き込まれる。


「で、麻美華ったらその写真スタジオでポーズをしたまま大声で一曲歌っちゃったんですよ。ビックリでしょ? カメラマンさんも呆然としてたし……」

「あら、あの時、一緒にハモらない貴女たちふたりには絶望したわよ。私、歌い出したら雷が鳴っても止まらないんだから」


 軽妙なアドリブの会話も織り交ぜて。


「イベントでは、あの世界的デザイナー、桂小路一石さんとも一緒に仕事が出来たんですよ。凄いでしょ! 実はね、『世界のイッセキ』はここにいる礼名ちゃんの親戚なんですよ!」

「あっ、綾音先輩、そのことは……」

「えっ、言っちゃダメだった?」

「いえ、でも、親戚と言っても遠い遠い、ほとんど付き合いのない親類ですから」


 慌てる礼名を見て桜ノ宮さんは首を傾げる。

 礼名の桂小路に対する敵愾心が如何に強いか、彼女は知らなかったのだろう。

礼名の様子が普通じゃないと見たのか、桜ノ宮さんはトークを打ち切り次の曲へと進んでいった。


 やがて。


「皆さん、今日はこんなに盛り上がってくれて、感謝するわ!」


 四曲目を終えると、軽く手を上げながら今度は麻美華がトークを始める。


「生徒会主催でお贈りしている『中吉らららフレンズ☆二日限りの舞踏会』楽しんでいただいてますか? 私たち生徒会はこの望峰祭を最後に次期生徒会選挙による新体制に移行します。今まで本当にありがとうございました」


 生徒会最後の挨拶と言う事で、林田会長も後ろに姿を見せる。


「さて、次期生徒会なんですけど、私、倉成麻美華はここにいる三人を中心に活動出来たら面白いって思ってるんです」


 えっ? 突然に何を言い出すんだ麻美華。


「私が会長になったら、綾音を書記に指名して、私のとなりの席の神代悠也くんを会長補佐に指名します。礼名ちゃん、あなたは副会長に立候補なさいな。私の厳しい指導に耐えられるのは礼名ちゃん、あなたしかいないからね」


 勝手に立候補演説始めちゃった彼女。

 一瞬、静寂に包まれた会場。礼名も驚きを隠せず、壇上で口をぱくぱくしている。

 それも麻美華の計算の内なのか、彼女は急に悪戯っぽく笑う。


「な~んて話は、私が会長に当選してからですよね。では、最後のナンバーはわたしたち唯一のオリジナル曲です。聴いてください。『となりにいるよ』!」


 振り返った麻美華は、まだ呆然としている礼名の肩を叩く。そして桜ノ宮さんと三人でハイタッチをすると、スピーカーから前奏が流れ始めた。


          * * *


「何なのよ、あれは一体何なのよっ!」


 家に帰って食事の準備を始めても、礼名の怒りは収まらない。

 ステージ上での、次の生徒会メンバーを指名するかのような麻美華の発言。

 次の生徒会選挙は来週にも始まる。生徒会長の本命は麻美華だ。と言うか、他に候補者が出ると言う噂すら聞かない。畏敬と尊敬と人気を集める学校一の有名人・倉成麻美華。他の誰が立っても勝ち目はないだろう。その、大本命にして鉄板の次期生徒会長候補、倉成麻美華のあの発言。

 南峰高の生徒会は会長、副会長を選挙で選出し、選ばれたふたりが書記や会計など残りの役員を指名する。今日の彼女の発言は次の生徒会役員に桜ノ宮さんと僕を指名したのと同義語なのだ。

 そして何より重大なのは、礼名に副会長立候補を促して、他の候補が当選してもいびり倒し排除するかのようなセリフ。麻美華にあんな事を言われて副会長に立候補できる人なんているわけない。


「策略だよ、とんでもない謀略だよ! わたしとお兄ちゃんを生徒会に引き込んで、ふたりの生活を困難にして、わたしたちを桂小路に売り飛ばす気なんだよっ!」


 ステージが終わると、礼名は麻美華に食って掛かったらしい。何てことを言うのだ、と。

 麻美華は生活の心配はするなとばかりに、倉成財団特別奨学生の申請用紙を礼名に手渡したそうだが、これを礼名が速攻破り捨てたもんだから双方がエキサイト。喧嘩状態のまま現在に至る、と言うわけだ。


「なあ礼名、どうして倉成さんが桂小路と繋がってると思うんだ? 彼女は本当に僕たちの心配をしてくれているだけかも知れないよ?」

「何言ってるのっ! そんなのおかしいよ! 絶対罠だよ! だって……」


 倉成財団の特別奨学生になると学費プラス毎月十五万円と言う破格の奨学金が貰える。しかもその奨学金は卒業後倉成財閥に勤めることで返済が免除になる。何とも超VIPな待遇なのだが、裏を返すと将来倉成財閥で働かないといけないのだ。そうしなければ利子を付けて全額返済しないといけない。

 と言うことは、奨学金を貰ったが最後、倉成の命令は絶対になる。

 麻美華は僕たち兄妹ふたりともに奨学金を勧めたそうだ。ふたりで毎月三〇万円。いくら倉成家の長女と言えど、高校生の麻美華がそんな話を決済できるわけがない。となれば、これは倉成財閥が何かの理由で僕ら兄妹の自由を奪おうとしているに違いない……

 礼名はそんな推理を元に、決めつけたように言い放つ。


「わたしたち兄妹の自由を奪おうとするのは桂小路しか考えられないじゃない!

