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クリムゾンブラッド  作者: 樹 詠慎
~一章:華鞍絢爛~
4/4

三説:捜査1-現場検証-

この物語はフィクションです。

登場する団体・人物などの名称はすべて架空のものです。

作中には暴力的・中傷的な表現が含まれております。

そのような描写の苦手な方はご注意ください。

四課事務所から外に出て、初めて目にする華鞍の街並みに聡一郎は驚いた。

映像と数値上による説明を受けてはいたが自分の五感で感じるのとでは認識が異なる。

建物をブロック構造にして縦横に道路が交差する碁盤目状の景観は圧巻だ。

メインストリートと思われる幅の広い道路には歩道と車道が無い代わりに

幅の広い歩行用ベルトが片道二本走っている。

天井は外の空模様がライブスクリーンされていて奇妙ではあるが

地下という閉鎖感を多少は和らげているような気がする。

街並みを観察しながらLLDのナビに従って現場へ向かう。

四課事務所は4階層南西市街の諏望(すもう)区という地区にあった。

ビルの近くの階層エレベーターで2階層まで上がる。


LLDで情報収集して分かったことは灰羽課長の説明にあった通りに

この街は完全に隔離されていることだ。

ネットワーク、テレビ、ラジオ、電話等の通信情報網や交通機関は当然ながら

『空絶』と呼ばれる街全域を包む巨大な結界に阻まれて華鞍には簡単に

入ることも出ることも出来ない。

また結界の効果で内外から視認することも出来ないようだ。

故に郊外の地図はない。

しかし街の規模から完全な自給自足は不可能と思われるので

地下鉄で定期的に外界から物資の輸入を行っていると思われる。

多分、自分もそれに乗せられて来たはずだ。


地下鉄は道路に並走する形で東西南北に走っている。

切符売り場はなく、LLDを自動改札機に当てることで賃金計算される。

車両はモノレールタイプで駅一区間の距離は短くバスに近い運用のようだ。

事件現場へは中央本線を走るラピッドライナーなる快速電車を乗り継いで

一気に北市街の上守区まで移動する。

ここ2階層中央北市街の上守(かみもり)区は四課事務所周辺とは雰囲気が異なっていた。

周りには見るからに高級そうな建築が立ち並び、

街を行き来する人々も高そうな服を着込んでいてどことなく上品だ。

対照的に四課のある周辺は雑多で退廃的だった。

どうやら上層へ行くに従って裕福な環境になっているようだ。

どこでも格差はあるものだなと思いながら現場へと歩を進める。

現場周辺は封鎖テープが引かれており、地元の警察官5名で現場検証を行っていた。

封鎖しているためだろうが高級住宅街の路地にしては華やかさが感じられず、

人の気配や生活の匂いが感じられないどこか殺伐とした雰囲気がする。

封鎖テープにいる警察官にLLDに警察手帳を表示させて尋ねる。


「特別公安四課の相馬です。

 現場責任者はどちらにいますか。」


「あちらのコートを羽織っている曽野田(そのだ)警部補がそうであります。」


四課の名を聞いた警察官は一瞬顔を曇らせたがすぐに表情を引き締め直して答えた。

封鎖テープを潜り抜けて曽野田警部補と敬礼を交わす。

曽野田警部補は顎髭を擦りながら聡一郎を観察している。

顔には深い皺が刻まれており、白髪交じりの髪の毛をオールバックにして纏めている。

人生の深さが伺えるが目にはそれを感じさせない活力が宿って見える。

背は聡一郎より高いのだが猫背で体を丸めているので小さく感じる。


「要請を受けて出向しました特別公安四課捜査班の相馬警部補です。」


「君が特安四課の新人か。

 わしはこの現場を仕切っとる上守警察署の曽野田だ。

 四課に来てもらっとる時点で眷族による犯罪の可能性が高いっちゅう見解なのは

 分かっとると思うが少々厄介でな。」


「何故です?」


曽野田は頭を掻きながらLLDから現状の報告内容を閲覧する。


「所謂、神隠しなんだわ。

 ガイシャは糸川琴壬(いとかわ ことみ)、16才、上守高校三年。

 昨日の2302に帰宅しない娘を心配した両親より捜索願の届けがあった。

 上守警察署員で捜索にあたったが現在も捜索中だ。

 自宅から100メートル手前付近のここでガイシャ本人の所持品を発見。

 現場には学生鞄と部活道具の他に綺麗に抜かれた市民コード。

 争った痕跡は見当たらず、血痕も無し。

