4・12 唯と朝 1
ここから少しのあいだ中篇?が続きます。
「ふんふんふ~ん」
麻宮家の台所をあずかる四姉弟の次女、麻宮夕貴は食事をつくるとき鼻歌を口ずさむクセがあった。
やや童顔ながら栗色の髪をミディアムボブにしたヘアスタイルが似合う彼女は現在、近所の大学にかよう女子大生だ。
いま彼女は弟の唯に手伝ってもらいながら通学前の時間を使って一家の朝食とお昼の弁当を作っているところだった。
「そろそろ時間かな。唯ちゃん、姉さんを起こしてきてくれる? あっ、それと涼子ちゃんも」
いつも目安にしているテレビ番組のコーナーがはじまったのを見て、夕貴は唯にそうお願いした。
毎朝のことなので反射的に「了解」と応えつつ、着ていたエプロンを脱ぎ、しかしそこであることに気づいて彼の動きが止まる。
「えっ? (涼子)姉さんもまだ起きてきてないの?」
「うん。お願い。あの子、めずらしく夜更かししてたみたいだから」
「三人かあ。厳しいなあ。って言っても行くしかないわけだけど。わかった。行ってきます」
頼まれたのはふたりの姉を起こすことだけだが、彼はそこにもうひとり足し、なぜか悲壮な決意とともに覚悟を決めた。
緊張感みなぎるそのさまは、さながら戦場におもむく戦士のようだ。
おおげさなようだが、あながちその表現も間違いとは言えない。
少なくとも唯にとっていまからむかう場所は死地そのものなのだから。