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1-5 エピローグ

 事件は予想通りの大騒ぎになり、そして予想外の鎮静となった。


 あの日、敦賀さんに言われたとおり、病院に行ってから帰宅した際(玄関から入らず、こっそり窓から侵入し、ボロボロのワイシャツだけは着替えた)、出迎えた母の第一声は、

「あんた、さっき学校がニュースに出てたよ」

 だった。

 その後まもなくして電話が鳴った。担任の岡本からだった。岡本は矢継ぎ早に「学校で事件があったが現在調査中で詳細は不明」「再開の目処が立たないため休校」「今後の予定は決まり次第追って連絡する」といったことを告げると、そのまま慌ただしく切ってしまった。


 翌日の朝刊では「深夜のお礼参り?」というような見出しで、事件についての事実や憶測が書かれていたが、それもある日を境にぱたりと見なくなった。

 敦賀さんに聞いたところによると、例の学校の――というか国からの――圧力と隠蔽工作らしい。現場に残っていた有力な手がかりである俺の血液混じりの吐瀉物も、特に追及されることもないまま処分されるだろう、とのことだった。


 結局、学校が再開になったのは事件から二週間後のことだった。

 戦いの現場となった教室は使えないため、一時的に視聴覚室や理科室などの空いている教室を渡り歩くこととなった。

 学校中が噂でもちきりになっていたが、それを除けば普通の高校生活が戻って来たのだ。

 最初こそ事件の話題しか挙がらなかったが、一週間もすると思い出したように誰かが口にする程度になった。今後は半ば都市伝説として尾ひれを付けて語られることとなるだろうが……実は俺、当事者なんだよ……とは、とても言えない。


 俺が転校する、という話は、親と先生との間でひっそりと進められた。

 さすがに真実を告げることはできないため、どう言い繕うべきか苦心した。

 平然と「超能力者の学校がある」なんて馬鹿げた話をしたら、行くのは学校ではなく病院になってしまうだろうから、大いに悩んだ。


 小隈さんから呼び出されたのは、休校三日目のことだった。

 行った先には四〇半ばくらいのやせ気味で幸薄そうな顔のおっさんが居た。だが、そのおっさんは例の学校――私立光明ヶ丘学園のエージェントだと言う。

 転校の旨を伝えると、おっさん――梅林さんは、俺に"台本"をくれた。

「実は以前から学園に行きたくて悩んでいたんだけど、場所も遠いし迷惑をかけると思ってどうしても言い出せなかった。だけど今になっても諦めきれないでいて、向こうの学校に相談し特別に試験を受けさせてもらったら、特別コースへの途中編入が認められた。やっぱり自分の望む学校に通いたい」

 梅林さん同伴で台本通りに打ち明けた時の両親の唖然とした顔は、忘れられそうにない。



 しとしとと鬱陶しい雨が降る。まあ、梅雨入りしたんだからしょうがないが、今日くらいは晴れてほしかったなぁと思い、溜息を吐き出す。

「あーあ、折角の新しい制服が濡れちゃうのは、ちょっとやだなぁ」

 さほど以前の制服から変わり映えのない、まだ体に馴染まない紺色のブレザーの袖に、黒く丸い跡が増える。

 てっきり私立だと言うからもっと個性的な制服を想像していたが、前との違いと言えば胸ポケットのワッペンくらいなもので、後は無個性そのものだった。

 なんでも悪目立ちしたり、制服目当ての変な輩に絡まれたりするのを避けるためらしい。

「新品なんて、どうせまたいくらでも着る羽目になるよ。一回戦えばボロボロになっちゃうんだし」

 鮮やかな黄緑色の傘を回しながら、小隈さんは投げやりに言った。傘にはデフォルメされたカエルの顔がプリントされている。

「小隈さんって、新品のノートの一ページ目書くのに躊躇しないタイプ?」

「何それ? 箱崎くんは躊躇するの?」

「するねー。あと新しい消しゴム使う時とかも」

「……変なの。行かないなら、先行くよ」

「待ってよ、小隈先輩」

 歩き出そうとする小隈さんの背中に向かって、俺はわざとらしくそう投げかけた。

「ちょっと、止めてよ……留年してるとか思われちゃう」

 そう言いながらも、ちょっと得意げな顔をしているのを見逃さなかった。

「だって、この学校に関しては小隈さんの方が詳しいわけだし。いろいろ教えてよね」

「うーん……どうしよっかな」

 立ち止まる俺たちを抜かして、学生たちがスタスタと歩いて行く。


 ――果たして、この中のどれだけの人が、同じシェアード・サイキックなのだろう?

 そして――俺はこれから、どれだけリンケージをすることになるのだろう?

(ま、なんにしても――今までより退屈しなくて済みそうだ)

 心の中で独りごち、俺は小隈さんと並んで昇降口へと歩いて行った。


 この先にあるのは希望か……あるいは破滅の未来かもしれない。

 だが、それがなんであれ、楽しまなければ損だ。


「それじゃ、行こうか」

「ん」

 降りしきる雨の中、二人並んで昇降口へ歩いて行った。

 その先に見覚えのある金髪の女子の後姿を見つけ、声をかけると――小隈さんとのリンケージが、少しだけ弱まった。

 俺が思わず吹き出しそうになると、小隈さんはいつものように顔を真っ赤にして、背中をバシッと叩くと、早足で歩いて行ってしまった。俺は謝りながら、置いて行かれないように駆け足で追いかけた。


ひとまずここまで。

次話以降は現在構想中。

なるだけエターナらないようにしたいと思いつつ、断言はできぬふがいなさよ……。

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