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1-0 プロローグ

 一七年前の六月二八日は、ほとんどの人々にとって、ただ過ぎゆく日常の中の一日でしかなかった。


 もちろん、父親が死んだとか、初孫が出来たとか、結婚式を挙げたとか、そういう人生の節目の日だという人も居たことだろう。

 あるいは運命的な出会いによって自殺を思いとどまったというような、一冊のベストセラーが出来てしまうようなストーリーもあったかもしれないが――そのようなことは、世界にとって重要ではない些末な出来事に過ぎない。

 肝心なのは、その圧倒的多数に含まれない、ある非常に限定的なマイノリティにとっては、人生を左右しかねる、いや、本人の思惑に関係なく、絶対に逃れようのない運命が定まってしまった日であった。

 それは誰の目に留まることもなく、ただひっそりと舞い降りた。


「あら……この子、今動いたわよ。お腹蹴ったわ」

 女が大きな腹を笑いながら撫でた。

「蹴破って出てきたらどうする?」

 男が大げさな動きで、からかうように言って見せた。

「馬鹿ね。それじゃエイリアンじゃないの」

 そう言うと男と女は目を細めて笑い合って、男は女の隣に座り、腹を撫でていた手の上に、自らの手を重ねた。


 異変から数か月後。

 箱崎はこざき家に生まれ、とおるという名前を与えられる少年も、この時はただひっそりと母の胎内で、今か今かと産声を上げる日を待ち続けるだけであった。

 ――自分と母を結ぶへその緒以外にもう一つ、一生を大きく変えてしまうだけの不可解な"繋がり"があることなど、つゆ知らず――。


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