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7日前 初戦闘

 俺達は南門を通り町の外へとやってきた。視界いっぱいに広がる草原の緑が目に鮮やかだ。


「ここにオオウサギが出るのか?」

「はい、オオウサギは平原にいる魔物ですから。他にもこの平原にはマヨイイヌ、ソウゲンカラスがでます」

「最初はこの平原でレベル上げするんですよぉ」


 サービスが開始したばかりなのに詳しいのは、β時代の知識だろうか?

 確かに見渡してみると遠くにウサギや犬、空を飛ぶカラスがいた。ちらほらとウサギや犬と戦っているプレイヤーも見受けられる。


「センパイ、早く戦いに行きましょう。うずうずして、我慢できそうにないっす」

「落ち着け、マウント。俺もつられて我慢できなくなるだろ。戦う前にまずは戦力の確認だ」

「そういえば、センパイ君は戦闘好きな割りに慎重でしたねえ」


 マトバさんの言うとおり、俺はゲームでは戦っているのが一番好きだ。戦うためにゲームをしているといっても過言ではない。

 そして、正面からの力と力のぶつかり合いみたいな戦いよりも、相手の弱点や隙を衝くような頭を使った戦いのほうが好きだ。


「キャラメイクは各自自由にしてましたしね。全員のジョブや初期武器を確認しときましょうか。まぁ、センパイ以外はβ時代の役割から変わってないと思いますけど。・・・・・・僕は〈短剣使い〉〈斥候〉〈罠使い〉で、初期武器は短剣。ジョブどおり斥候担当するつもりです」

「俺は、〈格闘家〉〈鬼〉〈武人〉っす。初期武器の剣は飾りっすね」

「あたしは、〈炎術士〉〈治癒士〉〈御針子〉でぇす。初期武器は杖でぇ、みんなの後ろで魔法とばしまぁす」

「老騎士であるボクは〈槍使い〉〈盾使い〉〈騎士見習い〉だね。当然初期武器は槍。最前線で壁役をやらせてもらうよ」


 バランスがいいのはβテストのときに分担したからだろう。特に必要な役割がないなら、戦闘において万能とも言える俺のキャラメイクは問題ないはずだ。


「最後に俺か。俺は〈武人〉〈魔術師〉〈クラウン〉の3つだ。初期武器は剣だな。戦闘ではなんでもやれるようにするつもりだ」


 俺のジョブを聞いた周りの反応がおかしい。かわいそうなものを見るような目を俺に向けている。


「・・・・・・あの、センパイ。非常に言いづらいんすけど、・・・・・・それって器用貧乏っていいません?」

「そうですよ、センパイ君。普通は何かしらに特化するのが定石じゃないかい?」

「それにぃ、〈クラウン〉ってピエロですよねぇ? 戦闘に関係ないジョブを選ぶにしてもぉ、もう少しいいジョブがあったんじゃないですかぁ?」

「そもそも、〈武人〉も〈魔術師〉も同系統のジョブを補強するためのものって言われてるんです。それだけだと、スキルの成長はおそいですよ?」


 そうだったのか、作る前に聞いていれば違うジョブを選んだかもな。

 だが、俺はこのジョブを変える気にはならない。そもそも、レベルを上げて勝つというプレイスタイルよりは、そのとき使えるものを上手く組み合わせ勝ちを取りに行くほうが好きなのだ。