 近隣住民による目撃情報も得られんかった。

 犯行時刻は下校時間と犯行現場の距離から算出して1730前後。

 未だ有力な情報が無いんで難航しとるっちゅう訳だ。」


「犯行現場が別という可能性はないですか?」


「可能性は低いな。

 人質目的や人身売買目的の知能犯ならこんな所に証拠を捨てたりせん。

 それに市民コードの無効化が目的なら摘出なんて面倒なことはせずに

 電磁波で焼く方が楽だ。

 下級眷族の捕食なら大概は食い散らかすから痕跡が出る。

 検証から推測できるのはここでガイシャが綺麗に蒸発したっちゅうことだな。」


「眷族は人を喰うのですか・・・。」


「何だ。

 説明を受けとらんかったのか。

 正しくは魂を喰らうんだがな。

 下級眷族だと肉体から魂だけを抜くことができんからそのまま喰らっちまう。

 詳しい話はそっちの課長が専門だから聞いてみることだな。」


伝記等の話で妖怪が人を喰らう記述は読んで知ってはいたが

現実に在ると分かるとショックを隠せなかった。


「生存の可能性は・・・。」


「言いたくはないが眷族の仕業なら可能性は低いな。

 他のケースを考えても市民コードが抜かれとる時点で無事ではあるまい。

 わしから言えるのはこれぐらいだ。

 両親への聴取は取れておるが学校関係者は許可が

 今日の午後に取れた所でまだ行っておらん。

 午後にでも学校に行ってみるといい。

 眷族の方向性での捜査はそっちで頼む。

 こっちはグループ犯行の線でもう一度、洗い直してみる。」


「了解しました。

 一通り現場を見ても?」


「証拠に触れんかったら気が済むまで見てもらって構わん。

 何か情報があったらそっちの課長に連絡しておく。」


「ありがとうございます。

 では。」


お互いに敬礼を交わして別れた。

現場を一通り確認したが痕跡は見当たらなかった。

鞄や部活道具は乱れた感じがなく静かに置かれたようで

主が取りに戻ってきそうな感じさえする。

市民コードは鞄の近くの側壁に張り付いていた。

目を凝らすと壁に小さなチップ片が張り付いていた。

まるで吐き捨てるような感じだなと聡一郎は思った。

これ以上の情報は出てこないと結論して四課に連絡しようとLLDを取り出す。

ふと顔に何かが触れた。

違和感のする辺りを掴んで見ると30cmぐらいの長さの糸か白髪みたいだった。


(誰のだろう。

 空調に流れてきたのだろうか。)


念のために証拠品として近くにいた警察官に渡して現場を離れることにした。


改めて四課に連絡する。

通話が通ると灰羽課長ののんびりした声が聞こえてくる。


「相馬です。

 現場で情報を頂きましたが有力な情報は得られませんでした。」


「でしょうね。

 我々に来る事件は解決が困難なものばかりですからね。」


「それと眷族の捕食に関して話をしてませんでしたね。」


「それはすみませんでした。

 すっかり失念しておりましたね。

 でも、警部補からある程度の話は伺えたみたいで良かったですね。」


「よくありません!

 眷族と対峙する時の対応が変わる重要な情報ですよ!

 それに課長も人を喰らうのですよね・・・。」


「確かにそうですね。

 私も眷族であるので人の魂はここに在るためには必要不可欠な要素です。

 人が食事を止めると餓死するのと同じく、

 我々は魂を定期的に摂取しないと消えてしまいます。

 この話は戻ってきた時に詳しくご説明しましょう。」


「今後、重要な話を省くのは止めて下さい。

 とりあえず、自分は午後から学校へ聴取に行こうかと思います。」


「分かりました。

 学校へは上守区警察署から連絡が入っているはずですが

 こちらからも連絡しておきます。」


「よろしくお願いします。」


通話を終了するとお腹の虫が鳴った。

そう言えば、ここに来てから飲み物以外に食事をしていなかったことに気付く。

時間を確認して午後まで時間があったのでどこかで食事をしてから

学校に行くことにする。

聡一郎は食事の出来る場所をLLDで検索しながら大通りへと向かっていった。


書くペースが遅いので投稿が不定期になりますが

暖かく見守って頂けましたら幸いです。

本作品に対するご意見・感想がありましたらお待ちしております。

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