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《RMMO》 異世界のお節介な道化師  作者: 背兎
最初の一週間
19/32

お金

 仕切りなおしてから1時間、模擬戦は休むことなく続いた。

 しばらくは彩音ちゃんのペースで進み、俺は防御に徹した。剣スキルが10を超え、動きやすくなってからは俺からも攻めたが、彩音ちゃんは強かった。もう一度素手でやったとしても勝てないと思う。


「センパイさん、お疲れ様です」

「まさか本当に剣を抜かされるとは思わなかった」

「私も本当に素手のほうが強いとは思いませんでしたよ」

「シホちゃんとの模擬戦を素手でやったからな、その分格闘スキルが高くなったんだ。木製の杖相手の模擬戦だと剣は向かないからな」

「あー、確かに」

「それで? 俺に何を要求するか決まったか?」


 模擬戦で剣を抜いてしまった俺は、約束どおり言う事を1つ聞いてあげないといけない。自分で言ったことだしな。


「それは最初から決めてあります」

「……お手柔らかに頼むぞ」

「簡単なことですよ。センパイさんの名前を教えてください」


 名前か。そういえば2人には名乗っていなかったな。ゲームだけの付き合いだったら知らせる気はないが、今の状態なら教えてもいいか。


「そんなことでいいのか?」

「センパイさんだとなんか変な感じだし、それに名前で呼んだほうが仲良くなれると思いませんか?」

「まあ、そうかもしれないな。……んんっ、俺の名前は初鳥 春馬だ」

「……初鳥 春馬さん、か。それなら春馬先輩って呼んでもいいですか?」

「俺は彩音の先輩じゃないぞ」

「そんなことわかってますよ。でも、今日の特訓のせいか先輩ってつけた方がしっくりくるんですよね」


 特訓中もそんな事を言っていたので、どうやら部活動の先輩みたいに感じているのか?


