前編 ソイツと彼女
これは実話を元にしたフィクションです。
俺は家に居た。
普通に自分の部屋でくつろいでいた。いつもと同じだ。
友達とメールをしつつ、ゲームをして。
ふと時計を見ると、もう6時を回っている。この季節に6時ともなると、外はもう暗みを帯びて、太陽は山に半分以上隠れようとしている。
いつもと変わらぬ生活を、いつもと同じように過ごしている。それだけだった。
が、
ピーンポーン
チャイムが鳴った。
だれか客でも来たんだろう。もしくは郵便か。
しかし俺の予想を反して内線が鳴り、
「友達が来たよ」
と、母がそう告げた。
友達。
誰だろう?
思い当たる顔を何人か思い浮かべて、俺は玄関を出た。
が、
「よう、滾」
「は?」
思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
玄関の外に居たのは、俺が頭に思い浮かべていた友達の誰でもなく、確か中学の時に同じクラスだった、俺の家に二回程度来た事のある、知り合い以上友達未満な奴だった。
何で今更俺の家に?
中学を卒業して以来、コイツとは会った事も無かったし、どこの学校に進学したとかも全く知らない。
そんな俺の軽い混乱を他所に、ソイツの顔は晴れ晴れとしている。
中学のときより幾分か雰囲気が変わっている気もした。
「どうしたんだ?」
そう尋ねずには居られなかった。
が、ソイツの反応は曖昧で、
「いや、別に」
としか答えない。
不振に思いながらも、ふと、俺はここで気付いた。
否、本当の事を言えばさっきから気付いていたのだが、嫌な予感がして敢えて見ないようにしていたのだ。
偶然そこに立っているだけ、と、無理に自分に信じ込ませようとしていた。
女性。
ソイツから一歩下がった辺りに、女性が立っているのだ。
ああ、嫌な予感がする。
「あ〜・・・、その人・・・は?」
誰?と、俺は恐る恐る尋ねた。
その瞬間、ソイツの顔が全力で綻んだ事を、俺は決して見逃したりしなかった。
ソイツは全力で綻ばせた顔で、言った。
「ああ、コイツ?彼女彼女」
ナ、ナンダッテ〜!!??
思わず口に出そうになった「嘘!?」を必死で押さえ込んで、俺は懇親の作り笑いをして見せた。
「ああ、そうなんだ」
言いながら、HAHAHA。と、白い歯を見せて笑ってみせる。
はっきり言って、この衝撃たるや並ではない。
いや、友達に彼女が出来たから驚いているわけではない。
彼女がいる友達なんて腐るほどいるし、実際友達が彼女を連れて遊びに来たこともある。
俺は“ソイツ”が彼女を連れてきた事に驚いているのだ。
『可も無く不可も無く』、という言葉があるが、あの言葉どおり、コイツは不可では無いにしろ、確実に『可』では無いのだ。
だったらお前はどうなんだ。と言われたら俺だってそうかもしれないが、まぁとにかく、「彼女が出来た」という事に驚かざるを得ないような奴だ、という事である。
「まぁ、何だ、用があってきたんだろ?入れよ」
と、俺は石のように硬く握った拳をポケットに潜ませて、ソイツとソイツ彼女を家に上げた。
因みに、俺がさっきからソイツを“ソイツ”としか表記しないのは、結局最後まで“ソイツ”の名前を思い出せなかったからだ。
俺とソイツの関係が、如何に細い糸程度でしかつながっていなかったかがよく解る。
閑話休題
ともかく、用があるから来たのだろう。それには違いないはず。
俺は二人を自分の部屋に招き、ソイツの彼女を椅子に、俺はベッドに、そして“ソイツ”をダンベルやらベンチやらが散乱している床に座らせた。
「で?」
何しに来た?という意味合いを込めて、俺はソイツを見た。が、
「お前こんなの持ってたんだ?」
何故かスルーされ、ソイツは床に置いてあったダンベルを手に取った。
「・・・ああ、最近鍛えててよ」
偶然目線が離れただけだろうか?それとも意図的に視線を外されたのだろうか?
