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当日 女神エラド

連続投稿5日目です。

 本日は日曜日。会社は休み。

 昨夜の疲れが残ってたのか10時過ぎに目覚め、急いで朝食を食べて《RMMO》にログインした。

 ログインするとすぐにアローからのコール。


「どうした、アロー?」

『センパイ遅いですよ。いつもの酒場にいますから早く来てくださいね』

「りょうかい」


 昨日はそのままログアウトしたので、今いるのは北の草原だ。

 俺は遠くに見える外壁を目印に町へと向かった。




「センパイ遅いですよぉ」

「わるいわるい。早速だが今日はどうする?」

「イベントまで2時間しかないですからね。ここでゆっくりしましょう」

「じゃあ、一昨日出来なかった反省会でもするか」

「ソウゲンカラスについてはセンパイ君が寝坊している間に話し合いましたよ。一昨日の戦い方がベストということになりました」


 ソウゲンカラスについてはもっと手早く狩れるようにはしたいが、俺に策はない。

 これなら、俺が参加しても結論は変わらなかっただろうな。


「それなら少し聞いてもいいか?」

「何ですか?」

「技みたいなものを覚えたんだが、これって取得条件はどうなってるんだ?」

「ああ、それは多分ですが、スキルが10になったときに覚えるんだと思います」


 それだと投擲が当てはまらないんだよな。


「まだ10になっていない投擲にも技があるんだが……」

「そのことに関しては掲示板で議論されてましたよ。技として効果のある行動をとると取得出来ると見られていますね」


 なるほど、それなら納得できる。

 ……このゲームに掲示板なってあったか?


「掲示板があるのか?」

「掲示板サイトに《RMMO》のスレッドがあるんですよ。ゲームには実装されてないですから」


 それは知らなかった。まあ、知ってたとしても見なかっただろうな。

 いろいろ知ってしまうとゲームの面白さは半減してしまうものだ。


「とにかく、どっちも確定情報じゃないんだな」

「スキルのレベルによる取得は確定と見ていいと思いますよ」

「そんなことより、センパイ。どのスキルがレベル10越えたっすか?」

「えーと、……格闘と体捌きだな」

「じゃあセンパイもエアキャノンを覚えたんすね」


 マウントは一体何を言ってるんだ?俺はそんな技覚えていないぞ。


「エアキャノンってなんだ?」 

「え? 格闘のレベル10で覚えた技っすよ?セ ンパイも格闘が10越えたなら覚えてるはずっす」

「俺が格闘で覚えたのは捻り突きだぞ」

「それはおかしいっす。うちのギルドメンバーで格闘スキルが10を越えたのは、全員エアキャノンを覚えたんすよ?」


 それならマウントの勘違いということもなさそうだ。

 だが、いくら確認しても俺の覚えている技は捻り突きだった。


「それも掲示板の話題になってましたね。人によって覚える技が違うことがあるようです」


 マトバは掲示板をよく見ているようだな。

 ゲーマーとして情報収集に余念がないんだろう。


「これもまだ確定情報ではないんですが、それぞれの戦い方で変わってくるんじゃないかといわれています」

「そういえば、エアキャノンを覚えたメンバーは、マウントと似たような戦い方をしてました」

「それなら説明はつくな。もう一つ聞きたいんだが運動と聴覚というスキルを覚えてたんだが、どういったものか解るか?」

「運動は走ったり跳んだりというまさに運動に関するスキルです。聴覚は小さな音や遠くの音を聞いたり、騒がしい場所でも聞こうとした音がよく聞こえるようになるスキルですね」


 アローがすらすらと答える。


「その情報も掲示板からか?」

「いえ、この情報はβテスト参加者が作ったまとめサイトのものです。僕達も情報提供したんですよ」


 アローの話に感心していると酒場の入り口からなぜかルビーが入ってきた。

 静かだと思ったらいつの間にか外に出ていたらしい。

 ルビーは俺の席に寄ってくると、背負い袋から何か取り出しこちらに渡してくる。


「センパイ、これどうぞぉ」

「なんだ?」


 受け取って見てみると、それは服のようだった。


「昨日私とギルドメンバーで作ったんですけど、仮面を担当してた子達だけ間に合わなくて。今完成したんで受け取ってきました」

「仮面?」

「センパイがピエロになるのが夢だったって言ってたんでぇ、ピエロっぽい衣装を作ってみましたぁ」


 広げてみると、上は白いシャツに白黒のチェックのベスト。下は太いストライプのパンツだ。

 シャツの袖とパンツの脚の部分は少し膨らんでいて袖口と裾口がきゅっと締まっている。

 仮面は顔の上半分を鼻の頭まで覆うもので、色は白。

 まるで、オペラ座の怪人がつけているような仮面だ。

 これを俺が着るのか?


