1日前 模擬戦
連続投稿4日目!
感想、待ってます!
昼休み、今日は矢野と会社近くの定食屋で昼飯をとっていた。
「先輩、これ読んでおいてください」
矢野にA4サイズの紙を1枚渡された
「なんだ? 辞令でも出たか?」
「違いますよ。PvPについてまとめたものです」
「PvP? ……ああ、《RMMO》の話か」
「はい、シホちゃんとのトレーニングに必要だと思ったので」
矢野の作った書類はわかりやすくまとめてあった。
まずはプレイヤーキルについて、ペナルティは全プレイヤーへの顔とステータスの告知。それに対するプライズはキルされたプレイヤーの所持金の半分だ。
ペナルティを考えると旨みは少ないと思う。
続いて模擬戦のやり方。これは視界にいるプレイヤーを対象に申請を出して行う。
受諾されれば両者の中間を中心としてフィールドを形成、その中でHPがなくなってもフィールドが解除されるまで動けなくなるだけだ。
フィールドは小中大から選べ、小が10m四方・中が25m四方・大が50m四方だ。
フィールド内でのルール設定は勝敗条件、禁止行為、時間、特殊と分かれていて、勝敗条件はHP何割とか規定回数ヒット等。禁止行為は物理攻撃禁止や魔法禁止、移動禁止なんかも設定できる。時間はそのまま。特殊は重力設定や強制状態異常、戦場設定等もできる。
ここら辺は今日シホちゃんといろいろ試してみよう。
「良くこれだけまとめたな」
「模擬戦を知らないままだと、先輩がシホちゃんをキルしそうですから」
「お前は俺を何だと思ってるんだ?」
「というわけで、今から模擬戦をする」
「明日会ったらアローさんに御礼を言わないといけませんね」
「そうだな。それじゃこっちから申請するからそのまま受諾してくれ」
「わかりました」
俺達は北の草原に来ている。
ここはスタート地点だからかモンスターが出ずプレイヤーも少ないのだ。
ウィンドウを操作し模擬戦の項目を選択、視界に入っているプレイヤーの名前が表示される。
シホを選ぶと、今度はフィールドの設定用のウィンドウが現れる。
フィールドは小、勝敗はHP5割減、魔法禁止、それ以外はデフォルトで申請する。
シホちゃんが受諾の操作をする。こっちからは空中を指でつついているようにしか見えないが。
模擬戦が受諾されました、と書かれたウィンドウが現ると俺達の周囲に半透明の壁が現れた。
「これが模擬戦のフィールドですか……」
「とりあえずHP半減で終わるから、そのたびに回復してくれ。それを何度か繰り返そう」
「今日も大変そうですね……」
「俺は素手、シホちゃんは杖でお互い魔法はなしだ。……いくぞ!」
「えぇ、もうですか!?」
シホちゃんに駆け寄り腹を狙って右で突く、それをシホちゃんは杖でガード。
俺はそのまま杖をつかみ引き寄せると、驚いているシホちゃんにボディーブローを入れた。
シホちゃんは呻き咳き込んでしまう。……うわぁ、罪悪感が半端ない。
とりあえず落ち着くためにバックステップで距離をとる。
「……。どうしたんですか? 追撃してくると思ってたんですが」
「年下の女の子を攻撃するっていうのは思った以上にきついなと」
「何を言ってるんですか? これはゲームなんですよ」
「苦しそうにしてるのが見ていられないというか……」
「この先、私が苦しい目にあう機会を減らす為にも、お願いします」
「……そうか? ……わかった。俺もこの先女性を殴らなきゃいけない事があるかもしれないしな」
「お互いそんなことがないように願いたいですけどね」
そうして再開したのだが、どうしても本気を出しきれない。
最初のうちはそれでも問題なかったが、しかし10回繰り返したあたりで負け始め、20回繰り返したあたりで全く勝てなくなってしまった。
あまりにもシホちゃんの成長が早いので、一度中断しようとしたが、シホちゃんは無言で模擬戦の申請をしてくる。
有無を言わせないその態度に満足するまで付き合う覚悟を決める。
反撃することも出来なくなった24戦目、急にシホちゃんが怒り出した。
「センパイさん、本気出してください!」
「手を抜いてるつもりはないんだけどな……」
「そうですか。……だったら私が本気を引き出します!」
