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《RMMO》 異世界のお節介な道化師  作者: 背兎
最初の一週間
20/32

エニフの町

説明回です。

「センパイさん、湯浴み終わりました」

「わかった、今行く」


 あれから3日が経った。

 その三日間で俺達は南の草原の魔物を狩り、30510Bの金を稼ぎ出した。


「それにしてもよくこれだけ稼げましたね」

「カラス関係の報酬が高かったからな。兎と犬だと2万B稼げたかどうか」

「はい、春馬先輩。桶の片付けお願いします」

「了解」


 彩音から桶を受け取り一階におりる。目指すは裏庭だ。


「毎晩毎晩、ご苦労なこったね」


 馬のひづめ亭の主人である婆さんがからかうように話しかけてくる。

 そのままこの宿を利用して二晩、日に日に婆さんの軽口は増えていった。


「パーティーで唯一の男手だからな、力仕事くらいはやるさ」

「可愛い娘に頼られて満更でもないってかい?幸せな男だねぇ」


 婆さんを無視して裏庭に出る。相手にしているといつまでもからかわれるからな。悪い人じゃないんだが少しうざったいと思うのはしょうがないと思う。




 異世界での狩りは、慣れるまでに苦労することになった。慣れるといってもゲームで戦うのと感覚は変わらなかった。問題は魔物が生きている(・・・・・)こと。シホちゃんも彩音も武器は鈍器だ。だから最初、2人が戦う様子を確認していた時にはその問題に気がつけなかった。

 俺も二人に続いて大兎を狩る。俺の武器は剣だった。そして、俺は跳びかかってくる大兎の首を剣で斬った。そうしたら、当然のように兎の首が跳び、その切り口から血が噴き出した。

 それに対する反応はそれぞれ違った。俺は女の子の前って事もあって気丈に振舞えた。シホちゃんははじめ悲鳴を上げたが、気遣うと大丈夫ですと言って笑顔を見せた。もっと取り乱すかもと考えた俺は、シホちゃんの事を見くびっていたようだ。彩音は白い顔で呆然と大兎の死骸を眺めていた。何度も声を掛けたが反応がなく、正気に戻ったのは30分程経ってからだった。

 その日は大事を取って狩りをやめようと言ったがシホちゃんがこれに反対。早めに慣れたほうがいいという事でそのまま狩りを強行。これが功を奏したのか、彩音もその日の内に慣れてくれた。

 剥ぎ取りナイフを刺すだけで、素材を残して死体が消えるのも早めに慣れた要因かもしれない。

 

 その後は順調だった。翌日に迷い犬に挑戦。距離に関係なく群れ全体がリンクするという違いはあったが俺と彩音が壁になり、シホちゃんが後ろから回復するポピュラーな陣形で難なく狩れた。シホちゃんの杖術が育っていたのが大きかったと思う。

 更にその翌日に手を出した草原カラスはもっと簡単だった。アロー達とやったように食事中に遠距離から攻撃することで、カラスが混乱。接近するまで飛ぶことも出来ずにいた。途中からは〈斥候〉を持った彩音の投擲の練習台になっていた。




 


「明日からは情報収集ですね。まずは何をするんですか?」


 部屋に戻るとシホちゃんが話を切り出してきた。


「エニフの町を周る。どこに何があるかわからないと調べ物も出来ないからな」

「本を当たるにしても、どこに行けばいいのかわからないですねもんね」

「そういうことだ。明日は早朝にここを出発、反時計回りに町を巡るつもりだ」

「春馬先輩の事だからそう周るのにも理由があるんですよね?」

「その順番なら最初が住宅区。そこから行政区、工業区、商業区ですね。商業区は時間がかかりそうだから最後ってことでしょうか?」

「それもあるけど、早朝だとまだ開いていない店とかありそうだからな。あと、買い物もするつもりだ」

「ホントですか!?」

「やったー!!」


 すごいはしゃぎ様だ。こんなに喜ぶならもっと早く買い物に連れて行ってあげればよかったな。


「何か欲しいものでもあったのか?」

「えっと……、それは……」

「まずは着替えですね」


 シホちゃんは恥ずかしそうに目を伏せることでも、彩音はまったく気にしてない様子だ。多分、シホちゃんは下着でもイメージしてしまったんだろう。それなら男相手に伝えるのは恥ずかしいからな。

