5日前 パーティー戦闘
「いました!」
アローが声を上げ草原の一角を指差した。
その方角に目を向けると黒い点のようなものが見える。遠すぎてよくわからないな。
「・・・・・・よくマヨイイヌだってわかるな?」
「遠視のスキルをもってますから」
遠視か、便利そうだが俺のジョブ構成だと取得が難しそうだ。
まあ、アローたちとパーティー組んでいる間は必要ないか。
「アロー君、マヨイイヌの数はどれくらいですか?」
「20頭くらいです。結構固まってますけど7mくらい離れたところに1頭だけのもいますね」
距離を報告するってことは、その程度離れていればリンクはしないということだろう。
今のうちにどれくらい離れていればリンクしないか確認しておこう。
「リンクする範囲はどれくらいなんだ?」
「βのときで3mくらいでした。強化されてても倍は越えないと思います」
「ちょうど1頭でいるんです。戦い方の確認も含めて一度当たってみましょう」
「了解」
マウントとルビーに声をかけ、5人でマヨイイヌの元へと向かった。
1頭だけのマヨイイヌの近くまで来た俺たちは、陣形を整えている。
「マトバさんとセンパイとマウントが一番前です。で、その後ろにルビー」
「俺とマトバさんとセンパイで壁になればいいのか?」
「そうです。それで、僕の指示で先輩が下がったら二人で支えてください」
「了解」
「あたしはぁ?」
「ルビーは後ろから魔法を撃ってください。全力でなく抑え目でお願いします」
「ん、りょうかぁい」
「センパイも大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
自分の立ち位置を確認し、マヨイイヌを見る。
ターゲットとなるマヨイイヌの後ろに群れとも呼べる規模のマヨイイヌが見える。
「よし! 準備完了! それじゃマウント、頼んだ」
「いくぜっ!」
マウントの正拳突きがマヨイイヌの胴体を打つ。
「軽い!?」
マウントが驚きの声を上げる。
予想よりも軽かったらしくマヨイイヌは1mほど吹っ飛んだ。
「まずいか? ・・・・・・っ、ルビー広範囲用攻撃魔法、詠唱始めてっ!!」
「えぇ!?」
「早くっ!!」
アローが慌ててルビーへと指示を出した。
理由は俺でもわかった、群れの中で一番近いマヨイイヌ3匹がこっちへと顔を向けたからだ。
更にその個体から約6m以内にいたマヨイイヌもこちらへと顔を向けようとしていた。
「アロー!! リンクしたと思われる奴らから更にリンクしていくぞ!!」
「マウント君、センパイ君。気合を入れておさえるよ」
「こりゃあ楽しくなりそうだっ!」
マトバさんが左手に持った盾を構えなおす。
マウントが拳を軽く握りこむ。
俺も剣を持つ手に力を入れる。
後ろからはルビーの声が訥々と聞こえてくる。たぶん呪文の詠唱をしているんだろう。
アローが身を低くして構えているのが横目に見える。
「来ます!」
アローの声に合わせるように前から吹きとばした1頭が向かってくる。
遅れて後方からも次々とマヨイイヌが駆け出してきた。
さっきアローが行っていたのは20頭。全滅させるつもりで頑張りますか。
まずはマウントが飛び掛ってきたマヨイイヌの前足をつかみ、その後ろから駆けてくるうちの1頭に向かって投げつける。
投げつけられた1頭はそれをサイドステップでよけ、速度を落とすことなくマウントに噛み付こうと跳んだ。
同時に俺とマトバにも跳び掛ってくるマヨイイヌ達。俺は剣を振り下ろし、マトバは開いた口から喉に向けて槍で突く。
俺の攻撃でマヨイイヌが吹っ飛ぶ。俺の攻撃じゃ真っ二つとは行かないか。
マトバは一撃でしとめたようで、槍の先に力なくぶら下がっているマヨイイヌを蹴り飛ばした。
「確かに軽い、それに脆い。・・・・・・アロー君、リンクは広いですが体力は低いみたいです!!」
「了解です!!」
アローの返事と共に風を切る音がし、俺が吹っ飛ばしたマヨイイヌの頭にナイフが刺さる。
これで体力が低いのか・・・・・・。やはり俺の攻撃力が低いようだ。
「・・・・・・ランドファイアー!!」
ルビーの声が響き俺達の前方の地面から火が上がり消える。
そこには3頭のマヨイイヌの焼死体があった。
「狭くてごめぇん!!」
「大丈夫です。余裕はなくなったんで思いっきりやってください」
返答をする間を惜しんだのか、アローの言葉が終わる前にルビーが詠唱を始める。
俺たちの方は前方から新手が3頭迫っていた。
「・・・・・・なっ!? 左手側から追加です!! 数はニっ!」
俺に向かって1頭が飛びかかろうと身をかがめた時にアローの声が届く。マジかっ!?