解らないが、ソイツは一向に何しに来たのかを言おうとしない。
それどころか、何をしに来たのかすら見当もつかない。
それに関して、実際のところ俺は別に構わない。久しぶりの友達(?)に会えて、まあそこそこ嬉しかったりするし。
が、ソイツの彼女に関してはそうは行かないだろう。
どっちかというと、あまり初対面の人とは話が出来ないタイプのようで、かなり気まずそうに椅子に座っている。
このまま長時間なにもしないわけにはいかない。
「なぁ、お前何しに――――」
「あ、悪い、ちょっとトイレ借りていい?」
「―――来・・・、あ?トイレ?ああ、いいよ」
ソイツは俺の話を断ち切って、足早にトイレに向かった。
どうも怪しい。
俺はアイツの挙動に不振を感じながら、はて、と顔を上げた。
アイツの彼女が椅子に座って、気まずそうな顔をしている。
そういえば、俺もめっちゃ気まずい。
何で友達(?)の彼女と二人っきりでアイツを待たねばならんのだ。
そもそも、俺はゲームの途中だったんだ。
ゲームはつけっぱだし、メールもしてた途中だし。
テレビ見れば、ゲームはポーズ中で、画面にゲームのマップが前面に出てるし、あ、気付けば携帯ピカピカ光ってんじゃん!メール来てるジャン!
それら全てを何とかしたいのだが、いかんせん、その両方を彼女が座っている椅子に邪魔されてしまっている。
あまりの気まずさに俺も席を立とう、とした次の瞬間!
「あ、あの・・・」
彼女が口を開いた。
「はい?」と俺。
「すみません・・・。ほんと・・・、急に来ちゃって・・・」
申し訳なさそうに、彼女は俺に頭を下げた。
「あ、いや、別にいいんですけどね」
俺は半分立ちそうになった腰を再びベッドに下ろし、まだ続く彼女の話に耳を傾けた。
「あの、ほんと、迷惑じゃないですか?」
「いや、別に迷惑ってわけじゃないです」
俺は首を横に振った。
何でこうも気にしてるのだろう?そんな事をふと思ったとき、彼女の口からとんでもない一言が!!
「けど、今まで行った家の人も、ずっと迷惑そうで・・・」
ん?何?
『今まで行った家の人』?
「え?何?どういう事?今まで行った家の、・・・って?」
もの凄い気になる。
と、彼女が言い辛そうに口を開いて、
「あの人、学校が終わってからずっと知り合いの家回って、彼女が出来たこと・・・、私の事見せて回ってるんです・・・」
爆弾級!!
痛ッ!痛たたたたたたッ!!
痛すぎる!
ここまでくると、爆弾もC4並の威力だ!
アヤツめ!とうとうそこまで落ちぶれたか!!
「今日、もうここで5件目なんです」
そんなにかッ!!
C4から核爆に格上げ決定!
すでに5人もの被害者が!?
なんてこった!!俺の前に五人もの『彼女見せつけ』という暴行を働かれた被害者が居たとはッ!!一人ぐらい死んでてもおかしくないぞオイ!
俺の反応を見てだろう。彼女の申し訳なさ加減が顔に出ている。
「ほんと、迷惑ならもう帰りま――――」
ガチャ
「悪い悪い、長くなっちゃって」
彼女の言葉を遮って、ソイツが戻ってきた。
その瞬間、彼女は口を閉ざして俯いてしまう。
俺は時計を見た。
もう6時を結構回って、外はほぼ真っ暗だ。
彼女を帰すなら今が好機。
「なぁ、彼女どこ住んでんだ?」
俺はソイツにそれとなく聞いた。
「あ?○○だよ」
ソイツが口にしたのは、俺の家の方から電車で30分程度は掛かる場所だった。
今から駅に向かって、そこから乗っていったとしてもつくのは7時過ぎ。下手した8時に近い。その頃にはもう真っ暗だ。
しかしそこまでコイツはついていけないだろう。家こっちだし。
「なぁ、もう帰ったほうが良いって。もう暗いし、彼女駅まで送ってやれよ」
親切心で言った俺。が、今度はソイツの口からとんでもない一言が!
「ああ、でも、これから渡辺の家に行かなきゃいけないんだ」
まだ行くのかよッ!もういいだろッ!
そうまでして見せ付けるものでもねぇぞッ!
ソイツという暴走機関車は走り続けて、どんどん日は沈んでいった。
これは実話を元に作ってある話です。
実話9に対してフィクション1程の割合で構成されています。
ほぼ実話です。違うのは出てくる少人数の名前くらいです。
ともあれ、楽しんで頂ければ幸いです。