途端シホちゃんの動きは別人のようになった。
振り下ろしを横にかわせば追ってくるように杖をなぎ払い、突いてきた杖をつかもうとすれば杖を返し逆側で打たれる。
俺も集注しないと受けたりかわしたりする出来ない。
しかし、2・3戦もする内に、かわせなかった攻撃がかわせるようになったり、受けるので精一杯だった攻撃を受け流したりしていた。
それでも攻めようと無理をしたシホちゃんに大きな隙が出来る。
その大きな隙に、つい顔面に向け全力のストレートをくり出してしまった。
シホちゃんがまるで格闘ゲームのように仰向けに飛んで地面へ倒れる。
「シホちゃん!? 大丈夫か!?」
「やっと本気で攻撃してくれましたね」
ダメージなどないかのようにしっかりと立ち上がるシホちゃん。
「どうですか? 殴られるくらい全然平気ですよ私?」
そういって杖を構えなおす。
その構えは素人とは思えないほど堂に入っており、それに対峙する俺は無言の圧力を感じていた。
「まだまだいきますよ!」
そういうとシホちゃんは杖を下段から振り上げてくる。
バックステップで回避するも、杖をまわすことで上段からの振り下ろしにつなげてきた。
それをまわし受けで払い、そのまま脇に抱えようとするも、ひねりながら引き戻され失敗。
続いてくり出されたのはあごに向けての突きだ。
俺は大きくのけぞることで回避し、戻される杖にあわせて体を起こしながら右足を前に出すと、腰と腕にひねりを加えてがら空きの胴体を突いた。
腕を引くと、着いてくるかのように倒れこんでくるシホちゃん。
その体を俺は肩で受け止めた。
草原に吹いた一陣の風が少女の髪を揺らす……。
……はっ! 俺は何を浸っているんだ!? シホちゃんが無事か確認しないと。
「だ、大丈夫か?」
「ちょっと、待って、ください……」
そういうとたどたどしく詠唱を始め、自らに回復魔法をかけた。
それで動けるようになったのか、慌てて体を離すシホちゃん。
顔を真っ赤にして照れてしまい落ち着くまで少しかかった。
「ふぅ、もう大丈夫です」
「はぁ、よかった。あまりにも綺麗に入ったから驚いたぞ」
「攻撃に集中したら防御を忘れてました。センパイさんが対応するのが早いからですよ」
「それをいうならシホちゃんの成長も早すぎると思うんだが? 怒ってからの立ち回りなんて経験者かと思ったくらいだ」
「あれは体が勝手に動いたというか、導かれたというか……」
「確かに、今考えると俺もそんな感じだったな」
これは、ジョブとかスキルが関係してそうだな。
「一度ステータスを確認してみよう」
「わかりました」
ステータスを表示っと
名 前:センパイ
ジョブ:〈武人〉11(8)〈魔術士〉3(3) 〈クラウン〉5(3)
能力値:筋力・・・9(4)
体力・・・10(3)
器用・・・9(2)
敏捷・・・7(2)
魔力・・・4
精神・・・7(2)
スキル:△格闘11(NEW) 剣術6(2) △投擲4(NEW) 純魔術1(NEW)
運動1(NEW) △体捌き10(6) 聴覚1(NEW)
称 号:駆け出し 命の恩人
装 備:ビギナーソード
投げナイフ
ソフトレザーアーマー
幼トカゲの手甲
幼トカゲの脚甲
ナイフホルダー(ベルト)
所持品:背負い袋(剥ぎ取りナイフ 革の水筒 オオウサギの毛皮3 オオウサギの尻尾3 オオウサギ の肉3 マヨイイヌの皮 マヨイイヌの爪4 マヨイイヌの牙2 ソウゲンカラスの羽 ソウゲ ンカラスの嘴)
所持金:400B
しばらく見ない間にいろいろ増えているな。上から順に見ていくか。
名前は飛ばしてまずはジョブだな。
括弧の数字は上昇値かな? これを見ると、以前スキルを確認するときにも上昇していたようだ。
〈武人〉が高く〈魔術師〉が低いのは戦い方のせいだな。
〈クラウン〉は体捌きが関係してそうだからそれで上がったのか?ほかに関係するとしたら投擲術と運動だな。
続いて能力値。ジョブがレベルアップするごとに能力値が1増えてるみたいだな。
次がスキル。まずこの三角形は何だろう? 掲示板等ならツリーの表示と格納だが。
触ってみるとそこに新しいウィンドウが表示された。内容は、スキル毎の技かな?
