第5話 最初の露出
登録者は15人。
そのうち3人は自分のサブアカウントだと考えると、実質12人だ。それでも、正義にとっては十分すぎる数字だった。ゼロではない。確実に、外側に届いている。
問題は、例のメールだった。
件名:取材のお願い
差出人は、月間数万PV規模の政治系ブログ運営者。大手ではない。だが、検索に強いと聞いたことがある。
「早すぎるだろ……」
まだ公開して一週間も経っていない。登録者も15人。にもかかわらず、見つけられている。
正義はメールを開き直す。
《RE:PUBLICの取り組みについて興味があります。オンラインで30分ほどお話できませんか。》
取材。
露出は拡大の近道だ。だが、リスクでもある。発言は切り取られる可能性がある。まだ思想も、運用も固まっていない。
凛にスクリーンショットを送る。
「どう思う?」
既読がつくまでが、やけに長い。
「受けるべき」
短い返信。
「理由は?」
「露出は成長のレバー。怖がってたら拡大しない」
正しい。広告営業の思考だ。機会損失は最大の損失。
「でも、まだ脆い」
「だからこそ、今のうちにポジション取るの」
ポジション。
何者かになる前に、自分で定義する。
正義は深呼吸して、返信を書く。
《ぜひお話させてください。条件として、記事公開前に事実確認の機会をいただけると幸いです。》
送信。
数分後、了承の返信が届く。
日曜夜、Zoom。
――
当日。
背景を整え、カメラ位置を確認する。匿名運営だが、顔は出さない方針だ。音声のみで対応する。
「本日はありがとうございます」
落ち着いた男性の声がイヤホンから流れる。
「こちらこそ」
最初の質問はシンプルだった。
「なぜ、RE:PUBLICを始めたのですか?」
正義は、給与明細の話はしなかった。個人的な怒りではなく、構造の話をする。
「メディアごとの扱いの違いを、横並びで見られる場所がないと感じたからです」
「特定政党への問題意識はありますか?」
「ありません。対象は構造です」
「中立は可能だと思いますか?」
一瞬、言葉に詰まる。
「完全な中立は難しい。でも、基準を公開することはできると思っています」
30分はあっという間だった。終了後、正義は椅子に深くもたれた。汗が背中に滲んでいる。
「言い過ぎたか……?」
すぐに録音データを確認し、メモを取る。どこが誤解を生みそうか。どの表現が曖昧か。
翌日、記事が公開された。
タイトル:
《国民スポンサー型メディア「RE:PUBLIC」とは何か》
正義は恐る恐るページを開く。
大きな誤解はない。過激な見出しもついていない。淡々と紹介されている。
しかし、コメント欄は静かではなかった。
《また自称中立か》
《透明性とか言いながら裏あるだろ》
《応援したい》
《面白い取り組み》
賛否は混ざる。だが、確実に「存在」が認識された。
その日、登録者は28人になった。
広告経由より、記事経由の流入が多い。滞在時間も伸びている。
「……伸びてる」
正義は思わず声を漏らす。CPAは依然高い。だが、オーガニック流入が出始めた。
夜、凛に報告する。
「28人」
「いいじゃん」
「でも、コメント荒れてる」
「荒れないと拡散しない」
凛は淡々と言う。
「大事なのは、離脱率と継続率」
正義は管理画面を開く。既存登録者の既読率は80%。返信率は40%。高い。
「……続くかもしれない」
その瞬間、別の通知が届く。
件名:広告出稿のご提案
送り主は、政治系YouTuberの切り抜き運営者。
《御媒体を紹介する動画制作に興味があります。》
早すぎる。
まだ28人だ。
だが、構造はもう動いている。
正義は画面を見つめた。
違和感は、露出に変わり、露出は数字に変わり始めている。
これは思想の物語ではない。
これは、事業の物語だ。
正義は椅子から立ち上がり、窓の外を見た。
東京の夜は、相変わらず明るい。
登録者28人。売上0円。
だが、グラフは右肩上がりだ。
「まだ、いける」