俺の首めがけて跳んできたマヨイイヌのかみつきをバックステップで無理やりよける。
壁の内側に入られた形になるが処理はアローに任せよう。
俺は新手を抑えるために左側を向く。後方で風切り音が響いた。
「マウントとマトバさんはセンパイの抜けた分の隙間を埋めてください!!」
「「了解!!」」
俺の前方から迫る新手のマヨイイヌが2頭並んで駆けてくる。
ほんとに俺で抑えられんのか、これ?
2mくらいまで近づくと2頭が左右に離れ、曲線を描いてこちらへと接近する。そして、同時に跳び上がった。
しっかり連携が取れているのが憎たらしいな。
俺は右側のヤツを剣で吹っ飛ばし、左側のヤツのかみつきを腕で受けと振り下ろした剣を逆手に持ち直し、噛み付いてるヤツの首に突き刺した。
「センパイ!!」
アローが心配そうな声を上げる。
「大丈夫だ!! それよりこいつら、頭は悪くなさそうだぞ!!」
アローに答えながら再度跳び掛ってきた1頭の口に剣を突き刺す。
痛がる暇もないな。
「センパイ、どういう・・・・・・」
「アロー君、前方から左右に2頭づつそっちに向かっているマヨイイヌがいます」
「そうゆうことですか」
どんどん追い込まれているな。
「オラッ!! ・・・・・・アロー!! どうすんだ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
アローが無言になる。打開策を考えているんだろうがそれを待つ暇はないな。
「マトバ!! そっちの残りは?」
「ランドファイアー!!」
タイミングよくルビーの魔法が発動する。
「今のであと4頭です!!」
「マトバとマウントは防御優先!! ルビーはもう一発だ!! アロー、右手側は任せた」
「「「了解っ!!」」」
俺の咄嗟の指示にアロー、マトバ、マウントが答えルビーは詠唱を開始。俺も両手で剣を構えなおす。
もうひと踏ん張り、左腕が痛むが頑張りますか!!
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
何とかマヨイイヌを倒した俺たちは、ルビー以外の全員が息を切らせてその場に座り込んでしまっていた。
「なんとか・・・・・・、なりましたね・・・・・・」
「ああ・・・・・・、よく生きてたもんだ・・・・・・」
「きつかったぁ・・・・・・」
「腕がいてぇ・・・・・・」
「みんなぁ、大丈夫ぅ?」
魔法を使って戦ったルビーは肉体的な疲れはないみたいだ。
町に戻ったら俺も魔法を覚えようかな・・・・・・魔法ってどうやって覚えるんだろうか?