「まあ、かまわないか」

「ふふふ、春馬せ~んぱいっ!」

「!!!」


 俺の目を覗き込みながらそんな呼ばれ方をするもんだからドキッとしてしまった。


 ぐ~。


 彩音が俺から目を逸らした。耳が見る見る赤くなっていく。

 そういえば俺も腹がへったな。時刻は――丁度お昼だ。


「丁度いい時間だし、シホちゃんと合流して昼飯にするか」

「そ、そうですねっ!」


 コールを使ってシホちゃんと連絡を取り、南門で合流することにした。




『あの書き込みはアーヤ君でしたか』

「ああ。それと物資に関してなんだが……」


 シホちゃんがくるまでの時間に[老騎士]のメンバーに今までに得た情報について連絡をしておいた。今話しているマトバで最後だ。


『薬草が不足……。残念ですが【老練なる騎士団】は協力できないかもしれません』

「何か問題でもあるのか?」


 おっ! シホちゃんが戻ってきた。もう少しなのでコールが終わるまで待っててもらおう。


『ギルドメンバーをまとめるのにもう少しかかりそうなんですよ』

「良識ある経験豊富なプレイヤーがそろってるんじゃなかったのか?」

『あっはっは。同時に遊び心溢れるプレイヤーも沢山いたんですよ。犯罪行為までは行かなくても十分に混乱を巻き起こしそうな人たちがね』

「それは大変だな。まあ、薬草集めはしょうがないが、最低限の薬の確保はしておけよ」

『言われずともわかってますよ。まずは自分達に余裕がないと人助けも出来ませんからね』


 マトバのギルド【老練な騎士団】には犯罪の取締りをお願いしている。そういった消耗品が必要な場面は少なくないはずだ。


『それではこれで。また何かあったらお願いしますね』

「わかった。またな」


 コールを切る。話を聞いてみると、皆苦労しているようだ。

 しかし、まだ1日しか経っていないのだ。今のうちから先を見据えて行動すれば大きな問題は防ぐ事ができる。アロー達なら上手くやってくれるだろう。


「シホちゃん、彩音! 飯食いに行くぞ!」


 なにやら夢中になって話しこんでいる2人に声をかける。話を中断させてしまうが俺だって空腹なのだ、早く昼食にしたい。


「はーい、今行きまーす。……どこのお店に行くんですか?」

「最後に寄った南門近くの酒場、スタートラインだ」

「あそこですね、わかりましたっ」


 待ちきれないといった感じで走っていってしまう彩音。まあ、気持ちはわかるか。


「あの!!」

「おうっ!!?」


 シホちゃんが後ろから声をかけてきた。


「その……せ、センパイさん!! は……はr……」


 シホちゃんはうつむいて何も言わなくなってしまう。

 は? はって、シホちゃんは何を伝えたいんだ? ……腹が痛いとか?


「具合でも悪いのか? それなら、午後は休んでいてもいいぞ?」

「か、体は大丈夫です」

「そうか、それならいいんだが……」


 また黙り込んでしまった。

 うーん、どうしようか。正直何を伝えたいのか全くわからん。

 とりあえず今は飯だ。お腹が膨れれば元気になるかもしれない。

 俺はシホちゃんの背中を片手で軽く押して、スタートラインに誘導した。




「ぃらっしゃい!」


 スタートラインのマスターが朝と変わらないテンションで迎えてくれた。店内の様子は朝とそう変わらず暗い雰囲気だが、マスターのいるカウンターの周りはその雰囲気もなかった。

 俺達は並んでカウンター席にかける。


「おっ! 今朝の兄さんじゃないか。どうだいエニフ草集めは順調かい?」

「俺は全然だ。シホちゃんは見つけたか?」

「はい。8枚集まりました」

「春馬先輩、私も2枚採りましたよ」


 彩音ちゃんは俺と訓練してたはずなのに、一体いつ採取したんだ?


「今なら200Bだけど、どうする?」

「今買い取ってくれ」

「待ってれば高くなるのに、いいのかい?」

「かまわない。ついでにその報酬で食事をしたい、さっきから腹が鳴って仕方なんだ」

「わかった。それなら腕によりかけて作ろう。注文は?」

「適当に――2人は何か食べれないものとかあるか?」

「基本的なものなら大丈夫です」

「私は匂いの強い野菜が余り……」

「そうか、――匂いの強い野菜を使わないで適当に頼む」

「了解っ」

「それと、量には気をつけてくれ。俺達はこっちの世界の人ほど食えないんでな。特にこの子のは少なめで頼む」


 シホちゃんを指差しながら伝えると、マスターはうなづいて奥へと入ってしまった。

 さて、料理が来るまでステータスでも確認しておくか。


ジョブ:〈武人〉15(4)〈魔術士〉4(1) 〈クラウン〉6(1)

能力値:筋力・・・11(2)

    体力・・・12(2)

    器用・・・9

    敏捷・・・8(1)

    魔力・・・5(1)

    精神・・・7

スキル:△格闘15(4) △剣術10(4) △投擲4 純魔術1 運動1 △体捌き12(2) 聴覚1  

称 号:駆け出し 命の恩人 教官(NEW)


 思ってたよりは成長してないな。スキルが成長したから上がりにくくなってきたようだ。

 〈魔術師〉は何で成長したんだ?彩音との特訓中も魔法は一切使っていないんだが。

 あとは、称号に教官が増えている。これはシホちゃんと彩音を鍛えたからだろうな。

 他に気になる部分は……


「センパイさん!!」

「うおっ!? びっくりしたー。なんだ、シホちゃん?」


 ステータスを眺めてた俺は大きな声で呼ばれ、現実に引き戻された。声の主であるシホちゃんを見ると、なぜかこっちを睨んでいた。


「なんだじゃないですよ! 話しかけてるんですから返事ぐらいしてください!」


 話しかけられてたのか、気づかなかった。そりゃ、無視されたら怒りもするよな。


「ステータスの確認に集中していて気づかなかった。ごめんな」

「そうだったんですかっ。でもなんで今確認してるんですか?」


 シホちゃんが睨むのをやめてくれた。そんなに怒っていなかったようだな。よかったよかった。


「彩音と模擬戦したからな。剣も使ったからどこまで成長したかの確認だ」

「……そうですか」


 あれ? 今度はうつむいてしまった。声のトーンも下がっているので、落ち込ませてしまったようだ。何か気に障る事言ったかな?


