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4・23 唯と銭湯 1

明けましておめでとうございます。今年一年もたかつきのことをよろしくお願いいたします。


さて、告知どおり日常パートです。銭湯回です。

「にゃわあああああ!」


 夕飯を終え、まったりした時間のなかにあった麻宮家に麻生唯の悲鳴が轟いた。


「どうかした!?」


 まるですぐ外に待機していたようなタイミングで姉の涼子が風呂場の扉をあけた。


「どわっ! 姉さん!? ちょっと待って! バスタオルまくから!」


「緊急事態と判断。待ってる暇はない。なので押し通る。そこにやましい気持ちは一切ない。ひとえに弟

くんのため。けして裸を見れるチャンスだなんて思ってない。なので安心していい。じゅるり」


「ヨダレをたらすな! 怖いわ!」


 バスタオルは間に合わないと判断して、手ぬぐいを腰にまく。でもこれでは心もとないので、外の更衣室にどうにか出ようとするのだが、絶妙な位置どりで涼子がそれを阻止している。


「転んで頭打った? ゴキブリでも出た? それともまさか……ノゾキ? 弟くんの裸は姉のものなのに。許すまじ。犯人はとなりの金髪女に決まってる。いますぐシメて」


「どれも違うから。お風呂が水だったから驚いただけ」


 ちなみに麻宮家が入っているマンションの部屋は地上五階にあるので、ノゾキが出たとしたらずいぶんと気合の入った変態ということになる。


「水?」


 涼子が首をかしげてお風呂に手をつける。

 冷たい水風呂だった。

 言われてみれば湯気がたってない。

 そのことに今さらながらに彼女は気がついた。


 いっぽう唯は変態の姉が浴槽に手をかけてるあいだに風呂場を脱出していた。

 急いで体を拭いて着がえようとする。


「どうかした?」


 そこに、こちらは本当にタイミングよく夕貴がやってきた。


「あら」


 唯は涼子から前を隠すように浴室に背をむけて、足をあげてボクサーパンツを履くところだった。

 つまり更衣室の入り口にむけてフルチン全開だった。


「……」


 唯は無言になってボクサーパンツを履いた。ズボンを履いた。シャツを着た。そして隅っこでうずくまった。


「夕貴お姉ちゃんはいつもそう。美味しいところを持っていく」


 うしろでは涼子の悔しそうな声。

 死にたくなった。


「き、気にしなくていいのよ。姉弟なんだし。小さいころはよく一緒にお風呂に入った仲じゃない」


 苦笑いでフォローされても居たたまれないだけだった。


「で、どうだったの?」


 いつの間にか風呂場の入り口に長女の沙希がやって来ていた。


「なにがですか?」


「唯のア・レ」


 彼女は弱った弟に追い討ちをかけるのが大好きな困った性格をしていた。


「怒りますよ?」


「はいはい。冗談よ。それで最初の悲鳴はなんだったの?」


 妹の笑顔に危険なものを感じ、さっと話題をかえるあたりはさすが長女である。


「お風呂が冷たい」


 いまだ精神的ダメージから立ち直れない唯にかわって涼子がこたえた。


「えっ? ほんと? ちゃんとお湯を入れたはずだけど」


 慌てた様子で夕貴が更衣室を横切って浴室に入り、さきほどの涼子と同じように浴槽に手をつけた。


「ほんとだ。ゴメンなさい。今すぐお湯を張りなおすから」


 そう謝って蛇口の温水側の栓をひねったが、いつまで経っても出てくるのは冷水のままで、いっこうに熱くなってこない。


「どうやら給湯器が壊れたみたいね」


 それを見ていた沙希が言った。


「大変。どこに電話すればいいのかしら」


 首をひねりながら風呂場から出ていく夕貴。

 他の三人も電話があるリビングへと移動する。



「はい。はい。そうですか。わかりました。ではそれでお願いします」


 十分ほどすると電話帳で調べた業者との電話を終え、夕貴がみんなにふり返った。


「明日になったら来てくれるみたい」


「そう。じゃあ問題は今日ね」


「一日くらい我慢すれば?」


「唯……男のあんたはそれでいいでしょうけど、女のわたしたちはそういうわけにはいかないのよ」


 長女の意見に姉ふたりもうんうんとうなずく。

 こうなれば末っ子で唯一の異性でしかない唯としては何も言うことはできない。


「晶のところで借りる?」


「それもいいけど、久しぶりにみんなで銭湯に行かない?」


 夕貴がいいアイディアだと言いたげな顔で提案した。


「銭湯なら商店街の外れにあったね」


 小学生のころよく通っていた銭湯を懐かしむ唯。


「滝の湯? あそこまだ潰れてなかったのね」


 沙希が失礼な感心のしかたをした。


「たしかまだやってるはずよ」


 麻宮家からだと商店街にあるスーパーの途中にあるので夕貴はよくその前をとおる。


「サウナや水風呂があって楽しかったなあ」


 いっぽう唯は自分の記憶を掘り起こして、ちょっとテンションをあげていた。


「姉のお気に入りは電気風呂」


「マニアックだね。おれはピリピリするのが怖くて入れなかったよ。今なら入れるかな?」


「それじゃあ久しぶりに行きましょうか」


「賛成」


「弟くんがいくならこの姉もいく」


「決まりね」


 こうして麻宮家の今日のお風呂は銭湯で入ることになった。



 これがあんな悲劇を生もうとはこのとき誰も予想だにしなかったのである。

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