 そんな俺にとっては、例え器用貧乏と呼ばれようとも使える手札を増やした方がいいと思う。

 みんなには、そう説明した。


「でも、どうして〈クラウン〉なんですか? それなら、〈超能力者〉とか〈召喚士〉とかの方がいいんじゃないですか?」

「戦闘向けじゃないスキルを上手く使って勝ったほうが面白いだろ? それに、子供のころの夢がピエロだったってのもあるしな」

「センパイピエロになりたかったんですかぁ? なんか可愛いですねぇ」


 ルビーに笑われてしまった。なんか恥ずかしいな。


「とにかく、そっちはもうポジションは決まってるんだろう? 俺は遊撃をやるから、さっさと狩ろう」

「ちょっと待ってください」

「おいアロー、まだ何かあるのか? 俺はもう戦いたくて我慢できないぞ」


 そういって拳を握りこむマウント。正直、俺も早く戦いたくてウズウズしている。


「みんなで一緒に狩りをしてもいいんですけど、オオウサギだったらソロでも余裕で勝てる相手だと思うんです。だから、それぞれソロで戦って感覚を確かめませんか? センパイは初戦闘ですし、僕らもβテストから変わったところがあるかもしれないですし」

「なるほど、確かにそういうことは必要かもしれませんね。アロー君、ナイスな提案です」

「それならぁ・・・・・・、一時間後に南門前に集合でいいですかぁ?」

「そんなもんだな。そういえば、マヨイイヌやソウゲンカラスは襲ってきたりしないのか?」

「平原の魔物は、βの時はノンアクティブだったっす」

「でも、βの時とは違うかもしれないですね。一応注意して行動しましょう。門の前なら敵が襲ってこないセーフティーゾーンになっているので、危なくなったらここまで逃げてからパーティーコールしてください」


 パーティーコールはパーティーメンバー用の電話みたいなものだ。


 時間を確認してから分かれての狩りを開始した。

 俺も獲物であるオオウサギを探す。

 見つけた!!

 そんなに遠くない距離で1匹のウサギが草を食べていた。


 俺は腰に差してある剣を抜くと、オオウサギのいる方へ近づいていく。・・・・・・思ったよりも距離があるな。

 ウサギの背中側、すぐ近くまで来た。目の前には大型犬位はあるウサギが、俺に気づかずに草を食べている。

 うーん、でかい。確かにオオ・・ウサギなのだから間違ってはいないが、それでも大きすぎではないだろうか?

 とりあえず剣を振り上げ、オオウサギの背中に向かって振り下ろした。

 背中を剣で切られてそのまま3回転くらい転がっていくオオウサギ。

 そしてのっそりと体を起こしこちらに振り向いた次の瞬間、オオウサギはこちらへと跳躍していた。

 速い!?

 とっさに左へと身をかわすもよけきれず、右肩にあたる。

 いたっ――って言うほど痛くもないな。HPゲージを見てみても一割も減っていなかった。

 ちなみにこのゲーム、HPは数値では表示されない。唯一の確認手段のゲージも、ステータスによって長さが変わるわけではなく、割合でしか判断できない仕様になっていた。

 オオウサギを見てみると、なぜか地面に転がっている。

 そしてまた、のっそり体を起こし、こちらに振り向き、跳ぶ。

 今度は剣の腹でガードをする。オオウサギは剣に当たると跳ね返って地面に転がる。

 そして先ほどと同じように、のっそり起き上がり、振り向き、跳ぶ。

 どうやら行動パターンが決まっているらしい。そうとわかれば楽勝だな。

 俺は跳んできたオオウサギを剣で防ぎ、転がったところを攻撃した。

 起き上がるまでに2回、剣で切りつけることが出来たがまだ倒れそうにない。

 その後はオオウサギの体当たりを防いで攻撃、を繰り返し更に6回切り付けたところで動かなくなった。


 序盤からこれでは大変だと思うんだが、こいつが魔物の中でもタフなのか、俺がプレイヤーの中では弱いのか、それとも魔物の体力はこれで平均なのか、まだ判断できないな。


 背負い袋から剥ぎ取りナイフを取り出す。移動中に聞いたアローの話では、これを魔物の死体に突き立てるとアイテムが手に入るらしい。

 聞いていた通りにオオウサギの死体にナイフを突き立てると、死体が毛皮へと変わった。

 毛皮を手に取ると視界にアイコンが現れ、それに意識を向けるとウィンドウが開いた。そこにはオオウサギの毛皮と表示されている。

 なるほど、こうやってアイテムの名前がわかるのか。

 とりあえず、毛皮は背負い袋にしまう。

 このまま他の魔物とも戦って強さを比べてみたいが、今回はクエストもあるのでオオウサギを狩りつづけることにしよう。


 そうして1時間後、俺たちは広場の酒場に集まっていた。

 この1時間でそれぞれ俺が4匹、アローとマトバが5匹、マウントとルビーが6匹のオオウサギを狩り、クエスト目標を達成したので報告ついでに話し合いをすることになったからだ。

