7日前 キャラクター作成
最近会社で話題に成っているゲームがある。《リスペクティブ メリィ メモリィ オンライン》通称《RMMO》だ。
コンピュータ上の仮想現実、いわゆるバーチャルリアリティを使ったRPGで、そのβテストには定員に対して10倍を超える応募があったと言われている。
その《RMMO》が明日、正式サービスを開始するのだ。
「初鳥先輩、明日が楽しみですね」
帰宅しようと鞄を持った俺に声をかけてきたのは、後輩の矢野だった。
「そういえば矢野はβテストに参加したんだっけか。参加した特典とかあるのか?」
「正規版をもらえるだけで、ゲーム内では特にないですね」
ってことは、パラメータ的な差はないのか。
テスターならいろいろ知ってるだろうし、慣れるまでは組むのもありだな。
「それなら、都合が合うなら一緒にパーティーでも組むか?」
「いいですよ、こっちから誘うつもりでしたし。他にも紅美ちゃんと隆と、あと竹芝商事の的場さんも一緒の予定です」
「澤田さんと山本は予想出来たけど・・・・・・。お前、的場さんまで誘ってるのか」
いま会話に上った人たちは、全員《RMMO》のβテストに応募して当選した生粋のゲーマーだ。
特に、的場さんは40半ばにして、未だゲームの腕が衰えないと周りのゲーマー(矢野たち含む)に尊敬されるほどらしい。
「はい! この前の営業のときに《RMMO》の話で盛り上がって、で一緒に組もうって」
照れくさそうに後ろ頭をかく矢野、俺はあきれているんだが・・・・・・。
「なるほどな・・・・・・、まあいいか。そんじゃ、先あがるな。お疲れ」
「お疲れ様です!」
さて、明日のためにたまった洗濯など済ませておきますか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
明けて日曜日の正午。俺はベッドに横になり、《RMMO》用のヘッドギアをはめてスイッチを入れた。
途端意識が落ち、気づいたときには真っ白な空間に立っていた。
「《リスペクティブ メリィ メモリィ オンライン》の世界へようこそ。まずは新しい世界でのお名前をどうぞ」
どこからか女性の声で語りかけられた。この声にしたがってキャラクターを作るらしい。
新しい世界での名前・・・・・・つまり、キャラクターネームを決めてくださいってことだろう。
このゲームでは仮想ウィンドウを使ったタッチ入力、音声による入力、思考による入力の3つの入力方法が採られている。
「センパイ」
この名前なら矢野たちもわかりやすいだろう。
「センパイ様ですね。続いて、外見を決めてください」
音声に従いキャラクター作成を進める。
外見は現実で撮影・登録した自分の姿を元に多少いじれる程度だ。こだわりはないのでそのままの自分の姿に決める。
「続いてジョブを選んでください」
《RMMO》では沢山のジョブがあり、大まかに戦闘とその他に分けられている。その中から3つを組み合わせるのだが、戦闘ジョブは必ず1つ以上選ばなければならない。選んだジョブによって、初期能力値や能力値の成長、スキルの習得・成長のしやすさが決まるらしい。
早速仮想ウィンドから選ぼうとするも、その種類はとても多かった。まずは〈剣使い〉〈槍使い〉等の一般的な武器職。続いて〈火術士〉〈水術士〉等の属性毎の魔術職。〈魔物遣い〉〈斥候〉等の特殊戦闘職。〈鍛冶師〉〈木こり〉等の採取・製造職。変わったところでは〈超能力者〉〈鬼〉〈クラウン〉なんてのもある。
俺は《RMMO》で戦闘をメインに楽しむつもりなので、それにあったジョブを選ばないとな。
1つ目は近接戦闘をおおよそカバーしてくれそうなので〈武人〉。
2つ目は様々な属性の魔法を使いたいので、属性の決まっていない〈魔術師〉。
3つ目はどうしようか考える。
〈武人〉と〈魔術師〉で戦闘に関する基本的なスキルはほぼ網羅できるだろう。それなら3つ目は自分の好みや思い入れだけで決めようかな。
そうして、俺は〈クラウン〉を選ぶ。
クラウンつまりサーカスなどで見るピエロのことだろう。これで王様的なジョブだったりした時には、運営に抗議文を送りそうだ。
ジョブが決まったので初期能力値が算出される。能力値は筋力・体力・器用・敏捷・魔力・精神の6種類あり、筋力なら物理攻撃力・体力ならHPと防御力と、一般的なRPGと同じように影響しているそうだ。
「最後に初期武器を選んでください」
初期武器はジョブと違いスタンダードなものしかない。
とりあえず、俺は片手剣を選択する。そこそこ間合いもあり使いやすそうだし。
そして出来上がった、最終的なステータスがウィンドウに表示される。
名 前:センパイ
ジョブ:〈武人〉1 〈魔術士〉1 〈クラウン〉1
能力値:筋力・・・4
体力・・・6
器用・・・6
敏捷・・・5
魔力・・・4
精神・・・5
スキル:
称 号:駆け出し
装 備:ビギナーソード
ソフトレザーアーマー
所持品:背負い袋(剥ぎ取りナイフ 革の水筒)
所持金:5000B
まあ、最初はこんなもんだろう。
ステータスを見ているだけで、わくわくして顔がにやけてくる。
「お疲れ様でした。それでは《リスペクティブ メリィ メモリィ オンライン》の世界をお楽しみください」
再度聞こえた女性の声が、冒険の始まりを告げる。
俺の意識がまた沈んでいく・・・・・・。