 しかし、そういったことには気づいて上げられなかったな。俺も大人の男としてはまだまだだ。


「そういったことに気づいてやれなくて申し訳ない」

「謝らないでください。センパイさんに気を使わせてばかりだとこっちも疲れちゃいますから」


 下着か……。一度ルビーに連絡してみようか、彼女ならそういったものを安く提供してくれるかもしれない。




『それじゃ、用意しておきますねぇ。明日ぁ、町の南東の区画にある生産施設まで来てくださいぃ』

「すまないなルビー。恩に着る」

『こっちは作ってあったのを渡すだけなんでぇ、お礼は結構ですよぉ』


 ルビーに連絡を取ってみたが、案の定下着の生産を行っていた。しかも、プレイヤーに格安で提供できるように、大量生産の準備も進めているようだ。

 

「ルビーさんと何のお話ですか?」

「ああ、明日会うことになった」

「ルビーさんって春馬先輩が組んでたパーティーで唯一の女性の人ですよね?」

「そうだ。物資の確保を任せてたからな、着替えについて融通してもらったんだ」

「え? ……じゃあ、その……」

「詳しい話は明日会った時に聞いてくれ。明日は早い、もう寝よう」


 俺から下着の話はいうことはしたくない。だから、ごまかして寝ることにした。





 翌朝、朝食を食べて直ぐに宿を出た。エニフの町はゲームの頃より広くなっていて、町を巡って買い物もするとなると1日で済むかわからないからだ。

 

 まずは北西、住宅区である。事前に宿の婆さんや酒場の各マスターから聞いた情報によると、住宅区は一般市民の家がある区画だ。ただ、すべての市民が暮らしているわけではないので、外側に行くほど家が少なくなっていく。そして、住宅区の北西部分は家もまばらにしかなく土地が広く空いているので、大手の商店が買収に動いているらしく地上げみたいなことも行われているらしい。

 この地区で俺達が覚えておくべきなのは魔法屋ぐらいだ。


 実際に歩いてみると住宅地は所狭しと家が建っていた。家は白いレンガのような形の石を使って作られていて、扉は木製、窓には透明度の高いガラスがはめ込まれていた。壁に触れてみると少しひんやりとしていた。


