霞草
「さっきの歌のこと、聞いてもいい? 聞いたことないんだけど、あれなんて曲?」
「あっあれ、その、じ……自分で作ったんです」
恥ずかしそうに顔を伏せながらも、若葉はそう言った。
「え、自作!? すげえな!」
「その、全然、まだまだですけど、いつかデビューしたいんです」
はにかむ若葉は、とても愛らしかった。
「今の歌なら絶対出来るって! オーディションとか?」
「はい、退院できたら、ですけど。今のままだと、会場に向かえないので」
「え、でもさ、今は録音して応募、なんてのもあったと思うけど」
確かこの前ネットで見た気がする。
「そっ、そんなのが、あるんですか!?」
「うん、歌を録音して、応募すればいいらしいよ。やってみたら?」
「やってみたい、です、けど……私、機械、使えなくて」
しょんぼりと肩を落とす若葉。どうやら機械音痴らしい。
「じゃあさ、俺が教えてやろうか?」
思わずそんな言葉が出ていた。
「いいんですか?そんなことまで、していただいて」
「もちろん。俺がネットで手続きとかとっといてやるから、お前は歌を歌えばいいからさ、な?」
「本当ですか? ありがとうございます!」
その時の若葉の嬉しそうな笑みを、俺は一生忘れないと思う。
部屋に帰ってから、約束したオーディションを探そうとパソコンを開いた。
ちゃんと看護士さんに許可をもらったので、見つかっても安心である。1時間という制限はついてるけど。
「あ、これとかいいかも……」
いくつかのサイトを見ているうちに、ちょうど良さそうなものを見つけた。
俺は応募方法や応募先など要点をメモすると、再び若葉の部屋に向かった。
「喜んでくれるかな……」
若葉のあの笑みが蘇る。
あの笑顔をもっと見たくなる。
もっと一緒に居たい。
あの時の俺は、まだこの感情にちゃんと気付けてなかったのかもしれない。
定期的に更新できないのが悪い癖です……
霞草の花言葉は「清い心」「親切」「切なる願い」などがあります