第7話 100人の壁
登録者は72人。
だが正義の目標は、次の数字だった。
「まずは100」
キリのいい数字は、ただの区切りではない。外に向けて言える“実績”になる。営業時代、何度も経験してきた。30より50、50より100。桁が変わると、空気が変わる。
週明け、正義はダッシュボードを開いた。YouTube経由の流入はまだ続いている。だが勢いは鈍化していた。バズは波だ。永続しない。
登録者:79。
「止まるな……」
焦りが少しだけ滲む。
昼休み、正義は新しい施策を打った。登録者向けアンケート機能を実装する。テーマは一つ。
《次に可視化してほしいテーマは?》
・税金内訳(省庁別)
・政治家発言の変遷
・報道番組ごとの尺比較
・法案成立までのプロセス
送信から1時間で、回答が6件返ってきた。
72人のうち6人。回答率は高い。
「これ、プロダクトになるな」
正義は気づく。RE:PUBLICは“記事”ではなく、“参加型ツール”だ。
その夜、登録者は83人。
だが同時に、Xで小さな火種が生まれていた。
《RE:PUBLIC、結局反○○寄りじゃない?》
特定政党名が伏せ字で書かれている。引用RTがじわじわ増えていく。
正義は画面を見つめる。
どの記事が原因だ。税金記事か。報道比較か。
スクロールしていくと、あるスクリーンショットが拡散されていた。報道比較の表の一部だけが切り取られている。全体を見れば中立だが、そこだけ見れば“偏り”に見える。
「……来たな」
凛に送る。
「切り取られてる」
返信はすぐ来た。
「反応しないのが基本」
「でも誤解される」
「全部説明しようとすると負ける」
冷静だ。だが正しい。炎上対応の鉄則。
正義は、公式アカウントで短く投稿する。
《表は全文公開しています。一次情報と比較基準も明記しています。リンクをご確認ください。》
それ以上は言わない。
翌朝。
登録者:91。
炎上で減るどころか、増えている。
コメント欄には、擁護の声も混じり始めた。
《ちゃんと見れば分かる》
《データ出してるだけだろ》
「健全だな……」
凛の言葉を思い出す。疑われるのは健全。
その日の夕方、登録者は97人。
正義はデスクで落ち着かない。クライアントとの打ち合わせ中も、頭の片隅に数字が浮かぶ。
帰宅後、PCを開く。
99。
一瞬、呼吸が止まる。
画面を更新する。
100。
桁が変わった。
正義は椅子から立ち上がり、何もない部屋で小さく拳を握る。
「100人……」
売上はまだゼロ。だが100人が、自分の言葉を受け取る。100人が、透明性に時間を使う。
そのとき、登録者向けチャットに一件の長文が届いた。
“地方議会の予算も扱えますか? 国だけでなく、地方も不透明です。”
正義は画面を見つめる。
国から地方へ。
スケールが一段、広がる。
そして同時に、広告管理画面の参照元に、再び見慣れないドメインが現れた。今度は、別のテレビ局。
偶然が二度続くと、偶然ではなくなる。
登録者100人。
まだ小さい。
だが、もう無視できない。
正義は深く息を吐いた。
「次は、1,000だ」




