2-5 報告
「――すぅっ」
打撃による複雑骨折と内臓破裂による怪我が治り行くのに比例して、苦悶の表情を浮かべていた彰も落ち着きを取り戻していった。完治する頃には、すっかり安穏な様子で寝息を立てるまでに回復した。
治療を行った鳥羽は肩で息をするほどに疲弊したが、座って休憩をしたおかげで、数分後には普段の調子に戻っていた。
「……記録は見せてもらった。事前に大路の"オブリビオン"の特性を知っていたとはいえ、戦闘経験を上手いこと機転によってカバーしてみせたもんだ。結構、結構」
鳥羽の調子が戻るのを待ってから、男子生徒が口を開いた。
「どうやって悠ちゃんとの一対一に持ち込もうかと考えていたんですけどぉ、あっちから言いだしてくれて助かりましたよぉ」
「彼を勧誘した際の報告で、多対一の結果は聞いていたからな。一対一のデータが確認できたのは幸いと言える。次は多対多が見てみたいものだ」
「でもぉ、もうあっきーは心が折れちゃったと思いますよぉ? 弱いくせに人より上に立ちたいって思ってるから、経験値の浅いルーキー狩りくらいしかしないんだからぁ」
「今回は君に頼んだけれど、次は……頼むまでもなく、勝手に血気盛んな連中が仕掛けてくれるだろうさ」
「うちの学校、問題児には事欠かないですからねぇ」
二人は静かに肩を揺らした。
「そういえばぁ、鳴海先輩はこのこと知ってたんですかぁ?」
「あいつはあれで潔癖なんだ。理由はどうあれ秩序を乱すような真似は見過ごせない奴だからね。知ってたら反対されるからナイショさ。転校生の実力を見るため君にお願いしたのは、全部僕の独断だよ。他の生徒会の連中は誰一人噛んじゃいない」
「そうなんですかぁ。じゃあ先輩の弱味握っちゃったってことですかぁ♪」
「はははっ! 弱味、弱味ねぇ。ばらされても大して困りはしないから、弱味にはならないぞ。恩を売った、って方が聞こえがいいし、気分もいいだろう?」
「じゃあ、そのうち恩返ししてくださいねぇ。約束ですよぉ?」
「はいはい、約束。また頼みごとがあったら、こっそりと頼むかもしれないから、その時はまた考えておいてくれ」
「はぁい。それじゃあ帰りますねぇ。さよならぁ」
「うんうん。気を付けてお帰り」
男子生徒は鳥羽が部屋を出ていくのを見送った。
そして部屋には、彼と意識のない大路だけが取り残された。
じきに学園のエージェントが大路を引き取りにやってくる。その後に大路を待ち受けているのは、教師陣による説教だ。
彼は責任を大路に押し付けたことを、少し申し訳なく思った。わずかにではあるが、心が痛んだのは確かだ。だからこそ特別学級送りにならないように、口添えを図るつもりであった。
だが、だが。簡単に煽動され戦いを挑んだのは、間違いなく大路自身の気性と決断からなのだ。普段から目に余る行動が多いのだから、いい加減キツイお灸を据えるべきだった、とも思っていた。
それだけに、転校生と戦ってくれたおかげで実力が計れたことと、大路を罰するチャンスが得られたのは、むしろ良い方向に転がってくれたとさえ思っている。
「ようこそ、ようこそ、学園へ。君は……優秀な駒になるのか? あるいは、混沌を巻き起こす問題児のお仲間になるのか。……楽しみ、楽しみ」
窓ガラスの向こう、明かりの灯る東学生寮を、男子生徒は愉快そうに眺めた。
ようやく第二話できましたー。
感想とかもらえると嬉しいです。
第三話は……も、もう少し早くできたらいいなぁ。