「どうですかぁ? 出来るだけ格好良く、それでいてピエロっぽさが無くならないようにしたんですよぉ。さぁ、着てみてください」

「お、おう」


 俺は酒場の奥のほうで背を向けて脱ぎ始める。

 ……今気づいたが、何でこのゲームはワンタッチで装備とか出来ないんだろうか。

 とりあえず肌着だけになった俺は手甲と脚甲をどうするか迷う。


「ルビー、手甲と脚甲は上から装備していいか?」

「だめでぇす。そのためにゆったり目に作ってあるんで中に着てくださぁい」


 いわれたとおりに手甲と脚甲を肌着の上から着け、更にその上にピエロ服を重ねる。

 仮面もつけてみたが、意外なことに視界の邪魔にはならない。

 これでは、仮面を外す理由が見つけられないではないか。


「着替えたぞ」


 自分の席へと戻った俺を見て、なぜか皆が言葉を失っていた。


「……何か言ってくれないか」

「予想以上に似合ってます、センパイ」


 そういってくれたのはルビーだ。いつもの言葉遣いを忘れるくらい驚いている。


「仮面をつけて似合ってるもないだろ」

「いやいや、そんな事はないよセンパイ君」

「立ち居振る舞いのせいですかね、しっくり来ますよ」

「格好良いっすよ、センパイ!」

「そ、そうか?」


 これだけほめられると満更でもなくなってくるな。


「着心地はどうですかぁ、センパイ?」


 言葉遣いの戻ったルビーに促され、少し動いてみる。


「思ったよりも動きやすいな」

「よかったですぅ。頑張って作ったんですからちゃんと着てくださいね」

「ああ、ありがたく――」

「皆さんやっぱりここにいました!」


 俺の言葉をさえぎったのはシホちゃんだった。

 こちらへと近づいてくるシホちゃんの隣にはもう1人女の子が。きっとこの娘がアーヤちゃんだろう。


「こんにちはシホちゃん」

「こんにちはセンパイさん――って、センパイさんですよね?」


 俺の挨拶に挨拶を返すシホちゃん。多分声で俺だと判断したんだな。


「格好良いでしょぉ? あたしがギルドの仲間と作ったんだよぉ」

「……似合ってはいますね」

「あらぁ、シホちゃんの趣味には合わなかったかぁ」

「…………格好良い」

「アーヤ?」


 この娘がアーヤちゃんで合っているようだ。

 そのアーヤちゃんは、キラキラとした眼差しで俺を見ていた。


「……あっ!? は、始めまして! 私アーヤです! よろしくお願いします!」

「始めまして、アーヤちゃん」


 慌てて自己紹介をするアーヤちゃん、その様子に俺達は苦笑してしまう。

 アーヤちゃんは一息にまくし立てると俺に向かって丁寧に頭を下げる。こういうところはシホちゃんと違うな。


 アーヤちゃんはアロー達にも挨拶をしていく。その間にアーヤちゃんを観察する。


 髪の色は濃い黒。長い髪を後ろで縛り、上に持ってきて留めている。

 目は黒目がちでパッチリとしている。

 体は全体的に引き締まっており、背はシホちゃんより高い。胸はシホちゃんと同じか少し小さい。

 間違いなく美少女だな。

 服はプレイヤーが最初から着けているソフトレザーアーマー、腰にはメイスをつけている。

 旅行に行っていたそうだから、シホちゃんと同じく初期装備のままだろう。


 アーヤちゃんの挨拶が終わり、椅子を持ってきて座ったところで観察をやめた。


「そろそろ12時になるっすよ」


 アーヤちゃんにここ数日のシホちゃんのことを話している間に時間が経ったようだ。


「楽しみですね」

「そうだな」


 シホちゃんと笑い合っていると、目の前にウィンドウが現れ女性が映し出される。

 どうやらイベントが始まったようだ。


『皆さん、始めまして。わたくしは女神エラドです』


 言われてみると目の前の女性に神々しさのようなものを感じるな。


『皆さんにはこれより、わたくしの管理する世界へと渡っていただきます』


「世界を渡るって、イベントの設定ですかね?」

「作りこまれた設定ってぇ、雰囲気は出るけど良し悪しですよねぇ」


『そして、一年後に封印より開放されてしまう邪神を倒していただきたいのです』


「一年後って、長いイベントっすね」

「邪神討伐を最終目標にした連続クエストなのかもしれませんねぇ」


『既に皆様は地球の神々との契約により、元の世界へと帰る事が出来なくなっているはずです』


「どういうことですか?」

「ゲームの設定にしては変だね?」


『このような理不尽なやり方をして、頼みごとなど出来る立場ではありませんが』


「……センパイ、ログアウト出来ないです」

「……こっちも出来ない。どうやら冗談などではないようだ」


『どうかわたくしの世界を、人々を救ってください』


 ウィンドウから目を開けていられないほどの光が溢れる。

 咄嗟に目を閉じてしばらく待つと、辺りが騒がしくなってきた。

 

 光が収まったのを確認し目を開けると、そこは沢山の客で賑わう酒場だった。

これでプロローグは終了です。

次回掲示板、人物紹介をはさんで次章に入りたいと思います。

しばらく間が空くと思いますが、お待ち戴ければ幸いです。

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