4・23 唯と銭湯 2
銭湯回なのになかなかお湯につからない・・・orz
「あら」
玄関を出るとコンビニの袋をさげた鹿島晶とばったりと出くわした。
たったいま帰ってきたところのようで、彼女は今まさにとなりの家に入ろうとしてるいところだった。
「どうしたの? ゾロゾロと」
こんな時間に麻宮家の四姉弟が勢ぞろいで家を出てくるのが珍しくて、晶は少し驚いたようだ。
「家のお風呂の調子が悪いから、これからみんなで銭湯にいくところ」
代表して唯がこたえる。
「ふーん。そう。行ってらっしゃい」
自宅のドアをあけて中に入ろうとした晶だったが、とちゅうでその足を止めた。
なにやら考えこんだかと思うと、
「待って。わたしも行く」
「こなくていい」
涼子が晶の言葉に被せ気味で即答した。
「なんでよ! 行くわよ! いちど銭湯には行ってみたかったんだから!」
「あれ? 晶って銭湯が嫌いじゃないかった? 昔、誘ったときは結局いちども来なかったと思うけど」
小学生のころに銭湯に足しげくかよったことのある唯だったが、涼子はともかく晶と行った記憶はない。
「あのころはまわりの子たちより大きいこの胸が恥ずかしかったからね」
「今はいいのか?」
「胸が大きいのはステータスでしょ? 同性に見られるくらいなら別にいいわよ」
「うん。いま、色々な人を敵にまわしたぞ」
堂々と胸をはっていう晶の後ろで夕貴と涼子が暗い顔をしている。本人は気づいていないが。
しかし四人のなかで最強グラマラスボディの持ち主である沙希だけはそのへんまったく頓着していなかった。
「成長したじゃない、晶。いいわ。ついてきなさい」
彼女はむしろよく言ったとばかりに晶の肩に手をおいた。
「じゃあ一時間くらいしたら出てくるから」
滝の湯の玄関で靴箱に靴をしまい、男・女と書かれた暖簾のまえで男1人と女4人の二手にわかれたところで沙希からそう告げられて、唯はうなずく。
「了解」
「弟くん、さびしくない? こっちにくる?」
「行きません」
「残念」
本当に残念がる涼子の頭を晶は無言ではたいた。
なかに入ると銭湯特有の濃い湯気の匂いと「いらっしゃい」という若くて元気のいい声が五人を出迎える。
その声に聞きおぼえのあった晶が番台に目をむけると、そこにクラスメイトの椎名縁を見つけて驚きの声をあげた。
「椎名じゃない!? なにしてんのそんなところで!?」
「鹿島? 驚いた。あんたもこういうところに来るのね。まったく似合わないけど」
金髪の晶が銭湯の入り口に立つ姿はたしかに似合っていない。
「うるさい」
「ふふっ。ごめんごめん。わたしは家の手伝い。小遣い稼ぎもかねてちょくちょく座らせてもらってるんだ」
ベリーショートの髪をしたこの少女は指で輪っかを作って屈託
くったく
のない笑顔を浮かべてみせた。
「あんたの家ってお風呂屋さんだったの?」
「正確には母方の実家なんだけどね。わたしが住んでるのは二駅むここうだから。でもそっか。鹿島たちってこのあたりに住んでるんだっけ」
縁は晶と男湯のほうにいる唯を交互に見てうなずいた。
そのさいクラスメイトである唯とも軽く挨拶をかわすが、その唯の態度が先ほどからどうにもぎこちない。
「弟くん、どうかした?」
「な、なんでもない」
「べつにわたしのことなら気にしなくていいから。見たりしないし」
「うぐっ」
さきほど家で出来たばかりの古傷をえぐられる唯だった。
「べ、べつに見られても平気だし」
強がってみる。
「へえ。それじゃあじっくり観察してあげようか? 他の男性と比べてどんなものか鑑定してあげる」
「うそです。やめてください」
「どうしよっかなあ」
イタズラっぽい目で縁がからかうと、しかし当の唯ではなく女湯のほうにいる涼子がにらみつけるように番台へと身を乗りだしてきた。
「弟くんの裸を見ていい女はこの姉だけなんだ!」
「はい?」
わけもわからずキョトンとなる。
「あー――はいはい。気にしなくていいわよ、椎名。こいつはただの変態だから」
晶が変態の襟首をつかんで後ろに下がらせる。
「ああ、そういえば麻宮先輩って……」
美人で有名なひとつ上の先輩が重度のブラコンだという話は有名な話だった。
「ついでに紹介しておくわ。こちらのふたりも唯のお姉さんで、長女の沙希さんと次女の夕貴さん」
「いつも弟がお世話になっています」
「あっどうも。クラスメイトの椎名縁です。こちらこそ麻宮くんにはお世話になっています」
晶に紹介され、代表して夕貴が頭をさげると縁も慌てて番台の上から頭をさげる。
ちょうどそのとき女湯のほうの入り口が開いて別の女性客が入ってきた。
年配のその女性客は四人の女性客が入り口をふさいでいることに驚いているようだ。「おや。今日はずいぶんと繁盛しとるねえ」と縁に笑いかけている。
「こんなところで固まっているとお店に迷惑ね。自己紹介も終わったし、お金を払ってお風呂に入りましょ」
『はーい』
年長者の言葉に一行はそれぞれ番台にお金を置いていき、ぞろぞろと奥へとむかった。
「ごゆっくり」
そのなかで残った沙希がこっそりと縁に耳打ちした。
「あとでこっそり唯のアレについて聞かせてね」
「あはははは……」
「沙希ネエ!」
「はいはい。冗談冗談」
男湯のほうから聞こえてきた叱責に、長女はとぼけるように妹たちの後をおっていった。
「まったくあの姉は。とんでもない姉だ」
「やれやれ。お姉さんに頼まれたら見るしかないか」
「見なくていい!」
ノリのいい同級生に唯が悲鳴をあげた。
次は間違いなく湯船に入ります。本当です。