「春馬先輩、いつになったらここから出られるんですか~?」

「あー、いつだろうな?」

「アーヤ、センパイさんの所為みたいにいっちゃ駄目だよ。私たちの所為でも在るんだから」

「うん」

「ほら、センパイさんに謝って」

「春馬先輩、ごめんなさい」

「気にしてないから心配するな。というか、最初に迷ったのは俺だからな、俺の所為ってのも間違っちゃいない」


 俺たちは道に迷っていた。一応魔法屋を目標に適当に歩いてたんだが、道が狭くごちゃごちゃしている上に、ゲームとは景色が違うため気づいた時には知らない場所にいたのだ。

 既に魔法屋に行くのは諦めている。


「また行き止まりか……」

「……どうしましょう。センパイさん」


 ホントどうしようか。道を尋ねたくとも歩いてる人が見当たらない。


「……歩くしかないだろうな」

「……そうですよね」


 それからしばらく歩き続けてようやく開けた場所に出た。家がまばらに建っているだけの広い土地。ここが住宅区の北西部分のようだ。


 あたりを眺めていると素朴な女性がこちらによってきた。


「あの、すみません」

「は~い、なんでしょうか~」

「実は道に迷ってしまいまして、行政区の方に行きたいのですが」

「それは大変ですね~、あそこに大きな壁がありますよね~」


 女性が指差したほうを見ると巨大な壁があった。エニフの町を囲む外壁だ。


「あの壁に沿って、左に歩いていくと西の門です~」

「そうですか、助かりました」

「それと~、住宅区を歩くときはあの壁を目印にすると迷いづらいですよ~」


 あれだけ大きい壁なら屋根越しでも見えるだろう。確かに目印にするには丁度いいな。


「ありがとうございました」

「いいえ~、気をつけてくださいね~」

「お姉さん、ありがと」

「ありがとうございます」


 お礼を言って女性と別れる。

 女性に言われたとおりに歩いたら難なく西の門についた。



 西の門からそのまま行政区に入る。ここはこの町の運営に関する施設だけでなく、ホテルや劇場などの高級施設やこの町に住むデシクオ国の貴族の屋敷などもある区画だ。

 ここで確認しておきたい施設は図書館だ。ここだけはしっかりと見ておきたい。


「こっちは道がきちんと整備されてますね」

「これなら迷う心配も必要なし、ですね」

「そうだな。住宅区で時間を取られてしまった分、図書館だけサクッと見よう」


 図書館があるのは行政区の南西部分、一番外側だ。そのまま外壁に沿って向かった。



「結構大きいですね」

「ここならいろいろ調べ物ができそうです」

「受付の人に聞いて、規則とか確認しておくか」


 図書館は大き目の体育館くらいのサイズだった。二階建てになっていて、本を読むスペースは一階にまとまっている。


「すいません、図書館の決まりとか教えて欲しいんですけど」

「いらっしゃいませ、椅子におかけください」


 受付は穏やかな喋り方の男性職員だった。


「当図書館は、誰でも気軽に利用していただけます……」


 まとめると、利用するのに資格などはいらない。貸し出しはしていない。飲食禁止。騒がない。破損したら弁償。破損については魔術でわかるので潔く払うこと。と、これだけだ。


