彼の心にはJAZZが染み渡る
初めて作成しました。
よろしくお願い致します。
寂しい気持ちを癒すものは何か?
人によって感覚は違うものだ。
彼には日課がある。
家から歩いて、しばらくすると、見慣れた看板が目に入ってくる。
看板には名前は無く、紅葉模様が3枚横並びに、色は一般的に秋に見る茶色なのだが、少し薄汚れている。
逆に安心感を与える。
中に入ると、どこからとも無く、真空管プレーヤーから流れてくる。
耳から脳へ心地よく響く突き抜ける音、ピアノの響き、サックスのメロディー。
客は少なく、各々、好きな酒を呑みながらリラックスしているようだ。
カウンターに腰を下ろす。
彼はいつものウイスキーを頼む。
グラスに氷を入れる音、そこに注ぐウイスキーの音、彼にはその音を感じるだけで、なんとも心地い響きになるのだ。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
一口、二口と、少しづつ呑み続ける。
今日は誰かに話したい気分だ。
彼はいつもは無言で、2、3杯呑み終えると店を後にするのだが、今日は話さずにはおかない。
「マスター。」
まるぶち眼鏡、髪は長く、後ろに束ねて簡単に括っている。若くはないが、年輪を感じさせる大人の色気がある。
「どうしましたか?」
柔らかい笑みを讃えて聞いてくる。
客はいなくなっていて、マスターと2人きりだ。
好きなJAZZは変わらず鳴り響いている。
「人を殺してしまいました。」
言葉の重みが、バーの空間を包み込む。
マスターは、表情を変えず、グラスを丁寧に拭いている。
「大好きな人を殺してしまいました。今はその帰りです。私にはそれしかありませんでした。自分勝手であることは分かっているんです。何故殺してしまったのか?わかりません。動機があるのか?わかりません。
だが、やった事は事実なのです。好きで、好きで仕方なかったのです。」
マスターの表情に変化は見られない。
ただJAZZが流れるのみ。
真空管から響くメロディーが空間に染み渡る。
「自首、しようと思います。」
マスターは、おもむろにカウンターの下から、1枚のレコードを取り出す。
「これが、あなたの何かの励みになりますように。」
バーを後にし、自宅に着く。
酔いはまだ冷めていない。
マスターから貰ったレコードを取り出し、レコーダーにかける。
「これは!」
レコーダーから流れてくるメロディーは奇しくも、彼が愛した人との思いでの曲だった。
涙が、頬を伝い溢れ出してくる。
これで。よかったのだろうか。
殺しす必要が、あったのだろうか?
だが、自首をした所で死んだ人は帰ってこない。
彼は家を出る。
彼がその後、どうしたか。誰もしらない。




