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一個目:うさぎくんにて失恋中

また、五話くらいで終わる中編書き始めました。


「ご、ごめんなさい……! 僕、好きな人がいるので!」

 閻魔大王を目の前にしたかのように、彼は見ていて痛痛しいほど震えて言った。



 彼女は今日も、大泣きしている。自身が授業を受けている教室のど真ん中で、大泣きしている。そんな彼女に、クラスメイトはまたか、と同情の視線を向けた。

 黒色のセミロングをぐしゃぐしゃにかき回すと、彼女は大きく声をあげる。


「またフラれたあああああ!」

「煩いっつの。音量さげろ、美衣(みい)


 美衣と呼ばれた彼女の頭をパコッと叩くのは、傍らにいた靖之(やすゆき)だ。

 光に当たるとこげ茶色に見える短髪。愛嬌のある顔は、今、不機嫌に歪められていた。


「酷い! 酷いよ、靖之! 謝れ! 今この床に伏して土下座で謝れ! あと声を出していない全国の美衣ちゃんに謝れ!」

「はいはい、サーセンっした」

「この野郎! 変態鬼畜って呼ぶぞ!」

「俺がいつ変態で鬼畜になった」

「ただの当てつけだ!」

「開きなおんなし」


 えぐえぐと泣きながら叫ぶ美衣に対して、靖之はどこか呆れた態度で対話する。

 立ち上がりそうな勢いも見えた時。気圧されて、ようやく彼はそれだけ言って言葉を引っ込めた。


「――それで、今回は?」

「二組の丸山くん! びくびくしているところが可愛いの! 影ではうさぎくんって呼ばれていて、誰に懐くか賭けられていたりするの! でも全然気づかないところがいいの!」

「ほーう、丸山か。それにしても、前の奴とはかけ離れてるな?」

「もういいの、あんな俺様男! 謙虚な丸山くんがいいの!」

「でも、フラれたんだろ?」

「シャアアアアアアアアアアアアア!!」


 言うなとばかりに毛を逆立てて猫のように威嚇する美衣。その様子を見て、またからかうように言う。


「今年で何回目だ? もう三回は確実だろ?」

「うっさい! もおお……、なんでフラれるんだろ……」


 ブスってわけじゃあないのに。そう言った靖之は、美衣の顔を見て小さく頷く。

 確かに、ブスではない。だが、言ってしまえば普通の可愛さだ。美衣の高い理想の彼氏には、到底お似合いにはならないだろう。

 でも、それを言ってしまえば、きっと、また拗ねる。


「また、次があるだろ」


 未だ泣いている彼女の頭を、ポンポンと撫でる。

 これも、日常茶飯事の一つだった。



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