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4・23 唯と銭湯 4

 そのころ男湯のほうでは……。


「そうかそうか。兄ちゃんは縁ちゃんのクラスメイトなのか」


「はい。仲良くさせてもらってます」


 サウナ室の二段になっているベンチの上段に座った唯が、この銭湯の常連らしき老人とオジさんふたりに声をかけられていた。


「うんうん。あの子はいい子だからな。これからも仲良くしてやってくれよ」


 老人は自分の孫のように縁のことを気にかけていた。


「男勝りなところがあるのがたまに傷だけどな」


 茶化すように言った中年のオヤジの声にも親しみがこめられている。

 椎名縁はこの銭湯で常連のアイドル的存在であるらしい。


「この男が縁ちゃんにさんざん裸を見せつけてきたからな」


「あんただってあの子が小さいころから目のまえでゾウさんゾウさん言いながらブラブラさせてただろうが」


 話を聞きながら唯はちょっとだけ縁に同情した。


「このままじゃあ嫁の貰いてがいるのかどうか心配になるってくるな」


「おれたちにも責任のいったんはあるかもしれないからなあ」


「どうだい兄ちゃん? あんたが貰ってやってくれないか?」


「それりゃいいや。そうなればおれたちも肩の荷がおりるってもんだ」


「いや、それは……」


 話が変な方向にむかい始めた。


「縁ちゃん、いい女だぞお」


「そ、それはもう」


「あと十歳若ければ俺が口説いてたな」


「そりゃあ向こうがお断りだ」


「ちげえねえ!」


 なにが可笑しいのか、ふたりは唯を置いてきぼりにして笑いあう。


「おれだって断られると思いますんで」


「なあに言ってんだい。兄ちゃんみたいな若い男が」


「若いうちは当たってくだけろだ!」


 背中を思いっきり叩かれた。


「ははは……逃げたい……」


 唯の額から流れる汗はサウナのせいばかりではなかった。



 男湯で唯が常連客たちと裸の交流をしていたころ、女湯のほうでは……。


「じ、地獄風呂? なんなのこの毒々しい名前のお風呂は?」


 ポコポコと気泡がわきたつ赤い色のお湯に戦慄をおぼえた晶が顔をひきつらせていた。


「週変わり風呂。今週は地獄風呂。唐辛子成分が入った気泡風呂だって。小さいころはこんなのなかったから最近できたのね」


 お風呂の説明が書かれたプレートを見つけた涼子が顔を近づけて読みあげる。


「刺激が強いので敏感肌のかたは避けてくださいだそうよ」


「上等。じゃあ次はこれにしましょ。勝負よ涼子!」


 いつの間にかくつろぎの空間が勝負をする場になっていた。


 涼子の目が光る。


「いいけど、泣くことになるよ」


「ふふん。それはどっちかしらね」


 ……十分後。


「くううう。日焼けしたみたいにヒリヒリする」


 地獄風呂からあがった晶はタイル床に手をついて涙目になっていた。


「わたしって敏感肌だったのね」


 もともと白かった肌がところどころ赤くなっているのが痛々しい。


「だから言ったのに」


 いっぽう涼子は地獄風呂に肩までつかってあきれていた。


「ここまでチョロイと笑う気にもなれない」


「なにか言った?」


「いいえ。なにも」


 涼子が風呂から出てくる。


「って、あんたも赤くなってるじゃない!」


 晶の言うとおり、涼子の白い肌もところどころ赤くなっていた。


「でしょうね。お風呂のなかでヒリヒリしたもの」


「だからどうして平気なのよ!」


「この刺激……嫌いじゃない」


「恐ろしいほどの変態だわ!」


「またあなたの負けね」


「わかってるわよ! ぐぎぎぎぎ!」


「その顔を弟くんに見せてあげられないのが残念」


「あいつは関係ないでしょ!」


 このままじゃ終われないと晶がキョロキョロと次なる戦場を探しまわる。


「せっかく銭湯にきてるんだから、ケンカなんてせずにゆっくりできないのかしら?」


 女湯にだけある露天風呂からガラス戸ごしにふたりの様子を見ていた沙希があきれていた。


「ケンカするほど仲がいいんですよ、あのふたりは。ちょっとうらやましいかな」


「なに? ケンカしたいの?」


「い、いえ。そういうわけじゃないですけど」


「内に溜めこむタイプだもんね、あなた」


「そうですか? そんなつもりはないんですけど」


「そういうのって自覚ないっていうじない。なにかで発散させなきゃダメよ。合気道はもうしてないの?」


 夕貴はこれでも合気道の有段者だったりする。


「たまに道場借りてやってます。子供たちに教えたりもしてますし」


「子供相手じゃ余計にストレスたまりそうだけど」


「みんな良い子ですよ」


「またそうやって良い子ちゃんぶる。そういうとこがダメなのよ」


「べつに良い子ちゃんぶってなんていません」


 頬をふくらませて抗議する夕貴。


「そう? ならいいけど」


「そういう姉さんこそどうなんです? ストレスたまってるんじゃないですか?」


「わたしは大丈夫よ。色々と発散方法があるもの。お酒でしょう、男でしょう、ゆーでしょう」


「唯ちゃんでストレスを発散しないでください」


「あら。面白いのよ、あの子の反応」


「もう。可哀想な唯ちゃん」

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