第9話 改善という武器
登録者は108人からじわじわと伸び、三日後には183人になっていた。
炎上は確かにあった。地方議員からの指摘もあった。だが、正義が見ていたのは感情の波ではなく、数字の波だった。
登録推移グラフを拡大する。
炎上当日:+21
翌日:+18
その翌日:+12
「減ってない」
むしろ加速している。
正義は管理画面を開き、流入経路をさらに細かく分解した。
・地方議員ポスト経由:46人
・YouTube経由:31人
・自然検索:14人
・直接流入:8人
「議員が最大広告主かよ……」
皮肉だったが、事実だ。
だが同時に、別の数字が気になった。
平均滞在時間。
国予算ページ:1分48秒
地方予算ページ:3分52秒
倍近い。
「刺さってるのは地方か」
正義はホワイトボードに書き出す。
“仮説:生活に近いテーマほど滞在時間が伸びる”
これまでの発信は「構造」寄りだった。だが、ユーザーは「自分の自治体」に反応している。
チャットログを読み返す。
“うちの市も見たい”
“自分の町もお願いします”
“地元議会の議事録、探します”
参加意欲がある。
「ここだな」
正義は機能追加を決めた。
《自治体リクエストフォーム》
自治体名を入力すると、優先順位に反映される仕組み。さらに、資料提出リンクも設置する。
翌日公開。
登録者は192人。
リクエストフォームの入力は初日で17件。
「17%か……」
エンゲージメント率は高い。
だが問題は、広告費だ。
残額は約6万円。CPAは依然として2,800円前後。YouTube成果報酬は1,500円で回せているが、拡張には限界がある。
正義はエクセルに試算を打ち込む。
想定月額:980円
継続率仮定:70%
年間LTV:約8,000円
「CPA3,000円でも回収可能」
問題は、課金タイミングだ。
100人規模で課金を始めれば反発が出る。だが、早すぎても遅すぎても機会損失になる。
凛に送る。
「課金、いつだと思う?」
少し時間があって返信。
「価値が体験できた後」
「どれくらい?」
「最低3回の接触」
広告業界のセオリー。人は三度触れて初めて信頼する。
正義はデータを確認する。平均閲覧回数は1.8回。
「足りないな」
その夜、新機能を実装した。
《週次サマリー配信》
今週追加された自治体、報道比較の更新、人気ページランキング。
“継続的接触”を意識した設計。
配信翌日。
登録者:205人。
ついに200を越えた。
だが正義が見ていたのは、登録数ではない。
既存登録者の既読率:82%。
週次サマリークリック率:61%。
高い。
「これはいける」
事業としての骨格が見え始める。
炎上は一過性だ。だが、改善は資産になる。
そのとき、チャットに一件のメッセージが届いた。
“これ、月額いくらになる予定ですか?”
正義は画面を見つめた。
誰も課金を強制していない。だが、ユーザー側から問いが来た。
市場は、準備ができ始めている。
登録者205人。売上0円。
だが、KPIは整い始めている。
正義は深く息を吐いた。
炎上ではなく、改善。
敵ではなく、構造。
RE:PUBLICは、思想ではなく、プロダクトとして形を持ち始めていた。