格闘では捻り突き、さっきシホちゃんに止めをさした技かな?投擲では抜き投げ、体捌きでは重心移動だ。
しかし、覚えたタイミングが気になるな。格闘と体捌きがそれぞれ10になったときに覚えたとしたら、投擲に技があるのはおかしい。何かきっかけがあって覚えたとするなら捻り突きはさっき、抜き投げはナイフを投げたときに偶然、重心移動は戦闘中ならいつ覚えても不思議ではない。
……これは考えても埒が明かないな、明日アロー達に相談してみよう。
スキルについて他にも疑問がある、純魔術はわかるのだが運動と聴覚は身に覚えがないな。
これも明日一緒に聞くか。
称号・装備・所持品・所持金は詳しく見る必要がない。特に装備と所持品の欄は邪魔なので後で非表示に設定しよう。
「センパイさん、どうでした?」
「多分スキルのおかげだろう、シホちゃんの杖術はいくつ?」
「12です。……じゃあセンパイさんも」
「格闘と体捌きが10を越えてる。10を越えると動作に補助みたいなのがつくようだな。シホちゃんのほかのスキルはどんな感じだ?」
「えっと、治癒術が9、運動が1です」
シホちゃんも運動を覚えているのか、これは走ることに関係するスキルと考えておこう。
治癒術が高いのは模擬戦が終わる毎に回復していたからだろう。
「これで動きがよくなった原因はわかったな。――と、もうこんな時間か」
時刻は現在21時43分、ゲームをやっていると時間が経つのが早いな。
「シホちゃんはもう時間だな」
「そうなんですけど……」
「どうした?」
「センパイさん、もう一戦だけ付き合ってください」
「いいけど、時間は大丈夫か?」
「大丈夫です! それで、センパイさんには本気で戦ってほしいので」
「ほしいので?」
「センパイさんが負けたら罰ゲームです」
「罰ゲーム?」
「そうです。私が勝ったらセンパイさんには……そうですね、アローさんと周囲が羨むようなデートをしてもらいます」
「え!?」
これは負けるわけには行かないな、そんなことをした日には《RMMO》引退待ったなしだ。
「さあ、始めましょう!」
シホちゃんから申請が来る、俺もすぐに承諾。模擬戦のフィールドが形成されお互いに距離をとる。
「ルールは今までと変わりません。ただ公平を期すためにこのコインが落ちたら開始です」
シホちゃんは手に持ったコインを俺に見せるように掲げると天高く放り投げた。
集中する2人の周囲に風が吹き、辺りの草を揺らす。
落ちてきたコインが草を鳴らした瞬間、俺は一気に駆け出した。
シホちゃんはまだ動かない、俺が近づいて来たたところを狙うつもりだな。
2人の距離が後5歩まで縮まる、シホちゃんの杖を持つ手に力が入るのがわかった。
後2歩のところでシホちゃんが着地する寸前の右足を狙って突きを放ってきた。
かわせないと判断した俺は地面に残ってる左足で跳び浴びせ蹴りをくり出す。
それに対してシホちゃんは突いた杖を跳ね上げる。
俺の蹴りはシホちゃんのこめかみを掠り、シホちゃんの杖は俺のお尻の穴を直撃。
重力にしたがって落ちていく俺はフィールドが解除されるほどのダメージを一点で受け止めることになった。
俺は地面に落ちるとお尻を押さえて転げまわった。
「センパイさん!? どうしたんですか!?」
シホちゃんの杖がお尻の穴にクリーンヒットしたんですとは、口が裂けてもいえない。
俺が悶え苦しんでいると、すぐに痛みが引いていく。
どうやらシホちゃんが回復してくれたみたいだ。
「私のせいですよね!? ごめんなさい!」
「シホちゃんのせいじゃないから謝らないで」
「あのっ、勝負は私の反則負けにしましょう!」
「反則とかないから、勝ったのはシホちゃんだよ」
「じゃ、じゃあ。逆に私が罰ゲームやります! 何かないですか罰ゲーム!」
「いや、勝ったのに罰ゲームはおかしいから」
「だったら罰ゲームを変えましょう! 何かしてほしいこととかないですか?」
「それじゃ罰ゲームにならないよ。……大丈夫だから、とにかく落ち着いて」
あの後、シホちゃんは起き上がった俺に詰め寄ると、猛烈な勢いで頭を下げて謝ってきた。
何とかなだめて話が通じるようになったのは模擬戦が終わってから30分後のことだった。
「でも……、でも……」
「シホちゃんが回復してくれたおかげでもう痛くないし、ゲームだから問題なしだよ。でも、罰ゲームは変更してくれるとうれしいな。自分で決めたら意味がないからシホちゃん、何か考えておいて。ね?」
「うぅ……、わかりました」
「ほら、もう21時を30分も過ぎてるよ。ログアウトしないと」
「はい……。おやすみなさい」
「おやすみ、シホちゃん」
すっごい疲れた。泣いてる女の子の相手をするのってものすごく神経使うよな。
ああ、今日はもう何もしたくない。とっと落ちて寝てしまおう。
イベントについては明日考えればいいや。
ギャグって難しいですね。
・・・ギャグになってればいいけど。