「それではお気軽にご利用ください」


 最後にそういって男性職員は仕事に戻った。

 今日のところは確認だけなので図書館を後にする。




 今度は壁沿いに東に歩いて工業区を目指す。途中スタートラインで昼食を食べてから、エニフ探索午後の部開始だ。


 工業区については昨晩、ルビーにコールで聞かされた。ここは土地のほとんどが無料の生産施設に使われていて、後は職人さんの家や個人用の工房なんだそうだ。

 俺達にはあまり縁のない区画だが、ルビーとはその生産施設で待ち合わせている。いくら予定より遅れていても、ここを飛ばして商業区というわけにはいかない。


「待ってましたよぉ、セェンパイっ」

「それじゃあこの二人を頼む」

「ハァイ、ガーネットお願いねぇ」

「任せて、マスター」


 着いて早々シホちゃんと彩音を預ける。2人は何が起こっているのかわからないといった様子でガーネットと呼ばれた女性に連れて行かれた。

 彼女たちは【シロウサギ】のメンバーに中でサイズを図られ、その場で下着を作ってもらうことになっている。その間に俺はルビーと話し合いをする。


「それでぇ、どんな感じですかぁ?」

「やっぱりちょこちょこ変わっているな。魔物についてだと迷い犬のリンクが距離に関係なく群れ全体になったり、草原カラスがこっちの攻撃にひるんだりした」

「そうですかぁ。町も広くなりましたもんねぇ。……他のプレイヤーはどんな様子ですかぁ?」

「行動している奴らもいるがまだ少ないな。今日も酒場で呆然としている奴らを見た」


 俺の予想では3日も経てばそこそこのプレイヤーが立ち直ると思ったが、活動が確認できるプレイヤーは未だに少ない。どこの狩場もがらがらだ。


「生産プレイヤーの方はどうなんだ?」

「こっちは活動してるプレイヤーは多いですけどぉ、この施設に篭りきりって人が多くて心配ですねぇ」

「寝泊りもここで?」

「今はどこの宿もいっぱいですからぁ。酒場に泊まらせて貰ってるプレイヤーも多いみたいですよぉ」


 泊まれる場所には限りがある。1万人近いプレイヤーがいるのだから、泊まる場所のないプレイヤーも少なくないだろう。一部屋だけでも確保できた俺達は運がよかった方だ。


「今は〈大工〉を持ったプレイヤーを集めてますけどぉ、直ぐには解決できないですねぇ」

「そうか、他の物資はどうなんだ?」

「衣服と食事、あと薬はほとんど問題ないですねぇ。センパイの情報で早めに対応できましたからぁ」

「それならよかった。こっちからも逐一連絡するし協力も惜しまない。何かあったら頼ってくれ」

「ありがとうございますぅ。でも、私たち以外にも活動的な生産ギルドがいくつかありますしぃ、任せてくれて大丈夫ですよぉ」


 現状、住居以外は何とかなったか。プレイヤーが落ち着いて来たらまた問題が出るだろうが、ルビーに任せておけば大丈夫そうだな。


「マスター」

「ありがとうねぇ、ガーネットォ」


 先ほどの女性が戻ってきてルビーに紙袋を渡した。ルビーに頼んでおいた俺の下着類だな。


「はいセンパァイ、頼まれてたものですぅ」

「ああ、ありがとう。いくらだ?」

「ただでもいいんですけどぉ、それだとセンパイが納得しないんでぇ、200Bでいいですよぉ」

「思ったより安いな」

「少しはサービスさせてくださいよぉ」


 こういう心遣いはありがたいな。余り過剰にお礼を言うとルビーが怒るので程ほどにして金を渡した。


「ところでセンパァイ? シホちゃん達とはどうですかぁ?」

「特に問題もなく上手くやれてると思う。あの子達がどう思ってるかはわからないが」


 ルビーが不満そうな顔をしている。おかしいことは何も言ってないと思うが。


「……その反応じゃ、まだみたいですねぇ」

「何の事だ?」

「内緒ですよぉ」


 今度は一転して楽しそうだ。一体何を企んでいるんだか……。




 戻ってきたシホちゃん達と再度、ルビーにお礼を言って施設を出発。商業区に入った。


 商業区はその名前のとおり商売に関する施設が多い。様々なお店、露店用広場、大型倉庫、後は夜の町なんかもあるらしい。

 俺達プレイヤーにとっては一番重要な区域になるだろうな。


「買い物は後回しにして、まずはひと回りしてみよう」

「そうですね。どうしても必要なものは手に入りましたし」

「アーヤ!!」


 ルビーのところに行ってからシホちゃんは様子がおかしい。俺に下着の手配をされたのが恥ずかしいようだ。彩音はそういったことをあまり気にしていないようだ。


「じゃれてないで行くぞ」

「ハーイ」

「うぅ……」




 いちいち店に入っていては日が暮れてしまうので、まずは露店広場に行ってみた。


「……人がいっぱいですね」

「なんだか楽しそう……」


 広場は沢山の人であふれかえっていた。商品をアピールする大きな声が独特の活気をかもし出している。

 適当にみていくと本当に様々な露店がある。みただけでは何かわからないものを売っている店もありファンタジーらしさを感じる。


 露店を巡って30分程、人の多さに酔ってきた。特に彩音は顔色を青くしてグロッキーな状態だ。


「アーヤ、大丈夫?」

「ちょっとつらい」

「無理するな。一度広場を出よう」

「すいません」


 彩音の手を引いて人ごみの中を歩き出す。どこに向かえば出られるかわからなかったので、住宅区で聞いたように一番近い外壁を目指して脱出した。


「やっと出られたな。もう大丈夫だぞ彩音」

「気分がよくなるまで少し休もう?」

「うん」


 俺たちは彩音の顔色が戻るまで少し休ませることにした。

 しかし、広場を抜けるだけで精一杯だったからここがどこだかわからないな。本日二度目の迷子だ。


「もう平気です」


 しばらく休んで彩音が復活したので、とりあえず外壁まで歩くことにした。一番近いのは北の外壁だが、それでも20分は歩かされそうだ。




 北の外壁にたどり着いた時にはあたりは薄暗くなってきていた。


「暗くなってきましたね」

「今日はここまでにしよう。買い物はまた明日だ」

「しょうがないですよね」


 馬のひづめ亭は北門の近くだ。今から向かえば完全に暗くなる前にはつけるだろう。


 途中、古い教会を見つけた。ああいった場所も情報を得られる可能性がある。人の声が聞こえるので誰か住んでいるようだし、明日買い物のついでに訪ねてみよう。

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