「……あっ! 私、お手洗い行ってきます!」


 と思ったら、急に顔を上げてトイレに走っていってしまった。

 そういえば朝行ったきり、トイレに行ってない。気づいてしまったら行きたくなってきたな。


「彩音は大丈夫か?」

「そう言われると、行きたくなってきました」


 うんうん、そう言うもんだよな。

 ここのトイレは男女兼用で2つあるから先に行ってもらおう。

 ちなみにこの世界のトイレは日本と物と変わらない座ってできるタイプのものだ。処理などは魔法を使って上手くやっているらしい。


「俺がここにいるから彩音も行ってこい」

「そうさせてもらいます」


 1人になったのでステータス確認の続きでもして待つか。といっても気になる事は後一つ。剣術の技だ。

 

 ……スラッシュか。名前からして斬る技だな。振り方なんかについては町から出て試してみないとわからないな。


 その後、彩音と入れ替わりでトイレに行き、マスターが作った料理を食べた。

 マスターが作ってくれたのは兎肉を使ったハンバーグとパンとスープのセット、シホちゃんのハンバーグは俺と彩音のものと比べて七割くらいの大きさだった。それでもシホちゃんには少し多そうだったけど。


「どうだった?」

「味も量も文句なしだ。この子のは少し多かったみたいだが、残すほどではなかったしな」

「そうだろそうだろ」

「そうだ! マスター依頼の確認を頼む」

「飯を食った後にそれを言うか? 薬草の報酬より料理の方が高いんだが?」

「あれは合格のご褒美みたいなものだろう?」

「……はぁ、兄さんのこと見くびってたみたいだな」


 エニフ草の件がテストだと確信したのは報酬の変わりに料理を頼んだ時だ。俺の要求にマスターがうれしそうに了承したが、200Bでは3人分の料理には足りないはずだ。それは昨日の夕食から判断できる。

 マスターの態度が差額分の儲けのせいって可能性もあったが、そんなにがめついなら料理を安くすることもないだろうと判断した。


「くくく、いいねいいね。兄さん達のこと気に入ったよ」


 マスターが急に笑い出した。騙すような事をしたのに気に入ったってどういうことだ?


「いやー、あんた達なら活躍してくれそうだ。よかったらパーティー名を教えてくれ」


 依頼を受ける酒場のマスターにとっては、強かな人間の方が好ましいって事か。

 しかしパーティーか。そういえばアロー達と別れてからパーティーを組んでいないな。丁度いいから、今この場で組んでしまうか。


「今組むからちょっと待ってくれ」

「組んでなかったのか!?」

「忘れてただけだ。……今から3人でパーティーを組む。パーティーにつけるいい名前を考えてくれ」

「……そうですね」

「春馬先輩がピエロだから[サーカス]でどうですか?」

「はい、採用。それじゃあ申請を飛ばすぞ」


 ウィンドウで2人が承認したことを確認


『パーティー:サーカス

 リーダー :初鳥 春馬

 メンバー :遠藤 詩穂

       塚本 彩音』


 名前の表記がフルネームになっている。異世界の影響で仕様が変更になったのか?

