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6日前 残業

 翌日の月曜日、終業時刻も過ぎた22時47分、俺はまだ会社にいた。

 こんな遅い時間に会社にいるのは、怒鳴られて落ち込んでいる同僚のフォローのためだった。

 

 



 もうすぐ定時という16時半頃、オフィスには男の怒鳴り声が響いていた。

 新人の女の子相手に怒鳴り声を上げている50歳間際の男性はこの部署の部長だ。


「何でこんな簡単なことでミスが出来るんだ!! お前のような役立たずは必要ない!! とっとと辞めてしまえ!!」

「す、すいません・・・・・・」

「謝る暇があるなら一からやり直せ!! 明日までにだ!!」

「・・・・・・はい・・・・・・」


 怒鳴られている女の子は叩きつけられた書類を手に自分のデスクへ戻っていく。

 明日までに直すとなると今日は残業だろうな。

 その子のデスクからは鼻をすする音が聞こえた。


「おい、矢野」

「残っていくんですよね?」

「そのつもりだが・・・・・・、なんでわかった?」

「俺達もそうやってフォローしてもらいましたから」

「そうだったか?」


 忘れたわけではないが、認めるのは少し恥ずかしい。


「はい。・・・・・・それじゃ今日は《RMMO》はやめておきましょうか?」

「いや、好きに遊んでくれ。そのうち、お前らの方が都合がつかない場合も出てくるだろ」

「そうですか。それなら、今日はバラバラで活動するようにします。初鳥先輩も含めて[老騎士]ですから」

「なんだか悪いな」


 時計のチャイムが17時を告げる。


「気にしないでください。それじゃ、お疲れ様です」

「おう、おつかれ」


 そうして、矢野は帰り俺は会社に残った。




「っはぁーーー! おわったぁーーー!」


 矢野とのやり取りを思い出してる間に彼女の仕事も終わったようだ。

 さてと、固まった体を伸ばしている後輩を労いにいきますか。


「平田さん、おつかれ」

「初鳥先輩!? なんでいるんですか!?」


 ビニール袋を片手に、あいてるほうの手を軽く挙げて声をかける。

 袋の中身は温めなおした牛丼と甘めのコーヒーだ。


「ちょっと気になってな。はい、腹減ってるだろ?」


 驚いて言葉を失っている彼女に牛丼とコーヒーを渡す。


「あ、ありがとうございます」


 彼女は平田 有魅、この会社に入社して今年で2年目だ。

 後ろで縛った長く黒い髪。

 目は大きすぎず小さすぎず、眉も程々の太さ。鼻も、高く筋が通っているわけでもなく、化粧は薄め。

 飛びぬけて美人というわけではないが、それぞれのパーツがバランスよく整っている。

 性格は至って真面目。今までも怒鳴られているところなど見たことがなかった。


「昼間は大変だったな。始めてみたよ、平田さんが怒鳴られるところ」

「すみません・・・・・・」

「怒ってるわけじゃないよ。平田さんがミスするなんて珍しいなって思っただけだ。後はちょっと落ち込んでるみたいだったから、話でも聞こうかなと思って」


 うつむいてしまった平田さんに笑顔を向ける。

 よく見たら、目の下に薄くクマができていた。


「そのクマ、どうしたんだ? 昨日の夜、何かあったのか?」

「あっ、いえっ、そのっ・・・・・・」


 急に慌てだしたな。何か恥ずかしい事でもあったのだろうか?

 うーん、彼氏とお楽しみだったとか?いるかどうかは知らないけど。


「実は・・・・・・、《RMMO》をやってたんです」

「《RMMO》を?」

「はい。大学時代の先輩に誘われて始めたんですけどやめられなくて」


 そこまでゲームにはまる様には見えないけどなぁ。もう少し詳しく聞いてみるか。


「ゲームが面白くてはまったってこと?」

「いえ・・・・・・。私、《RMMO》でその先輩と、先輩の友達って人たちとパーティーを組んだんですけど、やめようとするとみんなに引き止められて。それでずるずると・・・・・・」

「なるほどね。ずいぶんと自分勝手な奴らだな。・・・・・・その先輩はかばってくれたりしなかったのか?」

「はい・・・・・・」

「無責任なヤツだな」

「そんなことありません!! やめられなかった自分が悪いんです!!」


 急に大声を出されたのでびっくりした。

 ここで先輩をかばうってことは好きなのか?


「あっ! す、すいません・・・・・・」

「いや、いいけど・・・・・・」


 これでは自分で解決するのは難しそうだ。

 仕事にもかかわるし、お節介を焼かせてもらいますか。


「平田さんはなんて名前でプレイしてるの?」

「えっ? ウミですけど・・・・・・」

「ウミね。明日からは俺がやめるときにフレンドコールするから出てね」


 やめるきっかけがあれば問題ないだろう。


「わ、わかりました」

「あっちでは俺、センパイって名前でプレイしてるから」


 牛丼を食べた後、平田さんには会社の近くにある、女性でも安心して止まれるビジネスホテルを教えてあげた。

 平田さんは会社の仮眠室で十分といっていたが、何か起きてからでは遅い。

 平田さんを見送り、警備員さんに声をかけ仮眠室へ向かう。

 矢野たちはなにしてるかな?

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