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花麒麟  作者: 清風 緑
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コーレア

「りょーかい、部屋入れてもらっていい?」

「は……はい」


本人の許可を取ってから部屋に入る。

松葉杖をついていたので少し片づけにくかったが、破片を集め、床を拭き、花は他の花瓶に移した。


「あの……ありがっ、ありがとう、ございます」

つっかえながらも、彼女は俺に向かって頭を下げた。


「いいって、怪我とかしてない?」

「だ、大丈夫……です」


改めて少女を見てみると何故か少し顔が熱くなった。

艶々の長い黒髪は左右で編まれていて、長い間外に出ていないのか病弱なまでに白い肌と黒髪とのコントラストは言い表せないものがあった。

いまだに頭を下げているので顔は良く見えないが、まだ少し怯えているようだった。


「俺、隣の部屋の高内 楓、高校2年生。交通事故で入院中、ま、よろしくね。気軽に楓って呼んでくれたらいいから」

少しでも緊張を和らげようと自己紹介してみる。

いつのまにか、下の名前で呼んでくれなんて言葉が出ていた。


「あっあの、わた……私、この部屋の永瀬 若葉です。2年前、から、ここで、入院してます。もし学校に、通ってたら、高校2年生、です。わたしも下の名前で呼んでいただいて、結構です」


つっかえながら話すのは会話に慣れていないからかもしれない。ここではあまり、いろんな人と話をしたりはしないだろう。

2年も入院しているのなら重い病気なのかもしれないが、深くは詮索しない。

しかも同い年とは……随分と大人っぽいのに……意外だな。少なくとも年上と思っていたので驚いた。


「えと、その、片づけていただいて、ありがとう、ございます」

もう一度若葉はそう言うと、意を決したように顔を上げた。


「っ!?」


ドクン、と心臓が撥ねあがった気がした。謎の感覚。

若葉の瞳に何か違和感を感じたが、正体が分からない。どこか不思議な瞳。切れ長の瞳と一瞬だけ目があった気がしたがすぐに目を伏せてしまった。


なんとも言えない気まずさが病室を支配する。

何気なく机の上を見てみれば、CDにヘッドホン、音楽プレーヤーなど、音楽関係の物が多い。朗読CDなんかもある。


そこまで見てから、再び違和感に襲われた。


「どうか、しましたか?」

何かを感じ取ったのか、不安げに若葉は俺に尋ねる。


「いや、なんでもないよ。音楽関連の物が多いなぁと思っただけ。そういうのが好きなの?」

「そう、ですね。好き、です。音と、花が」

どことなく煮え切らない返事。若葉は何かを考えるかのように俯いた。

「花も?」

花、という単語にぴくりと反応し、若葉は顔を上げた。


「はい、花とか、植物が、好きなんです。花言葉を覚えたり、してるんですよ。例えば、楓なら『大切な思い出』とか」

「『大切な思い出』か、そういえば俺、自分の名前なのに花言葉を調べたことなかったかもしれないな。他にもあんの?」

「他には『非凡の才能、遠慮、美しい変化』などが、あります。楓といえば、もみじですけど、もみじは品種が300以上もあるんです」

先ほどよりも若干すらすらと嬉しそうに喋る若葉の表情はとても明るかった。


「そこの、朗読CDに全部入ってるんです」

「そんなんがあるのか。でもなんでCD? 本とかでは読まないのか?」

そう尋ねると、若葉は少し悲しそうに答えた。


「……音の方が、好きですし、覚えやすいので」

「そっか、じゃ、俺はこれで。色々教えてくれてありがとう。長居してごめんな」

出口に向かって歩き出す。


「こちらこそ、ありがとう、ございました。よかったら、また来て、ください」

俺の背に、そう小さな声が聞こえた。


いつもなら社交辞令だと思う言葉なのに、とてつもなく嬉しかった。



久しぶりの続きです。


ちなみにコ―レアの花言葉は「信頼」「互いをよく知る」などがあります

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