 桂小路と倉成壮一郎はどこかで繋がってるんだよ!」

「そうかな。礼名だって倉成のお父さんはいい人っぽいって言ってたじゃないか」

「うん、そうだね。そう思うんだけど。でもさ、桂小路が金を積んだら? 倉成さんがビジネスって割り切ったら? そうじゃなきゃ、わたしたちに救いの手を差し伸べる理由がないじゃない!」

「…………」

「わたし絶対負けないよ! お兄ちゃんも会長補佐なんか指名されても無視するんだよっ! 倉成家なんか怖くないよ、来るなら来てみろってんだ!」


 フライパンを火に掛けながら礼名のエキサイトは止まらない。


「あっ、お兄ちゃんごめん。大根の葉っぱ、炒め過ぎちゃった……」


 ぺろり舌を出しいつもの笑顔に戻った礼名に、僕は愛想笑いを浮かべるのが精一杯だった。



 第十五章 文化祭だよ、三人集合!  完


 第十五章 あとがき


 神代礼名ですっ。

 いつもご愛読ホントにありがとうございますっ!

 わたしとお兄ちゃんの熱い愛の日々、お楽しみ戴いてますか?

 わたしの熱烈なラブコールにもなかなか陥落しないカタブツなお兄ちゃん。

だけど、いつも優しくて礼名のことばかり気に掛けてくれるんですよっ(はあと)。


 さて、そんなお兄ちゃんの隣の席の女、倉成麻美華先輩。彼女は何だかんだとお兄ちゃんとわたしにちょっかいを出してきて、ふたりの平和で穏やかな生活を脅かしてくるんです。お人好しのお兄ちゃんは、きっと親切でしてくれてるなんて言うんですけど、そんなの信じられませんよね! 何か悪い魂胆があるに違い有りません! 礼名は騙されませんからねっ!


 さて、またお便りが来ています。

 大学一年のあとがきネーム『二次元大介』さんからです。



 愛しの礼名さん、こんにちは。

 ……はいっ、こんにちは。

 

 突然ですが、僕は二次元の女の子しか愛せません。

 ……そうですか。


 現実リアルの女の子は何かと面倒ですよね。お誕生日にプレゼント贈らないと怒るし、バレンタインのお返し探すのも面倒だし、その上三倍返しになってないと文句を言うし、メールの返信が一分でも遅れたら浮気を疑われるし。

 デートだって、待ち合わせ時間に遅れると言葉では許しても顔が怒ってるし、ランチのお店が遠くて少しでも歩くとヒールが痛いと文句を言うし、高いディナーを奢っても、財布を出す素振りも見せないどころか、さもそれが当たり前のようにありがとうの一言もないし、次のデートの話になるとスポーツカーの助手席に乗ってドライブに行きたいなんて無理難題をふっかけるし。


 そんな現実リアルの女の子に振り回されて疲弊してしまうより、いつも綺麗で可愛くて、僕の理想にピッタリの二次元ヒロイン・瑞穂ちゃんに僕の生涯を捧げたいって思うんです。

 だけど、友達はみんな、二次元ラブなんてキモいとか、現実リアルから逃げてるだけだとか言うんですよ。


 やっぱり生涯を二次元に捧げちゃいけないのでしょうか。

 教えてください、礼名ちゃん。



 って、お便りですけど。


 二次元大介さん、ハッキリ言います。

 生涯二次元、いいじゃないですか! 礼名はいいと思いますよっ!

 二次元と結婚して二次元の子供を産んで、二次元で楽しく暮らせたら最高じゃないですか。面倒な三次元とはサヨナラバイバイしちゃえばいいんですよ!


 現実リアルって面倒ですよね。恋愛には結婚が付いてきて、結婚には義父と義母が付いてきて、家風やしきたりが付いてきて、親戚づきあいが付いてきて、子育てや家のローンや先祖のお墓までもが付いてきて。そんな面倒な三次元なんか嫌いだって気持ち、わたし分かります。いいじゃないですか、二次元で。

 あなたを悪く言った友達はいつか気がつくんですよ、二次元オタは素晴らしいって。二次元オタこそ進化する人類の終着駅だって。

 だから二次元大介さん、胸を張って行きましょう、ねっ!


 と言うわけで、次章の予告です。

 礼名を生徒会に引き込むため、文化祭のステージでとんでもない発言をした麻美華。

 彼女が企てた策略に逃げ道などはなかった。神代兄妹への破格の支援をちらつかせ、生徒会入りを迫る麻美華に礼名が取った行動とは!?


 次章『生徒会から逃げだそう(仮)』も是非お楽しみにっ。

 神代礼名でしたっ!


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