「はぁ・・・・・・ふぅ。よし、とりあえず剥ぎ取るか」
「はぁ・・・・・・そうですね・・・・・・」
息を整えながらマヨイイヌに剥ぎ取りナイフを突き立てていく。
倒したマヨイイヌは全部で23頭だった。
1頭から複数の素材が剥ぎ取れることもあり、剥ぎ取れたのは皮が7枚、爪が18本、牙が12本だった。
「センパイ、これ飲んでください。回復剤です」
剥ぎ取りが終わった後、アローに渡されたのは緑の液体が入ったビンだった。
言われたまま飲むと左腕が熱くなった。そういえば左腕をかまれたんだったな。
思い出した途端痛みが襲ってくる。
「1分くらいで直るはずです」
即効性じゃないのか、緊急時に使う場合は気を付けるようにしよう。
「ありがとう。・・・・・・そういえば、戦闘中に指揮権奪ったみたいで悪かったな」
「なにいってるんですか。あの時センパイが指示出してなかったらたぶん全滅してましたよ。謝られるどころか、こっちが感謝しなきゃいけないぐらいですよ」
「そうか? まあ、気にしてないならいいんだが」
こういうことはきちっとしとかないと、どこで恨みを買うかわからないからな。
「それじゃあ、とりあえず町に戻りましょうか」
「賛成っす」
「反省会しないとですねぇ」
そうして酒場へと戻ってきた俺たちは、早速テーブルに座って反省会を始めた。
話し合いではマヨイイヌの戦力の見直しをし、それを踏まえてより効率的な戦法を考えた。
まあ、先ほどの戦法以上のものは思いつかなかったので次からは出来る限り少ない数を狙うことが決まった。
その後、反省会で時間が遅くなったのと狩りの疲れもあり今日はログアウトすることになった。
「最後にスキルを確認しておきましょう。味方の戦力の確認も重要ですから」
「確かにそのとおりだね。僕は槍術が7、盾術が4だね」
「俺は格闘術が同じく7、体捌きが6。あと、新しく手に入れた咆哮が1だ」
「次はあたしですかぁ?火魔法が5、杖術が3。戦闘には関係ないですけどぉ、裁縫が2ありまぁす」
「つぎは俺か。剣術が4、体捌きが増えてて、これが・・・4だな」
「4? 《格闘家》《武人》ジョブの俺でやっと6っすよ? センパイ《武人》だけなのになんで・・・?」
確かに。マウントの言うとおり《武人》のみだと説明できない成長速度だな?
《魔術師》が関係するとは思えないから《クラウン》が関係しているんだろうか?
「あのー、その話の前に僕のスキルの紹介してもいいですか? ・・・・・・僕は短剣術が5、投擲が3、体捌きが1、遠視が3です。それとセンパイの体捌きは《クラウン》のおかげだと思いますよ。ほら、ピエロってバランス芸とかしますし」
「ああ、俺もそう思う。まさか《魔術師》が関係するとは思えないしな。・・・・・・それにしても、アローはスキルが多いな」
「戦闘力は低いんですけどね」
そう謙遜するアロー。だが、パーティー内の貢献度は高い。
斥候役はパーティーに必要不可欠だよな。
「セーンパイッ。明日はあたしと街でデートしませんかぁ」
急にルビーが話しかけてくる。
マウントと付き合ってるくせに、何誘ってんだか・・・・・・。
「気にしちゃ駄目っすよセンパイ。魔法を覚えるのに必要なスクロールを売っている店を案内するってだけっすから」
「何でばらすのよ!!」
言い合いを始める二人。はたから見るといちゃついているようにしか見えない。
だが魔法か、今日の戦闘を考えたら早めに覚えておいた方がよさそうだな。
「アローたちはどうするんだ?」
「僕たちも町で買出しです。お互いそんなに時間はかからないと思いますからその後に依頼の残りを片付けましょう」
「今日みたいなトラブルに備えておくのも、優秀な冒険者の条件でしょうからね」
「わかった。じゃあ、また明日だな」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
「おやすみっす」
「おやすみなさぁい」
「おう、おやすみ」
挨拶と共にみんながログアウトしていく。
見送ったあと、俺はプレイヤー検索でウミを探しフレンド申請を送る。
今日仕事から帰ったあとに離れたプレイヤーと連絡する手段を調べておいたのだ。
っと、申請が受理されたな。そうしたら、今度はウミへとフレンドコールをかける。
プルルルと現実の電話と同じ様な呼び出し音が鳴る。
「・・・・・・。あっ! もしもし」
「こんばんわ。ウミちゃん」
「こんばんわ。・・・・・・初鳥先輩ですよね?」
「そうだよ。でも、《RMMO》ではセンパイって呼んでね」
「あっ! そうですよね、すみません」
なぜか向こうで頭を下げている気がする。
「ははは、謝る必要はないよ。俺はもうログアウトするけどやめれそう」
「それは・・・・・・。そのぅ・・・・・・」
これは引き止められてるんだろうな。しょうがない。
「・・・・・・センパイ?」
「すぅ・・・・・・。平田ぁ!! また同じミスをするつもりかっ!!」
「す、すみません!!」
「謝るヒマがあったら会社を辞めるかとっとと寝るか選べ!!」
「はい!! すぐに寝まっ」
返事の途中でコールが切れる。荒療治だがこれでたぶん大丈夫だろう。
それじゃあ俺も寝ますか。