 というか、2人のフルネームも表示されてる。これは――悪用されないように気をつけないと。

 

 そういえばいつの間にか[老騎士]が解散していたようだ。


「って事で、俺達のパーティー名は[サーカス]だ」

「[サーカス]だな。覚えておくぞ。それじゃあ依頼の品を出してくれ。一応確認させてもらうから」

「はい」


 シホちゃんが背負い袋から肉と毛皮を出していく。あまり多くはないが、一人であれだけ集めるのは大変だったはずだ。


「それじゃあ確認させてもらうよ」


 マスターが一つ一つ手にとって確認し始めた。ものを見る目は真剣そのもので近寄りがたい雰囲気を感じる。


「センパイさん」


 シホちゃんが声をかけてきた、が表情がかたい。まるで緊張しているようだ。


「これからの具体的な予定って決まってるんですか?」

「それは私も知りたいです」


 彩音ちゃんも会話に参加してきた。

 これは昨日みたいな曖昧な行動目的じゃなく、もっと細かい、いつに何をするかってことを聞いてるんだろう。

 けど、昨日はそういったことを聞かなかったのに、なんで今になって聞いてきたんだ? 何か心境の変化でもあったのだろうか?

 まあ、特に考えていなかったけど具体的な予定は考えておいたほうがいいよな。


「考えていなかったけど、そうだな……。明後日までの三日間はお金稼ぎ、その後三日間を情報収集にあてよう。更に細かい予定まではまだ考えてないからちょっと待ってくれ。で、7日目は自由行動。息抜きも必要だからな」

「そこまでわかれば十分です。わざわざ考えてくれて、ありがとうございます」 

「お休みもあるんですね。でも何で最初の三日間がお金稼ぎなんですか? 先に情報を集めたほうがいい気がしますけど」

「今は無気力なプレイヤーが多いから狩場も空いているけど、彼らが行動し出したら狩りの効率が悪くなる。それに3日も経てば掲示板にもいろんな情報が集まりだすだろ」

「はぁー、いろいろ考えてるんですね」


 彩音は特訓が終わってから生意気なことを言うようになったな。少しは気を許してくれるようになったんだったら嬉しいんだが。


「うん、問題ないな。ほい、これが報酬だ」


 俺達の前に銅貨が8枚と銅の版5枚が置かれる。話しこんでいる間に確認が済んだようだ。


「すまない。……この銅版は?」

「それもお金だぞ。1枚10Bだ」

「コインだけじゃないのか。他のお金についても教えてくれないか?」


 聞いている間にシホちゃんを促がしてお金をしまわせておく。


「かまわん。低いほうから鉄貨が1B、銅版が10B、銅貨が100B、ここまでが一般市民が使うお金だな。そして銀貨が10000B、金貨が1000000B、こっちは商売や政治で使われる。特に金貨は大きな取引や政治での使用がほとんどだから、目にする機会はないだろうな」

「何で銅だけ板状のものがあるんだ?」

「銅版は昔は存在しなかったんだ。使われだしたのは150年くらい前、3国の協議で使用が決まった。それまでは鉄貨と銅貨だけだったから、鉄貨を沢山持ち歩く必要があって大変だったんだ」


 なるほどな、貨幣にも歴史があるって事か。

 3国ってのはここデシクオ、西のトリオス、エルフとドワーフの国リギトスのことだろう。国同士で協議できる程度には良い関係のようだ。


「勉強になったよ。ありがとう」

「どういたしまして」

「それじゃあまた来るよ、マスター」

「ちょっと待った」


 話はもうすんだと思ったんだがまだ何かあるのか?


「ほんとに何も知らないようだから、一つ教えておく。依頼のない素材も中央広場にある素材買取所にもって行けば買い取ってくれる。魔物を倒してお金を稼ぐ奴にとっての常識だ」

「そんなところがあったのか。わかった、後で行ってみる」

「ああ、それじゃまた来いよ!!」


 気の良いマスターだったな。というかこの世界に飛ばされてから悪い人間に会っていない。もしかしたらこの世界の人間は皆善良なのかもしれないな。


「春馬先輩、ボーっとしてると置いてきますよ?」

「悪い。直ぐ行くよ」

「センパイさん、お金稼ぎ頑張りましょう」

「そうだな、頑張ろう」


 俺は2人に手を引かれて町を出た。

シホちゃん視点の回想ってあったほうがいいですかね?

彼女の心の動きがきちんと書けてるか心配なんですが・・・。


皆さんの意見を聞かせてください。

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