第6話 CPAという現実
登録者は28人。
だが正義の視線は、その数字の“横”にある。
広告費:100,000円
登録者:28人
単純計算で、CPA(1人あたり獲得単価)は約3,571円。
「高いな……」
営業としての本能が先に反応する。思想ではなく、構造ではなく、まずは効率だ。事業にするなら、この数字から逃げられない。
翌朝、正義は出社前に広告管理画面を開き、流入経路を細かく分解した。
・広告直クリック登録:17人
・ブログ記事経由:8人
・X自然流入:3人
「広告弱いな」
直感的に分かる。広告はクリックされているが、登録率が低い。つまり、LPが刺さっていない。
会社に着いても、頭の中はRE:PUBLICの導線でいっぱいだった。
会議中、クライアントのKPI資料を見ながら、自分の事業のKPIを重ねてしまう。
CTR。CVR。LTV。
「……LTVか」
月額980円を想定すれば、年間11,760円。仮に1年継続すれば、CPA3,500円でも回収できる。
問題は“継続”だ。
昼休み、凛にメッセージを送る。
「CPA高い」
すぐに返信が来る。
「改善できる?」
「できると思う」
「じゃあ、やることは明確」
シンプルだ。感情論はない。
その夜、正義はLPを全面改修した。
今までは「理念」から始めていた。
《RE:PUBLICは、透明性を軸にした…》
これを削る。
代わりに一行目を変える。
《あなたの税金は、どこに使われていますか?》
スクロールすると、すぐに登録ボタン。
「参加する」ではなく、
「監視に参加する」に変更。
A/Bテストを開始する。
同時に、切り抜きYouTuberからのメールを開き直す。
《紹介動画を制作します。広告費は成果報酬型も可能です。》
成果報酬。
「リスク低いな」
返信を書く。
《登録1件あたり1,000円であれば可能です。》
しばらくして返信。
《1,500円なら》
正義は数秒考える。
今のCPAは3,571円。1,500円なら安い。
《1,500円でお願いします。》
送信。
――
三日後。
YouTubeに動画が上がった。
《国民スポンサー型メディアが爆誕!?》
サムネは少し煽っている。だが許容範囲だ。
正義はリアルタイムで管理画面を開く。
アクセス急増。
同時接続が跳ね上がる。
登録者数:28 → 34 → 41 → 56。
「……来てる」
心臓が高鳴る。
夜には登録者が72人になっていた。
広告費の消化はゆるやか。だがYouTube経由のCPAは1,480円。想定通りだ。
「これなら回せる」
正義は初めて、事業としての手応えを感じた。
だが、同時に別の変化も起きていた。
コメント欄。
《このメディア、結局どこ寄り?》
《裏にスポンサーいるだろ》
《データ出してるのは評価する》
賛否が明確になってきている。
登録者が増えるほど、疑いも増える。
夜、凛に報告する。
「72人」
「いいペース」
「でも、疑われ始めてる」
少し間があって返信が来る。
「それ、健全」
「健全?」
「誰にも疑われないほうが怖い」
正義はスマホを置き、PCの画面を見つめた。
登録者72人。売上0円。
だが、LTV想定ベースではすでに将来売上80万円規模のポテンシャル。
数字が、未来を予測し始めている。
そのとき、管理画面の右上に小さな通知が表示された。
“アクセス元:テレビ局ドメイン”
正義の手が止まる。
偶然かもしれない。だが、心拍数が上がる。
登録者は72人。
まだ、ただの小さなプロジェクトだ。
それでも。
構造は、こちらを見始めている。
正義は深く息を吸った。
「ここからだ」