 報告はアローが行い、全員2枚の銅貨を受け取る。

 4匹しか狩れなかった俺にもアローは2枚の銅貨を差し出してきた。


「いいのか? 俺はソロ分も狩れていないんだが・・・・・・」

「いいんですよ。200Bなんて、そう高い金額でもないですし」

「そんな細かいこと気にしてたらこれから先楽しめないっすよ、センパイ」


 そんな風に言われたら受け取らざるを得ないな。

 アローから銅貨を受け取ると、銅貨はその場で消えた。


「あれ? 消えたぞ」

「お金は必要なとき意外は消えるんですよ。ステータスを確認してみてください。きちんと5200Bになっているはずです」


 マトバの言うとおりにステータスを確認すると、確かに所持金の項目が5200Bになっていた。

 剥ぎ取ったアイテムに関しては各自のものとすることになった。

 あの後、毛皮をもう1枚と尻尾と肉を手にいれ、今は背負い袋に突っ込んである。これの使い道や売却する場所もあとで相談しないとな。


「それじゃあ、報酬の分配も終わりましたし、始めましょうか。ベータの頃と変わったところや気づいたことを報告してください。センパイも気になったことはどんどん聞いてください」

「それなら早速だが、オオウサギはずっとあのパターンでしか攻撃してこないのか?」

「そういえばワンパターンだったっすね」

「βのときはぁ、もう少しパターンがありましたもんねぇ。やっぱりぃ、序盤苦戦したプレイヤーが多かったから仕様変更になったのかなぁ?」

「たぶんそうなんでしょう。これは他の魔物も弱体化されている可能性が高いでしょうねぇ」

「オオウサギ自体の強さは変わってない感じでしたから、行動パターンの変更のみですかね?」

「強さといえば。オオウサギはだいぶタフだった気がするんだが・・・・・・」

「それは、センパイ君のジョブだとまだスキルを取得できていない可能性がありますねぇ」

「スキルがないと例え強力な武器でも攻撃力0扱いっすもんね」

「そんな使用だったのか」

「センパイ。もぉ1度ステータスを見てみたらどうですかぁ?」


 確かに、さっきは所持金の項目しか気にしてなかったからな。

 ステータスを開き今度はスキルの項目を見る。そこには剣術1の表記があった。


「剣術1が増えてるな」

「丁度最後の戦闘で取得になったみたいですね。これで剣での攻撃に剣自体の攻撃力が乗るので、次からは狩りのペースも上がるはずですよ」


 その後も話し合いは続いた。

 戦闘のことが主な話題だったが、それ以外のことも議題にはあがっていた。

 俺も、《RMMO》の基礎的なことをいろいろ教えてもらう。説明書には載ってないことも多く、そういった知識に限って自分で気づくのは難しそうだ。

 なかでも魔法のスキル取得の方法は、プレイヤーによっては一番重要な知識だろう。

 聞いた方法以外での取得は確認できていないため、知らないままでは魔法を使うことが出来ないのだ。


 話し合いに熱が入りすぎて、気づいたときには23時をまわっていた。

 明日の仕事もあるので、その日は全員切り上げることになった。マウントは不満を口にしていたが、社会人としての自覚を持てという俺からの注意と、恋人であるルビーからの説得で了承させた。

 最後に、明日は草原にいる他の魔物を倒すぞー、とみんなで気合を入れてからログアウトする。

 明日の夕方が待ち遠しいな・・・・・・。

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